ぼくは目を伏せ、深呼吸して心を落ち着かせる。 「……独り、だったんだ。いつも淋しかった。言いたい事があったけど、言えなかった。それを言うと、もっと辛くなると思っていたから。でも、言わずにいるのも辛かったんだ。一人だけでもいいから、俺の事、解ってくれる人が欲しかった。でも、誰に頼ればいいのか、それさえも解らなかったんだ。言いたかったのに、ずっと……」 「言っていいよ。あたしがちゃんと聞いてあげるから。大丈夫だよ」 辺りは既に闇が覆いつつあった。 地平線際に残るオレンジ色。 空に瞬いている星。 髪をそよがせる風。 変わらない。 大丈夫だ。 言葉を言いかけたその時、 何故か泣きたい気分になった。
「俺を独りにしないで。ずっと俺の傍にいて」
詩緒の手が優しくぼくの頬に触れる。 「嘉月、泣かないで」 詩緒の目から涙が溢れていた。 「泣いてるのは詩緒だろ?」 ぼくは詩緒を見て、力なく微笑んでみせた。 「嘉月もだよ」 自分の頬に涙が伝っているのに気付く。 ぼくが、泣いている……。 可笑しかった。でも、笑えなかった。 「ずっと言いたかったんだ。ずっと孤独で、淋しくて、人恋しかったんだ……」 詩緒の細い腕が、ぼくの頭を引き寄せて優しく包んだ。 頑なに閉じた心が解れていく気がした。 涙が止まらない。 「ずっと、ずっと独りだと、そう思ってたのに、みんな俺の事、心配してくれてたんだ。求めれば何時だって手を差し伸べてもらえたのに……。自分からは言えなかった。もう、自分からは言えなくなってた」 「ずっと独りで頑張って来たんだよね。ずっと自分を抑えて来たんだよね」 詩緒の声は少し震えていた。 「あたし、変わらないから。嘉月と遠く離れても、嘉月に好きな人が出来ても、あたしに好きな人が出来ても、ずっと変わらない。嘉月の事、ずっと大切に思ってる……。だから、怖がらないで。自分独りで苦しまないで。あたしが嘉月の痛みも辛さも全部解ってあげるから」 ぼくは、詩緒の言葉を聞いて思わず微笑んでしまった。 「……うん。やっと気付いたんだ。自分から求めていかなければ駄目なんだって。待ってるだけじゃ駄目なんだって……。詩緒のお陰だよ」 「あたしも、嘉月のお陰で気付いたんだよ」 「そっか」 ぼくは詩緒の胸で目を閉じ、涙を流した。 彼女の髪がぼくの頬をくすぐる。 彼女の背に手を回し、華奢な身体をそっと抱いた。 手に彼女の体温を感じ、ぼくは安心した。
「もう、真っ暗だな」 ぼくは立ち上がってズボンについた草や砂を払った。 「帰るか」 「そだね」 詩緒も立ち上がり、スカートを払って裾を直す。 「……かゆい。虫に刺された」 「だから言ったんだよ」 ぼくは先に車道の脇にある小道に出て待っていた。 「星が綺麗だね」 詩緒が空を見ながら歩いて来る。 「危ないから前見て歩いて」 「折角人が星空にうっとりしているのに、何でそんな事言うかなー」 「危ないから」 詩緒がぼくを睨んだ。そしてばしっとぼくの尻を叩いた。 「早く行くよー!」 「お前な、いい加減にしろよ。今の絶対セクハラだからな!」 詩緒はぼくを無視してどんどん歩いて行く。 空を見上げると、確かに星は綺麗に瞬いていた。
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