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作品名:日本の近未来 作者:佐藤 神

第6回   6

 暫くすると3人の女性が姿を現した。ホテルのロビーには女性客が何十人といるが何
となく他の客とは違っていたので俊にも直ぐ分かった。
「どうも、日本大使館の秋草俊です。パスポートを紛失した方ですね?」
 俊は3人の顔を見ながら言う。
「ええッ、そうよ。早く再発行してください」
 長身の美女が言う。その女性は俊と並んでも拳一つぐらい低いだけで180センチ近
くはある。顔だちはモデルと言うより肌が白く鼻が高い欧米人に近かった。そしてノー
スリーブのワンピースを着ていた。
「えーと、秋草さん。ここじゃ何だからコーヒショップに行きましょうか。わたしたち
財布も無くお金も無いの」
 ゴシック・アンド・ロリータ約してゴスロリの服を着た小柄なロリコンフェースの娘
が言う。もう一人は中肉中背で白いワンピースを着た苦労知らずのお嬢様タイプ。ニコ
ニコして愛嬌はいいが何となく天然ボケの感じがする。
「えーッ、わたしは学生アルバイトでお金は持っていません」
 慌てて俊は言う。

「電話で言ったじゃない、パスポートもお金も無くしたって。お腹すいてるのよ」
 眉を吊り上げ怒ったように長身の美女が言うと迫力があった。
「メグちゃん、大きな声は駄目よ。人が来るわ」
 ゴスロリを着た女性が言う。
「ごめん、ナナ」
「学生さん、後でお返しますけど、いくらならお持ちですか?」
 天然ボケの女性が微笑みながら言う。
「えーと、日本円にして800円ぐらい。まあ、五つ星では一人前のコーヒ代です」
 と俊が説明する。
 天然ボケの女性は首を傾げる。
「そうだ、このホテルから借りたらどうですか?」
 俊は思いついたように言う。

「じゃ、交渉してよ。わたしたち中国語が分からないのよ」
 長身のメグが言う。
「いや、英語が通用しますよ。それに日本語の分かる人もいる」
 俊は少し呆れたように3人を見る。
「そうですか、明日の午後にわたしの親戚がオリンピックを見に北京に来ます。その時
お金とカードをこのホテルで受取ることになっています」
 笑いながら天然ボケの女性が言う。
「なるほどつなぎの融資と言うことですね」
 頷きながら俊が言う。
「せっかくホテルから借りるのなら、レストランで上海料理を食べてカラオケで歌っ
て、明日の午前中はテニスをやりたいの。一人3万円ずつにしてください」
 微笑みながら天然ボケの女性が言う。

「のり、5万ずつ借りた方が安心じゃない?」
「そうね、5万ずつにしてください」
 3人は笑いながら頷く。
「このホテルは初めてですか、それとも?」
 俊が聞く。
「中国は始めてよ、いつもはヨーロッパね」
「うーん、残念だけど信頼関係の築けていないいちげんさんではお金を貸してもらえま
せんよ。頼み込んで1人3千円がいいところだ」
 俊が冷たく言う。
「じゃ、日本大使館で貸してよ。絶対返すから」
 長身のメグが睨みながら言う。

「勿論お貸ししますよ。但しルールがありまして生命に危険が及ぶ場合と言う記述があ
りまして、その場合は木賃宿の紹介と保証人、食事代として北京では1日4千円ぐらい
お貸しします」
 俊が事務的に言う。
「そんな!」
「それからパスポートの再発行には警察の紛失証明書が必要です。警察へは行きました
か?」
「行く分けないじゃないよ」
 ふてくされてメグが言う。
「パスポートの再発行には時間がかかります。オリンピック開催中なので3,4日は待
たないと。明日の朝一で警察に紛失届けを出されてはいかがですか?」
 3人の顔を見ながらゆっくりと俊が言う。
「警察ねえ?」
「あなた方は旅行会社を通して来たのですか?」
「いえ、わたしたちは個人的に航空券を購入して来ています」
 ゴスロリのナナが言う。

「そのパスポートを紛失した所轄の警察署で、紛失届けを出して紛失証明書をもらって
ください。そしてそれを持って北京の日本領事館に行ってください」
「所轄の警察署?」
 ちょっと何言ってるのと言う顔でメグが言う。
「どこで紛失したか分かりますか?」
「えーと、タクシーを降りてチェックインには時間が早かったので建国門内大街沿いで
ウインドショッピングをしていたの。そしたら美味しそうなクレープを売っていたので
ベンチに座って食べたの。そして歩き出しネールサロンに入ろうと思ってバックを捜し
て無くなったことに気がついたわけ。
 あのグッチのバックには三人分のお金やパスポートが入っていたのに」
 思い出しながらトロトロとのりが言う。

「そうですか、建国門内大街沿いか。所轄は西大門警察署だと思いますが後で確認しま
す。わたしが明日同行して書類も書きますよ。今日中に紛失したものを書き出してくだ
さい」
「そう、一緒に行ってくれるのそれはよかった」
 初めてメグが微笑む、綺麗な歯並びが健康そうである。


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