すでに準備の出来ている克彦はいつものようにリビングのソファで新聞を読んでいた
「克彦、講義に遅れちゃうわよ」
「今日は1時限は休講だから」
「そう、じゃお母さん先に出ちゃうわね」
「いってらっしゃい」
仕事に出掛ける母親を見送って克彦は時計を見上げた
「少し早めに出るか」
通い慣れた大学までの道のり
いつもの大きな門の前にその人物が立っていた
黒い眼と髪
長く伸ばされた髪を一つに縛りたたずむその青年に克彦は何故か恐怖を感じた
関わってはいけないと離れて通り過ぎようとした
「セシル」
突然声を掛けられ克彦は振り返ってしまった
「セシル」
青年は克彦を見つめたままもう1度言った
留学生の名前か?だが克彦には覚えが無い名前だった
「ごめん。ちょっとわからないから他の人に聞いてくれないかな?」
立ち去ろうとする克彦に青年は手を伸ばした
「バカか?おまえを呼んでるんだよ」
イラつき気味に青年は言ったが怒りたいのは克彦の方だった
名前も知らない相手にバカ呼ばわりされたのだから
「手を離してくれ。俺はセシルなんて名前じゃない」
「あっ?冗談も大概にしろよ」
青年のでかい態度に克彦も怒りを表情に出した
「そっちが俺をバカにしてるんだろう?俺は君の遊びに付き合ってるほど暇じゃないんだよ」
青年の手を力いっぱいに払いのけてずかずかと克彦は歩き出した
ボー然と立ち尽くす青年はバツの悪そうに頭を掻いた
「まさかこんな事になるなんてな…」
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