まだ、身体を刺すような寒さが続く、冬の終わり。 漸く、辛く長い受験生活は終わりを告げた。 第一志望大学、無事合格。 合格通知を見たとき、電流が走ったように身体が痺れた。それから一気に喜びが溢れた。 すぐ詩緒にメールで知らせた。
S〔合格〕 今通知が来た! 合格した!
S〔オメデトウ!〕 すっごーい! やったじゃん! おめでとう!! 嘉月が合格してあたしも凄く嬉しい! あたしの結果はまだなんだけど、受かってるかなー…。心配。 結果が判ったらすぐメールするね!
その数日後に詩緒からのメール。簡潔だったけど、喜びに溢れていた。
S〔祝!〕 大学受かったー!! やったー! 凄く嬉しい! あたしはこれから東京で頑張ります!
S〔おめでとう〕 志望校合格おめでとう! 本当に良かった。詩緒、頑張ってたもんな。 俺も京都で頑張るよ。
悟流は地元から通える国立大に合格。 ぼくとしては、何故、悟流がその大学にしたのか謎だった。悟流ならもっと上を狙っても良かったのに。実際、もっと上に行けた筈だ。地元から通える国立大にした理由を悟流に訊くと、地元以外の水を身体が受け付けないから、という理由だった。確かに地元の水は美味しいけれど……。悟流にとっては、それが最重要優先項目だったのだろう。
まだ肌寒く、桜の花のピンクが少しずつ覗き始めた頃。 卒業式。 在校生のときは全く聞いていないPTA会長の話や校長の話、送辞に答辞も全部聞いた。そういうところで自分が卒業生なんだと実感した。 だけど、式自体はあまり感動しなかった。号泣している卒業生や保護者は当然居たけれど。 みんなと離れ離れになるのは確かに淋しいけれど、大学に行くって、その先の社会に出て行くっていうのは、そういう事だ。それまでのコミュニティを脱皮して、新たなコミュニティでやって行く。それだけ。それまでの仲が良かった人たちとは、そこで連絡が途絶える訳じゃない。自分が関係を続けたいと思う限り連絡は取れるし相手とも繋がっている筈だ。 不安は確かにある。でも、それ以上に、ぼくは、これからの生活への期待が大きかった。 ぼくは早く地元(ここ)から出たかった。 この場所から抜け出して、本当に自分と見詰め合って行こうと思った。 そう、脱皮だ 今まで自分を覆い隠していたもの全てから脱け出すのだ。 新しい場所で、全くぼくを知らない人と出会って、少しずつお互いを知り合っていく。 もう、ぼくは恐れない。他人と接する事を。ちゃんと向き合って話をする事を。 今まで慣れ親しんだこの地から出て行く事で、本当に自由になれる気がした。 ぼくに絡む全ての鎖が解かれる気がした。 きっかけをくれたのは、気付かせてくれたのは……
詩緒。 会いたい。只、ぼくは今、君に会いたい。
結局、詩緒とは連絡できないまま京都に発つ前日を迎えた。 メールをしようと何度も思ったけれど、何度もメールの文章まで作って送信しようと思ったけれど、最後の最後で躊躇われて出来なかった。 「会って、どうしたらいいんだろ」 ぼくは京都に、彼女は東京に行ってしまうのに、今会うことに何の意味があるんだろう。 お互い、それぞれの場所で頑張っていくという時に、此処に変に思いを残すようなことをして何があるんだろう。
もうすっかり外は暗くなり、机の電気スタンドが部屋中をぼんやり照らす薄暗い自分の部屋で、ぼくはベッドの上で壁に凭れていた。手には携帯電話。ぼくはしばらく携帯電話の画面を見詰めていた。 ライトが消えて暗くなっていた携帯電話の画面が光る。メール受信中の表示。 もしかして、と思い、鼓動が高鳴る。画面の上方にスクロール表示される文を目で追う。メールタイトルの後に続けて文字が流れていく送信者の名前は…… 「悟流かよ」 肩を落とすと同時に大きく息が漏れた。
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