「テリーさんが?」 「はい。あの方は貿易商だと伺いましたが。」 「ああ。僕はここに来てから知ったんだが、教授の教え子でジャックも信頼のおける人だといっていた。そんな人がどうして。」 ケインの顔には信じられない、という色が現れている。 「私は当初より皆様方の行動を逐一王に報告しておりました。するとテリー様の動きがおかしいことに気付いたのです。そして配下の者に命じずっと尾行させておりました。」 「報告?ということは僕を含め他のメンバーの事も報告していたのか?」 不快そうに顔を歪めるケイン。額のアザが薄く浮き上がる。 「申し訳ありません。ですがこの件に関しましては皇女は全く関与しておりません。ご安心下さい。」 ジャスミンは関与していないということがわかってホッとしたものの、別の疑惑が湧きあがった。 「ということはあの夜も僕達を見ていたということか?」 「あの夜?・・・僕達と申しますと・・・アア、あの夜の事でございますか。はい。ですがお二人が何を話し、何をしていたかは全く覚えておりません。はい。神に誓って。」 「覚えていないということは既に王に報告済みということか・・・・仕方ない。そのお陰で僕はこの谷の人たちから良くしてもらってるんだから。・・・・・!!ということはあの男達も見たのか?!」 「はい。私は風上に潜んでおりましたので奴らの顔ははっきりと見ました。けれど話の内容は残念ながら聞き取ることができませんでした。」 「誰だったんだ、そいつらは!」 「二人でした。お1人はヤコブ様。そしてもうお1人はテリー様でした。」 思いもよらぬ名前が出てケインはショックを受けた。 「大臣とテリーさんが!・・奴らはジャスミンと言った。しない手はない、とか交換条件という言葉も聞いた。だが僕が聞いたのはそれだけだった。一体奴らは何を企んでいるんだ?」 「そこなのです。ヤコブ様は以前より現王の後目(あとめ)を虎視眈々と狙っておりました。叔父と姪という間柄でありながら皇女と結婚して王になろうとしていたのです。ところが王は許しません。勿論皇女も叔父であるヤコブ様を嫌っておりましたので今まで手を出せませんでした。ところが何故かあなた様方がいらっしゃってからというものヤコブ様の力が増大してきたのです。 力・・・と申しましても財力にという意味です。私達が調べましたところテリー様の力をもってすれば可能であることがわかりました。 ケイン様。この谷の花が何であるか皇女にお聞きになられたでしょう。ここは芥子(けし)の谷と呼ばれている程見渡す限り芥子(けし)の花が一年中咲いております。その花が最近異常に減っているのです。それがどうもテリー様が花を大量にイギリスへ流しているためらしいのです。この花は薬にもなるのですが、一方では毒にもなり、悪用しますと人間を生きる屍(しかばね)にしてしまうそうです。またとても高い値がついていると伺いました。ジェイムズ様が私の父に教えて下さったのです。清の国へ旅をなさった折、そういった人たちを数多く見たのでその悲惨さもよく知っていると悲しげに話しておられたそうです。その花をどうやらテリー様が金儲けのために本国へ売買しているらしいのです。」 「父からその話は聞いたことがある。しかしテリーさんは花をイギリスに運んで一体どうするつもりなんだろう?・・・・!!まさか、イギリスに広めるつもりじゃ! カシミール!のんびりしている場合じゃない!急いでテリーさんのやっていることを突き止めて止めさせなければ!」 急いでその場を立ち去ろうとするケインをカシミールが引き止めた。 「お待ち下さい。テリー様については配下の者が引き続き調査しておりますので結果を待ちましょう。それよりもう一つ。あなた様にお知らせしなければならないことがあるのです。」 「僕に?」 「はい。とても重要な事。ジャスミン様のことでございます。」 カシミールの意味ありげな言葉にケインの額に三日月のアザがはっきりと現れた。
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