「須崎、なぜ高坂を殺した?」 反乱軍とテーブルを挟んで秋草は椅子に座った。 「はい、この空母鳳凰があれば日本軍は欧米と互角に戦えます。このチャンスを生かそ うと説得しました。秋草事務次官がアルカイダに攻撃されたことにして中性子爆弾を打 ち込もうと話しましたが高坂一等海佐は首を縦に振りませんでした」 と言って須崎二等海佐は秋草を見詰る。 「うん、高坂一等海佐は堅物だからな。おれならおまえを理解できる。だが失敗した以 上、軍人ならその責任を取れ」 「覚悟は出来ています、しかしこの者たちは?」 須崎二等海佐は白い軍服を着た仲間を見回した。 「須崎二等海佐が腹を切り、憂国の剣に属していた者は退官しろ。罪には問わない」 「本当ですか?」 「ああッ、この事実が国民に漏れれば自衛隊の存続そのものが危うくなる」
須崎二等海佐は目を瞑り、徐に上半身裸になり正座する。 「おれの、おれの死に様よく見とけ」 と言うと須崎二等海佐は大きく息を吸う。そして肌蹴た腹に刃をつきたてる。顔を歪 めながら刃を横に引き裂くと鮮血が迸った。 「う、うう。三島せんせい」 須崎二等海佐は苦しそうに喘ぎながら前にうつ伏した。 「須崎二等海佐、見事だ。静に眠れ」 声を詰まらせ秋草が叫ぶ。
「うーん、隊員たちに事情説明をするか」 呟くように秋草が言った。そしてゆっくりマイクを持った。 「わたしは秋草だ、このマイクを艦内放送に切り換えてくれ」 「了解しました。どうぞ」 「うん、秋草だ。いま須崎二等海佐が憂国の剣の一連の出来事の責任を取って割腹自殺 した。海上自衛隊でクーデータが起こり高坂一等海佐と須崎二等海佐が亡くなったとな れば自衛隊の存在が危なくなる、存続できたとしても大幅に組織が削られる。 そのため、今回のクーデータを隠蔽し捏造する。諸君にも協力してもらいたい」 と言って秋草はため息を付いた。
「口裏合わせの筋書きをこれから話す。まず秋草と高坂、須崎の3人は艦長室の小会議 室で会議をしていた。そして小休憩になった。 秋草はトイレに行くため部屋を出た。そして須崎は日本の将来を嘆いていた。憂国の 思いが強すぎたのか高坂と言い合いになったと思われる。 そして小会議室から拳銃の音が聞こえた。秋草が部屋に入ると高坂が拳銃で撃たれ須 崎は割腹自殺していた。 小会議室に入った時は既に絶命し目撃者はいない。以上を事の真相とする」
秋草は辛そうに言う。 「諸君。査問会、警察に聞かれても日本の国益を守るために口裏を合わせてくれ。 本艦はこれより日本に帰還する」 と言って秋草はマイクを置いた。 そして原子力空母鳳凰は一路日本に艦首を向けた。
5日後、原子力空母鳳凰は横須賀基地にその雄大な姿を現す。頭の包帯が痛々しかっ たが秋草は直ぐに首相官邸に出向き総理に報告する。 「うーん、秋草さん、分かりました。でもどうしますか? 自衛隊幹部が2人亡くなっ たからには記者会見を開き説明をしないと。根掘り葉掘り面白半分に質問されるわ」 古池総理が渋い顔で言う。 「はい、その対応は全て出来ています。これから会見します。それとわたしは今日限り 防衛省事務次官を辞任し退官します」 「えッ、辞任」 突然のことに古池総理の目が泳ぎ不安げに秋草の顔を見る。
「総理、ご心配なく全て考えてあります。日本の防衛、経済そして世界平和」 悟りきった顔で秋草は大きく頷く。 「そうだ、1時間後に記者会見を開いてください。そして総理と防衛大臣の同席をお願 いします」 秋草はゆっくりと総理の顔を覗く。 「はい、分かりました。その全ての考えとは?」 総理は肩を落としていたが目は鋭く秋草を見ていた。 「後日、書類で提出します」
そして秋草は目が眩むようなフラッシュの洗礼を受けた。メディア関係者200人が 秋草の発言に注目している。そのメディアの最前線にはアメリカ、ロシア、チャイナ、 フランス....各国の記者が待ち受けている。 記者席の後ろにはテレビカメラが鈴なりに並んでいる。そして秋草は会場をゆっくり 見回し静に席に座った。
「みなさん、わたしは防衛省事務次官の秋草俊です。本日辞任しました」 <<えーッ>> その瞬間、会場内にどよめきが起こった。 <<そ、それは、防衛省高官が2人亡くなったことと関係があるのですか?>> どよめきの中、質問が飛んだ。 「質問は最後に受け付けます。わたしの話しを聞いてください」 張りつめた会場で秋草は微笑みながら言う。 「はい、続けてください。秋草事務次官」 古池総理が頬を引きつらせ言う。
「ありがとう、わたしは指導者として今回疑問を感じた。それが辞任の理由です。 それと日本国民の生命財産を守る役割を果たしたと自負しています。勿論、日本政府、 防衛省の総力がこれに注ぎ込まれました。 生命とは拉致された人々の帰国。財産とは北方四島の返還、魚釣島、竹島の分割返 還。満足できる成果です。 これからは日本の経済の建て直し、世界平和に尽くしたいと思います。 具体的には日本の財政赤字をなくすことです。それに世界戦争が二度と起こらないよ うに尽力を尽くします」
と言って秋草は目を閉じた。 <質問します、日本新聞社の田所です。財政赤字の対応をもっと詳しく> 「後日、総理からお話があると思います。大筋は個人が所有する1500兆の財産の半 分を相続税としてもう一つは国有地、皇居、新宿御苑も売却する。約300兆になる。 それと隠し埋蔵金35兆も国庫に収める。それらで1000兆円近い赤字財政を補填し ます。 毎年老人福祉、保険、年金の経費が増大している。その対応は国会議員を半分に減し て公務員を30パーセント削減する」
<公務員の30パーセント削減には、秋草さんの退官も入っているのですか?> 「はい、違うとはいえません」 <国営放送の宮田です。皇居、新宿御苑も売却する話は宮内庁の承諾は得ているのです か?> 「まだです。皇居は総面積約30万坪、バブルの時は坪7千万と言われていました。 わたしの試算ではこれだけまとまった土地です、坪2千万でも60兆円。一度には処分 できないから5年計画で外国のファンドにでも買ってもらいましょうか」
<待て、天皇家がお住まいになる皇居を何でおまえごときが、処分できるんだ> 鬼の形相で宮田は立ち上がり秋草を睨みつける。会場はざわめきたった。
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