「秋の空」
車椅子 僕は銀杏ひろって過ごす
時間が来ても戻ろうとせず ああ、おかあさん、おかあさんと
病気の黒いかたまりが 空に揺れては吸いこまれていく
「627号」
中学生 全身に包帯の私は 外から両目だけがのぞく
早稲田の学生は 車椅子を力強く押して よく散歩に連れ出してくれた
見舞いのない男 日毎に調子は悪くなって カーテンも開けなくなった
髪のない頭は 毎日、絵を描いていた あと一年と三ヶ月なんだ
窓を開けないから 空気がいつも湿っていて
病棟を移る日に 学生は車椅子を押してくれた 男には声をかけられなかった
髪のない頭は よく挨拶しにきてくれたなあ と 頭をなでていた
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