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作品名:日本の近未来 作者:佐藤 神

第36回   36

 そして秋草はポケットからペンみたいなものを取り出しす。
「おい、君も実習生か?」
 もう一人の若い男に秋草は声をかける。
「いえ、違います。自分は海上自衛隊員の大島海士長であります」
「そうか、その鉄格子から手を伸ばしこの棒でそいつのパスワードを打ち込んでくれ」
「はあー?」
 大島海士長は意味が分からず首を傾げて秋草を見る。
「いや、鉄格子の左の壁に0から9のボタン入力式装置がついている。それをこの棒で
押すんだ」

「えッ、そんなの無理ですよ。出来るわけがありません」
 大島海士長が驚いた顔で言う。
「自分で脱出しないと誰も助けてくれないぞ。それに早くしないと次の犠牲者が出る」
 包帯から赤い血が染み出している秋草が横になりながら言う。

「いや、しかし、ボタン入力式装置のボタンが見えませんが?」
「そうかよく聞け、ボタン入力式装置に向かって、上段が1,2,3だ。中段が4,
5,6だ。下段が7,8,9だ。その下が0、#、*だ。そしてその下がエンターキー
になっていた」
「そうですか」
「この営倉は何番目の営倉だ?」
「えッ、何番目? よく分かりませんが一番手前の営倉です」
「そうか、一番目か。じゃ01だな。営倉のパスワードが889だ。
初めに#を押し、88901を押し、*を押す、そしてエンターキーを押せば鍵が開く
はずだ。それを頭に入れてやってくれ」
「はあー、でも出来るかな」
 大島海士長は煩わしそうに秋草から受取った棒を引き伸ばして言う。
「もし大島海士長が盲(めしい)ならこのようなこと日常茶飯事だ。目が見えるありがた
さに感謝しろ」
「はい、全力を尽くします」
 横になりながら秋草は扉が開くのを待った。

「秋草さん、あの棒は何のために持っているのですか?」
 手持ちぶさたなのか実習生の宮城が言う。
「あれか、あれは伸び縮み自由のカーボングラスの指し棒だ。結構高いものだ」
「そうですか、でもパスワードをボタン入力式装置を見ないで打ち込めとは秋草さんは
凄い人ですね?」
「ああ、あるものは何でも使わないと。これ以上血を流させるわけにはいかない」
「待ってください、秋草さん、だんだん分かってきました。もう少し待ってください」
 嫌な顔をしていた大島はだんだん要領を得てきたのか動作が早くなってきた。
「うん、頼むぞ。大島海士長」
 秋草は営倉を出てからどうするか考えていた。

<<ギー>>
「おー、開いた、秋草さん。遅くなりましたが鉄格子が開きました」
 大島海士長は振り返り嬉しそうに秋草に言う。
「よくやった、大島海士長。よし武器保管室に行くぞ」
 横になっていた秋草は立ち上がると足元がふらついた。
「大丈夫ですか? 秋草さん」
 実習生の宮城が心配顔で言う。
「頭が痛いし、正直、力が入らない。肩を貸してくれ」
 二人に抱えられながら秋草は武器保管室に向かった。
「やつらに会わなければいいですけどね」
 大島海士長は秋草に肩を貸しながら前方に気を配っている。
「うん、見つかったらやつら小銃で撃ってくるだろう。会わないことを祈ろう」
 実習生の宮城は秋草に巻いた包帯から血が滴り落ちないことを願っていた。

「秋草さん、武器保管室です。ですが扉が閉まっています」
 ボタン入力式装置を見ながら大島海士長が言う。
「そうか、武器保管室のパスワードは800の01だ。さっきと同じように打ち込め」
「はい、分かりました」
 扉は直ぐに開いた。豊和工業がライセンス生産している89式小銃が数百丁、不気味
に光っている。
「わたしは小銃を持つだけの力が残ってない、おまえたちだけ安全装置を外し、弾を込
めて小銃を持て」
「秋草さん、暫く床に座っていてください。弾を詰めます」
「うん、注意してやれ」
 2人は震える手で装填する。訓練とは違い緊張感で顔が引き攣る。
「この銃で人を撃つのか」
 思い詰めたように大島海士長が言う。
「憂国の剣は高坂艦長を殺している。やつらは反乱軍だ。34人の反乱軍と戦うのだ」
 秋草が力強く叱咤激励する。

「いきましょう、秋草さん。この空母鳳凰を取り返しましょう」
「秋草事務次官、わたしもやりますよ」
 実習生の宮城も顔を紅潮させて言う。
「うん、だが射撃する時、頭、胸、腹は撃つな。手と足を狙え、おまえたちを人殺しに
したくない」
 秋草は二人の肩に摑まりながら288人の反対派が軟禁されているサロンに注意深く
進んだ。

 そして3人は運よく反乱軍に見つかることなくどうにかサロンに近づいた。
「図書館には誰もいなかったから反対派は全員サロンに捉えられているはずだ。見張り
はせいぜい5,6人だろう。見張りを倒し人質を開放する。そして屈強の隊員100人
ぐらいに小銃を持たせて反乱軍を制圧する。大島海士長、見つからないようにサロンの
中を覗いてこい」
 小声で秋草が二人に言った。大島海士長は無言で敬礼をして小銃を構えて腰を少し落
としサロンの中を偵察する。

 暫くして大島海士長が帰ってきた。
「秋草事務次官、みんな床に座らされていました。反乱軍は小銃を持って監視していま
す。4人までは目視しましたが何人いるか確認できませんでした」
 小声で大島海士長が言う。
「うん、上出来だ。これから言うことをよく聞け。わたしはサロンの出口で背を向けて
横になる。反乱軍はわたしに気づき顔を確認しようとする。その時、2人は両脇から小
銃を向け反乱軍を捕らえる。反乱軍は必ず一人で出てくる。やつらは見張りの役目だ全
員で出てくることは無いだろう」
「分かりました」
「いいか、何時間でも出てくるまで待つんだ。よし二手に分かれろ」
「了解」
 そして秋草はサロンの出口から少し離れたところで横になった。


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