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作品名:鮫洲橋の戦争 作者:佐藤 神

最終回   7

 大男は懐から分厚い封筒を取り出す。
「これを預かってきた、中味は知らない」
<パーン>
 浩太郎は両手を大きく開いて、力強く掌を打った。
「売った」
 その瞬間。
橋の下から大きなカラスが舞い上がり、二人の足元の小袋を銜えて運河沿いに飛び立っ
た。
「しまった」
 浩太郎はカラスの後を追って橋を横切った。大男も走って来る車を避けながら後に続
いた。カラスは銜えた小袋が重いのか、水面すれすれに飛んでいる。
「あ、落とした」
 大男が叫んだ。

「おい、金を払ってくれ」
 浩太郎が怒鳴った。
「ふざけんな。品物を返せ」
 大男は高圧的に言う横柄な態度だった。そして浩太郎を睨みつけ胸倉を掴み拳を振り
上げた。
「み、見ろ、警官が来るぞ。おまえたちの会社名が公になるぞ」
 三枝子と警官が橋のたもとから全速で走って来る。
「チェッ」
 舌打をして、大男は待ち合わせていた黒の高級車に逃げ込む。
<キキキーッ>
 タイヤを軋らせて、車は路上を滑るように、急発進させた。

「ハッ、ハッ、大丈夫ですか?」
 走ってきた若い警官が言う。
「ええ、おまわりさんの姿を見て逃げていきました。被害はありません。ありがとう」
「そうですか、被害はありませんでしたか、それはよかった。物騒ですから気をつけて
下さい」
 警官は、息を弾ませて敬礼する。そして踵を返した。
「ハッ、ハッ、ありがとう、おまわりさん」
 警官と一緒に走って来た三枝子が礼を言う。警官は鮫洲運転免許試験場に帰る。
「浩太郎、うまくいったの?」
 亜麻色の髪の毛を乱し、胸を弾ませながらながら三枝子が浩太郎の顔を見る。
「うん、シナリオ通りだ。ただ、カラスが小袋を運河に落としたのが誤算だった」
「どうせ、本物じゃないんでしょ。いいじゃない」
「ああ、変換機の声を録音させた録音機が入っていた。通販で二万円で買ったものだ」
 浩太郎は小袋を落とした運河を見ながら言った。その運河の先には首都高速一号線が
見える。小袋はその首都高速の数十メートル手前で沈んだ。

「でも、カラスがよく言うことを聞いたわね。本当にカラスは理解していたの?」
「ああ、カラスは、知能が高く学習能力を持っている。だが、やつらは食い物に意地
汚い。本物の肉を小袋に詰め込んで、この橋に置いて、おれが両手でパーンと掌を叩く
と餌を持っていけという合図なんだ。三日連続で練習した」
 青い空を見ながら浩太郎が言った。
「本物の変換機はどうするの?」
「そうだな、猫おばさんにやろうと思っている。小次郎の言葉が聞かれたら泣いて喜ぶ
んじゃないかな」
「えッ、そのために危ない橋を渡ったの?」
 三枝子は細い腕を浩太郎に腕にからませた。

「ああ、三枝子。以前におれの過去を調べたんだろ?
 おれの親父は大臣の秘書官だった。おれが中学生の時、収賄の容疑で地検がその大臣
を狙っていた。逮捕寸前で、親父が自殺して幕引きになった。そして、大臣から一億円
の金が振り込まれた。
 後日、新聞記者から政務調査費から出てるんじゃないかと聞かれたが、子供のおれに
は何のことだか分からなかった」
 浩太郎の顔が厳しくなった。
「おれは権力者を見ると、無性に腹が立ってくる、自分でも抑えきれない。やつらが、
このまま手を引けば許すが、ちょっかいを出してきたら、このことを公にする」
 浩太郎は拳を握った。
「やつらも、そんなバカじゃないわよ。それより、私にも猫の声を聞かせて」
 三枝子が浩太郎の腕を引っぱった。その時、心地よい川風がふき、浩太郎の頬を緩ま
せた。


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