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作品名:病室前という名の停留所 作者:ふたば

最終回   天国のような / こころとからだ





「天国のような」



よかったねって言ってほしい
もう病気じゃないよ、よかったね
よかったねって言ってほしい
もうお部屋も汚さないよ、よかったね
よかったねって言ってほしい
もう痛み止めもいらないなんて、よかったね
よかったねって言ってほしい
もう分かってもらわなくていいから、よかったね
よかったねって言ってほしい

よかったね、よかったね
わたしがあるく
わたしのなかの
わたしだけの
天国















「こころとからだ」



こころが疲れていることを知るのは
実はとてもむずかしい
なぜならそのことに
まだ気付いていない時にこそ
こころは懸命に生きようとしているから

逆にいえば
こころが懸命に力を張りつづけるうちは
それに気付かずに
いさせてくれているのかもしれない

こころがつぶれていたことには
遂につぶれてしまったあとで気付くに違いない
それから、そのあいだずっと、そのこころを
からだが懸命に支えようとしていたことにも

一年前の僕は、糸が切れるようにある仕事を辞めた
朝、電車のなかで決めて、その朝のうちに辞めた
それから新しい仕事のことを考えるたびに吐いた
生活のことを考えて吐いた
がんばらなければ、と奮い立とうとして、吐いた
将来の不安を考えては吐いていた

その嘔吐はからだのサインのように捉えるのが
きっと正しい答えなのだろうけど
いまになって、からだが
一度も泣こうとしなかったこころの変わりに
泣いてくれたのではないかと思うようになった

そう思えるだけ
からだは懸命で健気な気がするのだ

そしてようやく吐かずにすむようになった頃に
まるで合わせるかの様にからだは調子を崩し
そのときにからだの方がずっと重たく
蝕まれていたことを知った


それからもうすぐ半年が経とうとしていて
僕のこころはいま懸命に
からだを支えようとしてくれている

そしてからだも少しずつだけど
僕のこころに応えようとしはじめたところ

負けるな、たたかえ、容赦するな、
生きよう、生きよう、生きようと











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