夢を見ていた
懐かしい夢だった
でもそれはいつの頃の記憶だろう?
優しい手に導かれて
穏やかな声に囁かれて
俺の名前を呼ぼうと唇が動くけれど…
Pipipipi pipipipi
目覚まし時計の規則的な音に克彦(かつひこ)は目を覚ました
「また同じ夢か」
アラームを止め、ベッドから出た
いつもの朝が始まった
「おはよう。克彦」
「おはよう。母さん」
朝食の用意されたダイニングテーブルに着く
食事の数は3人分
「父さんは寝てるの?」
コーヒーを注いでいる母親に克彦は訊ねた
「えぇ。さっき原稿が上がったからきっと夕方まで起きないわ」
父親は時代劇からSFまで幅広く手掛ける小説家で脚本家でもある
「母さんも今日はドラマの録りじゃなかった?」
「雪彦が出掛けたら私も行くわ」
母親は女優で父親が脚本を手掛けた映画に主演したことがきっかけで2人は結婚した
2人の年齢差は12個
すでに結婚していた父親は母親と9年の不倫の末に前妻と離婚し母親と再婚した
「おはよぉ〜」
眠そうに目をこすりながらダイニングにやって来たのは末の弟、雪彦(ゆきひこ)であった
「おはよう。雪。また夜更かししたのか?」
隣の席に着きオレンジジュースを飲みながら雪彦は頷いた
「チャットしてたら3時になってた」
「雪彦、パソコンは12時までの約束よ」
母親もテーブルに着いた
「ごめんなさい」
約束の時間を3時間も過ぎても母親は軽く叱るだけで末っ子の雪彦には甘い
「程ほどにしとかないと目も悪くなるぞ」
「うん」
そういう克彦も7つしたの弟には結局甘いのだが
「早く食べないと遅刻しちゃうわよ」
雪彦は慌ててトーストにかじりついた
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