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作品名:記憶 作者:コウスケ

第1回   1
 悲しいことがあると人はそれを記憶から消そうとする。あるいはそれを隠そうとしたり、違うものに変えてしまったりする。僕にもそういう経験はあるし、誰にだってそういうことはあることだろうと思う。だが、困ったことにそれは自分が思ってもいない時に、突然現れてしまうのだ。人は誰でもそういう状況に出くわすときのために、準備をしなくてはならないと思う。でないと、それに遭遇したとき、その人によってはショックを受ける。口がきけなくなる。あるいは泣き出してしまうかもしれない。やはり、こうして考えると準備は、備えは必要なのだ。
 
僕は昔ある女と酷いことが起こり、酷い別れ方をした。僕自身、そのことをとても反省したのだが、いくら反省しても償われた気がしなかった。何をしても無駄だった。だからそれを記憶から消すことにした。忘れようとしたのだ。しばらく経ってから、僕はそれを忘れることができた。忘れているわけだから、もちろんそのことを意識しなくていいし、考えなくていい。学校に向かう電車の中でも、友達と飲みに行ったときも、女と買い物をしているときでも、頭にそれはないのだ。忘れるとは、そういうことだ。
 だが、あるとき何らかのきっかけでそれを思い出してしまうことがある。それは本当に突然のことで、僕としてはもちろん予想もつかないことだった。そのときのことを全て思い出してしまう。忘れたがっていたこと、やっと忘れることができたこと。それが元に戻ってしまう。また僕の体の中に入り込んでしまう。すると僕はダメになる。バイトに行きたくなる。何日も家にいるようになる。携帯電話が鳴ってもでなくなる。メールだって返さない。部屋の電気が点くこともなく、ただ一人になりたがる。僕という人間自身が閉じていく。そんな感じだ。
 そういうことが良くない類のものだっていうことは分かっている。それが良くない兆候だってことも。思えば僕には、そういうことしか起こっていなかった。つまり、良くないことがってこと。なんだろう?これは一体、何なんだろう?ああ、そうさ。わからない。

 つまりだ、つまり。僕は何をすべきかってこと。本当に分かんないことだらけだが、何をすれば分かるようになるのだろう。昔の女なんていつまで引きずっていればいいのだろうか?いや、引きずっていないよ。違うんだ。これはそんなんじゃない。戻りたいとか、まだあいつが未だに好きとか、そういうわけじゃない。これは僕がまだ会計が済んでいない伝票みたいなもんだ。まだ処理していないだけだ。清算していないだけなんだ。清算せずに、次に行ってしまったもんだから、ふとした時に後味の悪さを感じるだけだ。だったら、清算すればいいだけの話。簡単なことだ。僕は携帯電話をポケットから出して、アドレス帳を開き、昔の女の名前を探し始めた。


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