年が明け、透き通るような青空がこれから続く寒い冬を忘れさせようとする。 昨夜、降った雪がうっすらと木々を白く染め、アスファルトからの冷えた空気が、服部の足下にまとわりつく。 今日から始まる新学期にウンザリしながら足を進める。 後ろから軽い足音が聞こえたと思ったら、理真の声が響く。 「服部君。大丈夫?」 心配そうに服部を覗き込むその目は特に何も語ってはいない。 理真は少し笑いながら話し始めた。 「なんか、変な夢を見たの。何だと思う?」 「僕が、怪盗ハットリだった夢?」 「え?どうして分かったの?」 理真はキョトンと立ち止まった。 そして、そのまま視線は服部の背後に移る。 自分の背後に向けられた理真の視線に気付き服部は振り返る。
「ロビ…」 口に手を当て、服部はロビンが立っている所まで走った。 あの日以来だった。 ロビンはフェラーリの前で長い髪を掻き上げてから、小さく手を振る。 「大丈夫なのか?」 大道虎之介は次の日から平気な顔して仕事を始めていたのだ。 周りの者は誰も虎之介が重傷を負っている事に気付いていない。 ロビンは極上の微笑みで肩を竦める。 「いやね。私を誰だと思っているの?」 それは、あまり考えたくない。 「なによ。その顔。あの日泣いた顔はあんなに可愛かったのに」 服部はロビンから顔を背ける。 どんなに記憶を遡っても泣いた記憶はあの時、一度だけだ。 唯一、服部の逃げ込めた場所がロビンの所だった。 「うるさい。オレは元々可愛いんだよっ」 服部は照れたような、怒ったような中途半端な表情を浮かべた。 「あら。お言葉ね。あんなに優しく慰めて挙げたのに」 「アレが、優しくだと」 服部は優しくされた覚えはないと言わんばかりにロビンに詰め寄る。 笑いを堪えるロビンは、ポカンと口を開けこっちのやり取りを見ている理真に気が付いた。 「優しくして挙げたじゃないこんな風に…」 ルージュの似合う顔がグッと近づいた。 変装の得意なロビンだが、ロビンの顔は、実際、素顔の虎之助の顔に薄く化粧しただけだった。 「ちょっっー。ロビッ…」 理真のあっけにとられた顔を服部の肩越しに見ながら、ロビンは笑い出した。 ようやくロビンから解放され、服部は叫んだ。
「オレには、そんな趣味はない」 そう言って走り出した服部にロビンは追い打ちを掛ける。 「ママが恋しくなったらいつでもおいで」 朝の光はロビンの華やかな微笑みを、明るく照らす。
全くアイツは何考えているんだ! だが、アイツには一生敵わない。 服部は確かにロビンに救われている。
アルは結局見つからなかった。 それらしき遺体が発見されたと言うニュースも聞いていない。
服部の両親は何一つ訊こうとしなかった。 いづれ二人にいろいろな話をすることがあるだろう。 そして、それは遠い未来ではない。
「オッス。元気か?」 いつもの声が服部の鼓膜を振るわす。 「昨日会っただろ。全く毎日毎日、我が家まで来てくれてご苦労様だよ」 「嬉しいだろ?怪盗ハットリの尻尾を掴むまでは、何処までもついて行ってやる」 冬休みの間中、聴かされた文句にウンザリしながら、徐々に暖かみを持つ太陽を眩しそうに見る。
「服部。いい加減、教えろよ。あの夜、何しにおもちゃ屋に…」 「テツ。知っているか?クリスマスって…」 テツのいつもの追求を逃れようと会話を変えた服部に今度はテツが溜息を吐く。 「冬至だろ。太陽が一度死んで、生まれ変わる日。去年聞いたよ」
朝の太陽がうっすらと木々に積もった雪を溶していく。 溶けかけの雪は光に反射し、キラキラと輝き始めた。
そして、季節は巡る。
「怪盗ハットリは、まだ見つからんのか!」 鬼平の声が響き、少年のシルエットは月に浮かぶ。
―完―
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