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作品名:「クリスマスの約束〜バンコクにて」 作者:司 れん

第3回   「謎」
『K』は、必要以上に媚びたネオンや電飾を嫌い,シンプルにハ
イソ路線を貫いている感があり、ブランド志向を擽る、あらゆる
仕掛けが店内にも施されていた。

 佐藤が、チーママに導かれ奥のラウンジルームに腰を降ろした
のは、十時を過ぎていた。
 流石に火曜日とあって、客の入りは鈍い。
 『K』は入ってすぐ右手が「VIPルーム」、そのまま先を進むと
右手に、「ホステスの控え室」があり、ここで100名近いホス
テス達が客のリクエストを待っている。

 佐藤も、初めてこの店を訪れた時は、その迫力に圧倒され、慣
れているとはいえ、一瞬たじろいだのを覚えている。
 ホステスのユニホームも、何種類か用意されており、日替わり
で飽きのこなように、工夫されていた。

 今日は、黒のミニドレスの日であるらしく、顔の幼い女であっ
ても妖艶な雰囲気を醸し出していた。

 予め、ジョイをブッキングしていた佐藤は、煙草に火を点け、
ピアノ演奏に合わせて歌う女性シンガーの、男っぽい地力のある
歌声に聞き入っていた。
 客の大半は駐在員であろうことは、ダウンライトのシルエット
越しに伺い知れた。皆、お気に入りの女と1対1の会話を楽しん
でいる。

 ジョイが席に着き、いきなり佐藤の胸深くに頭を預け、上目使
いに話しかけてきた。

---久しぶり、忙しかったの?
---いや、そうでもないけど。
---じゃ、もう飽きたんだジョイのこと
---いや、そうでもない。

 佐藤は、今日、社長から指示された接待ゴルフのことを思い起
こしていた。
 昼間、社長の加瀬からそのことを伝えられ、相手が『MN電装』
の社長であることを聞いて、気が重くなったのである。

『MN電装』といえば、トヨタやホンダの現法に電装部品を納める
日系企業であり、ここ数年で飛躍的に大きくなった会社である。

 その『MN電装』の社長をゴルフ接待した後、食事の後の二次会
の行き先を『K』にするから、万事、段取りを任すというものであ
った。
 社長の加瀬は、佐藤の知る限りでは、カラオケに出入りしてい
るなどといった話を聞いたことが無く、全ては自分が仕切らねば
ならないことが、「億劫」であったのだ。
 その事を、端折ってジョイに話した。

---何だ、そんなことか。
---嫌なんだよな、俺。役者不足っていうか。
---サトウさんの、会社の社長さん、連れておいでよ。
---ん?、そうか、一度下見だと言って加瀬さん引きずりこんで
  おくか。
---そうそう、それがいいわよ。

 しかし、佐藤はそのことを、どう加瀬に切り出すか、また悩ん
だ。加瀬は敏腕な経営者であり、タイ駐在も5年になり、佐藤よ
りも長くタイを知っているはずなので、当然、カラオケも出入り
していると思っていた。

 しかし、直属の上司の話だと、2年ぐらい前から、社用以外で
はプッツリと行かなくなったということだったのだ。

 あくる日、社で加瀬と会う時を見計らって、思い切って話を持
ちかけた。

---加瀬社長、来週土曜日の『MN電装』の接待のことなんですけど。
---ん。万事頼んだよ。『K』は、君のお得意の店らしいね。
---いや、私のような安月給で、そうそう足を運べる店じゃないん
  ですよ。
---すまんな、安月給で。

 加瀬は、目尻に皺を作って笑って応えた。

---どうでしょう、社長、今日でも一度ご一緒戴けませんか。
  下見ということで。なにせ、相手は『MN電装』の社長ですし。
  
  加瀬は、一瞬考える風であったものの、すぐに応答した。
 
---ん、分った、いいよ。行こう。但し、女の子は君が選んでおい
  てくれ、どうも苦手なんだ、アレ。

 意外であった。女の子を選ぶことが苦手であると、加瀬が白状し
たことではなく、二つ返事で了解してくれたことが、意外であった
のだ。

 二年近く出入りしてないというのは、普通に考えると何か「ワケ」
があると勘ぐるのが当然である。
 その「足」ですぐに、ジョイに連絡を入れ、今日のブッキングと
誰か友達のホステスを選んでおいて欲しい旨のことを頼んだ。

---うん、わかった。私の従姉妹も働いてるの、その子でいい?
---いいよ。

 正直、佐藤には、加瀬を相手するホステスは誰でも良かったので
ある。ただ、何か胸の痞えが降りたようで、気分が良かった。

---じゃ、待ってるね。
---うん。たぶん、九時ごろだな。
---リョーカイ。
 ジョイは、客が良く使う日本語を、時々チョイスして使ってみせた。

---あっ、その従姉妹の子って、可愛い?

 自分の悪戯心に閉口しながらも、ちょっと聞いてみたくなった。

---ん、すっごく可愛いよ。でもリクエスト少なくて困ってるの。
---何で?すっごく可愛いのに、リクエスト少ないなんて。
---いや、ホントだって。まぁー、見ればわかるから。

 それ以上、問いただすことを止めたのは、「見てみたい」という男
のどうしようもない好奇心からであった。

---(その子より、その子を前にした加瀬さんの顔が、見物だな)

 無闇に緩む口元を急いで戻し、デスクに戻った。


 佐藤は、連日の『K』入りであったので、少し照れを隠すようにし
て足早に奥のラウンジに向かった。
 加瀬も、後ろからゆったりとした足取りで、店の雰囲気を確かめる
ようにして佐藤の後を付いて席に腰を降ろした。

---なかなか、いい雰囲気の店だな。
---はい。この界隈では、タニヤの一流店と肩を並べるのは此処ぐら
  い  だと思います。
---佐藤君はカラオケ事情に詳しいからな。
---加瀬社長も、以前は行かれたんでしょ?タニヤとかに。

 加瀬が意味の無い笑みを浮かべて、その問いに答えようとしたとき
ジョイが、従姉妹と思われる、ホステスを伴って、ボックスにやって
きた。

佐藤の席からは、ダウンライトの逆光でジョイの従姉妹の顔はよく見
えない。
 やがて、加瀬が座る横に、ワイをしながら、その女が着いた。

 佐藤は、一瞥しただけで、ジョイが昼間の電話で言っていたことが
何となく「わかった」気がした。

---(なるほど、そういうことか)


 (すっごく可愛いんだけど、リクエストが少ない)

 そんな矛盾した話があるものかと思っていた佐藤であるが、確かに
 驚くほど、可愛かった。ただ、

---(俺も、ちょっと、パスだな)
 そんな、思いをオトコにさせる雰囲気があった。

 加瀬の「反応」を早く見たかった。

---サワッツ ディー カァー

 加瀬は、店の雰囲気を確かめる視線を、その女の顔に向けた。

---サワッディー クラップ 。クン チューアライ 

--- Toi(トイ)。。。デス
--- トイか、僕は加瀬だ。
--- カセ さん?

 この時、加瀬の目にその娘がどう映ったのか、佐藤は早く知りたく
て、ジョイのことも忘れて、二人の様子を凝視していた。


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