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作品名:日本の近未来 作者:佐藤 神

第28回   28

 その翌日、空母鳳凰の食堂で。
「お早うございます、秋草事務次官。いつもながら早いですな」
 秋草は朝食のハムエッグを食べていると食器を持って笑いながら高坂艦長が近寄って
来た。
「お早うございます、早い方が食堂が空いているから。高坂艦長はどうして?」
「いや、休日体制なのでFM鳳凰に出てみようかなと思いまして」
 この空母鳳凰にはジム、プール、バスケットコート、ボーリング場、打ちっ放しにビ
リヤード、ビヤホール、ジャズバー、そしてミニFMがあり若い女性の乗員がDJをや
っていた。

「そうか、わたしも出てみるかな」
「そうですか、じゃ、秋草事務次官は11時からでいいですか? わたしは14時から
出ます」
「うん、それでお願いする」
「わかりました、今日のDJはナミです。FM鳳凰の放送は9時から始まりますので、
朝一で秋草事務次官が11時から出演すると言ってもらいましょう。乗員からメールが
山のように届きますよ。わたしも質問したいぐらいだ」
 笑いながら高坂艦長が言う。
 洋上で休日を迎えた場合、空母鳳凰では秋草と高坂はよくFM鳳凰に出演していた。
そして乗員からの質問をメールで受け、DJがそのメールを読み上げて答えを秋草、高
坂に求めた。
「まあ、休みが大分あるから、今日はわたしの好きなイージーリスニングでも流しても
らうかな」
「じゃ、わたしは映画音楽にしようかな」
 と言って高坂艦長は微笑んだ。

 魔海バミューダに近づくと連休を楽しんでいた空母鳳凰の乗員の顔に緊張が戻った。
「これより通常体制にはいる。バミューダ島からハドソン川に向かう」
 高坂艦長の声が響いた。
 空母鳳凰がバミューダ島を過ぎてもアメリカ軍から連絡は無かった。アメリカ軍は不
法侵入を咎める気が無いのか。
 いくら近づいてもアメリカ軍の連絡が無い、ついにロング・アイランドまで来てしま
った。前方を双眼鏡で覗くと上空にニューヨーク・ジョン・エフ・ケネディ国際空港の
飛行機が飛んでいた。
「このままニューヨーク・ベイに進め」
 秋草は迷わず進める。

<<秋草事務次官、情報部です。アメリカ軍よりここに来た理由を求めています。どう
しましょうか?>>
「無視しろ、通信機が故障したことにする。もし攻撃すると言ってきたら報せてくれ」
<<了解しました>>
 そして空母鳳凰はハドソン川に入る。上空には戦闘機が飛んでいる。その中をリバテ
ィー島の自由の女神を見てニューヨークに近づいた時。
<<秋草事務次官、情報部です。ホワイトハウスから呼び出しです。応答無い場合は攻
撃すると言っています>>
「わかった、繋いでくれ」
<<繋ぎました。どうぞ>>

<<こちらは空母鳳凰、申し訳ない通信が故障していた。たった今直ったところだ。こ
の空母には中性子爆弾を300個搭載しているが、少々間違いがあった。
 300個の内30個は大型中性子爆弾だった。大型中性子爆弾は半径300キロメー
トル以内の生き物は消滅する。ここでその間違いを訂正し、深くお詫びする>>
 秋草はゆっくりと大きな声で言う。

 ホワイトハウス。
<<大統領、秋草に騙されました。日本で造れば日本国憲法9条に触れるのでアメリカ
で造らせて欲しいとそして完成後はアメリカ第七艦隊の後方支援をしたいと言う言葉に
騙された>>
<<ええ、飼い犬に手を噛まれるとは>>
 ヒラリー大統領は顔を真っ赤にして手に持っていたボールペンを親指でへし折った。
バラック・オバマに民主党代表選で破れ、耐えがたきを耐えてやっと労苦が報われ第
46代アメリカ合衆国大統領になった。

<<大統領、アメリカ全土にレベル1の防衛体制を>>
 ロバート・マイケル・ゲーツ国防長官が言う。
<<でもゲーツ、大型中性子爆弾8個でアメリカの国はこの地球から消えてしまう。
爆心地から300キロメートル四方は生物が消滅するそうよ>>
 ヒラリー大統領は地球儀を見詰た。
<<しかし大統領、このことをアメリカ国民に知らせれば、核シェルターに隠れ生き延
びる国民もいます。少しでも可能性があれば知らせるべきかと思いますが?>>
 ロバート・マイケル・ゲーツ国防長官が早口に言う。
<<分かったわ、ゲーツ。ペリーノ報道官。大至急この会議室を全米テレビ局に繋ぎな
さい>>
 ヒラリー大統領が会議室の片隅のペリーノ米大統領報道官に言う。
<<はい、大統領。5分後にオンエアーできます>>
 ペリーノ米大統領報道官は携帯電話でどこかと連絡を取っている。

<<大統領、日本は70年以上も前の広島、長崎の敵をとりに来たんでしょうか?>>
 訝りながらゲーツ国防長官が小声で言う。
<<分からない、何故いまごろ。大型中性子爆弾を積んだ完全武装の原子力空母がニュ
ーヨークまで土足で踏み込んでくるとは>>
 不快げに眉を引き攣らせてヒラリー大統領が言う。
<<ヘンリー博士、秋草の分析は進んでいるの?>>
 端末の画面を見詰ていた顎鬚を生やした軍医が顔を上げた。
<<大統領、一つだけ分かりました>>

<<何、何が分かったの?>>
 いらついていたヒラリー大統領が興味深そうにヘンリー博士を凝視した。
<<はい、大統領。3カ月以内に秋草はロシアに行くでしょう>>
<<ヘンリー博士、それは北方四島の奪還を意味するのか?>>
<<はいそうです、国防長官>>
<<大統領、分かりました。秋草は日本国の積年の恨みを晴らしているんですよ>>
 したり顔でゲーツ国防長官が言う。
<<そうみたいね。拉致問題に北方四島。そしてアメリカ合衆国は長年逆らうことを許
さなかった。その日本をわたしたちは見捨てて中国にすり寄った>>
<<秋草は中性子爆弾でそれらを解決しようとしている>>
 重い沈黙が会議室を包んだ。

<<大統領。セットアップが終わりました。いつでも全米に放映できます>>
<<分かったわ>>
 ヒラリー大統領は立ち上がり、両手で頬をピシャと叩いた。そして微笑を浮かべる。
<<準備は出来たわ、放映して>>
<<みなさん。静に。3、2,1>>

<<みなさん、残念なお知らせがあります。日本の空母が誤ってニューヨークのハドソ
ン川に迷い込んできました。
 その空母には中性子爆弾が装備されています。誤爆する可能性がありますので、核シ
ェルターに身を隠してください。核シェルターのない人はわたしと共にことの成り行き
を見守りましょう>>
 と言ってヒラリー大統領は微笑んだ。


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