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作品名:日本の近未来 作者:佐藤 神

第31回   31
「秋草だ、情報部、首相官邸と繋いでくれ。首相がいなかったら捜すように言え。それ
からこの会話を艦内に流せ」
<<了解しました、少々お待ちください>>
 軍事衛星を使い秋草は古池総理と連絡を取った。朗報を国民に伝える前に総理の顔を
立てて一報を伝えてから日本の報道関係に発表しようと考えた。
<<はい、古池です。秋草さん、何か?>>
 冷たく低い声が聞こえる。
「これは総理、北方四島の返還が決まりました。1年以内に返還することをメドベージ
ェフ大統領が承認しました。これから報道関係に発表するところです」
<<えー、本当ですか、3分だけ発表を待ってくれない。北方四島で重大な発表がある
と首相官邸から発信したいの?>>
 しおらしい声で古池総理が言う。

「いいでしょう。では総理から話してください。
内容は四島で3000所帯強、2万人近くの島民を近くの得撫島かカムチャツカ半島に
ロシア政府の責任において1年以内に移住させるということです。後日、批准書を交換
させます>>
<<ありがとう、秋草さん>>
「いいえ、では総理、これで失礼します」
<<はい、あッ、ちょっと待って。防衛省の補正予算なんだけど、とても通りそうに無
いわ>>
「そうですか、毎年、予算を削られて今では3兆円を割り込んだ防衛予算。自衛隊員2
0万人の確保が難しい」
<<そう言いますが空母2隻、軍事衛星で予算が掛かり過ぎるのよ。国民生活は...
.>>
「総理、その話は首相官邸でゆっくりと。これで失礼します」

 秋草は時計を見た。
「情報部、総理との通信を切ってくれ。しかし艦内放送はそのまま有効にしてくれ」
<<はい、秋草事務次官。了解しました>>
 暫くして、秋草が話し出す。
「えー、聞いての通りだ。日本国の北方四島返還は30分後に発表される。これより横
須賀港に入港するまで戦闘体制を解除する。諸君、ご苦労だった。テレビで総理の北方
四島返還の発表でもゆっくり見てくれ。だが情報部は気を緩めるな。以上だ。
情報部、ありがとう。この通信を切ってくれ」
<<はい、了解しました>>

 それから1時間後、日本にいる崔天凱駐日大使から秋草に連絡が入った。尖閣諸島最
大の島、魚釣島の所有権のことであった。昔は中華人民共和国と日本で共同開発をして
いたが途中で些細なことから話が拗れ頓挫していた。
 今では中華人民共和国、日本、台湾で争っている。200海里の漁業権と海底に眠る
海底資源が目当てである。

<<秋草さんですか? わたしは崔天凱です。日本の北方四島を取り返したみたいです
ね。おめでとうございます>>
 懐かしい北京語を聞いて北京の公園の記憶が秋草の中でフラッシュバックしていた。
<<あ、崔大使。久しぶりですね。日本の北方四島はメドベージェフ大統領が返してく
れたんですよ>>

<<そうですか>>
<<ええッ、プーチン元大統領ではなくメドベージェフ大統領が>>
<<わたしの入手した情報ではプーチン元大統領は毒を飲まされたと>>
 崔大使は小声で言う。
<<なに秘密警察か、あの法律好きの堅物が謀反を企てたのか?>>
 驚愕の顔で秋草が言う。
<<わたしにも分かりません。それより秋草さん、魚釣島をどのようにするのがいいで
すか?>>
<<大使、わたしは魚釣島を三等分にして仲良く分けるのがいいと思う。無駄な争いは
好まない>>
<<そうですね、秋草さん。ありがとう。こんど中華料理をご馳走しますよ>>
<<崔大使、われわれは永遠に友人です。お会いできることを楽しみにしています。再
見>>

 秋草は立ち上がりゆっくりと地球儀を回した。
「次は竹島か。うーん、古池総理が欲張らないように進言しとくか」

 そして1ヵ月後、日本の領土問題を全て解決させた秋草は暇そうに防衛省事務次官室
で新聞を読んでいた。
「後は問題のイスラム原理主義政権タリバンか。しかしいくら調べても共存の道は見え
ない。知略武略を巡らしてどうにかなるなら苦労はしないが」

 秋草は宗教戦争の恐さを知っていた。特にタリバン(アラビア語で学生を意味する)
の若者を殉教者と崇めテロリストにしたて爆死させる。
そのタリバンの最高指導者はムハンマド・オマルは2001年以降生死不明である。
 旧くはアメリカ同時多発テロ事件、アメリカは長年に渡りテロリストに振り回されて
いる。今だ解決のめどがたっていないまま経済不況にアメリカは身動きが取れない。
 秋草は二つの方法を煩悶しては顔を歪めていた。
「うーん、この世界を二つに分けるか。それとも中性子爆弾でタリバンを地上から消滅
させるか」
 苦渋の選択で秋草は悩み続ける。

<<ジー、ジー、ジー>>
 その時、秋草の携帯電話が鳴った。
「うんッ、電話か誰なんだろう?」
 俊はカバンから携帯電話を取り出した。
「もしもし、秋草俊です」
<<....>>
「えッ、本当ですか?」
<<....>>
「分かりました、直ぐに行きます。30分で着きますから」
 ゆっくりと秋草は携帯電話を切った。
「インド洋補給支援の補給艦・ましゅうが攻撃を受け犠牲者が出た」
 呟くように秋草が言う。
「えッ、犠牲者?」
 秘書官は秋草の顔を見て叫んだ。
「うん、テロリストが乗る高速艇からロケット弾がましゅうに打ち込まれた。運悪く直
撃して1名即死した。直ぐに車を回せ、首相官邸から呼び出しだ」
「はい、秋草事務次官。車を表面玄関に回します」
「それと高坂一等海佐に連絡をしてくれ、空母鳳凰の出航準備せよと」
 と言うと秋草はカバンと上着を掴み部屋から飛び出した。


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