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作品名:銀河を渡る船 第六部・ロボット帝国 作者:佐藤 神

第9回   9

 キャプテンはライアンが、何故ここに来るのか煩悶して一瞬嫌な顔をする。そして席
を立ち上がりオスカーと、アントニー警務官を手招きしてサルダン王子の席に行く。
「サルダン王子、弔問で反デスラカン連合ライアン事務総長が間もなく到着します。そ
して葬儀に参加します」
 その途端、サルダン王子の目が泳いだ。
「えーッ、どうすればいいの?」
 サルダン王子は不安そうにキャプテンの目を見た。
「ライアン事務総長が何か言ったら、適当に頷いてください。最後に”偉大なるライア
ン事務総長に参列いただき、この上ないはなむけです”と、言ってください。オスカー
はサルダン王子の後ろで指示してくれ。アントニー警務官はライアン事務総長が宮廷に
着いたら、警務官全員でライアン事務総長を大きく取り囲んで身の安全を確保しろ」
 3人は小さく頷く。

 ゆっくりとキャプテンは席に戻った。
「ベン、このヘッドホンのマイクを宮廷全館放送にしてくれ」
<<キャプテン、了解しました。接続終了しました>>
 キャプテンは会場を見詰る。
「みなさん、弔問で反デスラカン連合ライアン事務総長が間も無くここに見えます」
<ワー>
 葬議会場からどよめきが起こった。
「サザンクロスは既にライアン事務総長を向かい入れる体制を整っています。みなさ
ん、警務官の指示があったら速やかに道をあけて下さい」
 その時、王室の血筋が4人、気分が悪いと言って席を立って帰ってしまった。

 暫くして、葬議会場入口の弔問者が道をあけ壁に張り付く。アントニー警務官を先頭
に7,80人の警務官たちが大きな輪を作り入場して来た。正装したライアン事務総長
が姿を現す。
 親衛隊も連れずに一人、正面を見て歩いている。ライアン事務総長が他星に来て一人
でいることはありえないことであった。
「まずい」
 キャプテンは小さく舌打ちする。
 ライアン事務総長は献花して、サルダン王子に悔やみを述べる。話し終わるとライア
ン事務総長は正面を見てそのまま引き上げる。キャプテンと目を合わせることは無かっ
た。
「うーん、これが弔問外交か」
 キャプテンは首を傾げ呟いた。

 次の日。反デスラカン連合はデスラカン帝国の中立星侵略を非難し、全面戦争を発表
した。その発表が宇宙ニュースで宇宙に駆け巡る。
 夜になると、あの中立星はもともとデスラカン帝国のものだと主張して、デスラカン
帝国は全面戦争を受けてたった。
 その宇宙ニュースを見てキャプテンは関係者全員を宮廷の会議室に集める。

「わたしは明日の新国王即位式典の後、宇宙戦争に参戦する」
 開口一番、キャプテンは大きな声で言う。ナオとアスカは顔を見合わせた。
「キャプテン、それはライアン事務総長が弔問に来たからですか?」
 困惑した表情でサルダン王子が言う。
「サルダン王子、わたしにはそんな手は通じない。デスラカン帝国を滅ぼすのには今が
絶好の機会だからです」
 キャプテンは険しい顔で言う。
「この星はどうなるのですか?」
 青い顔でサルダン王子が言う。
「サルダン王子、相談ごとは宮廷室長のオスカーに言いなさい。オスカーはドクターロ
ボのマザーに相談してください。この星で頼れるのはドクターロボのマザーしかいませ
ん」
 マザーのずば抜けた能力は誰もが認めていたが、ロボットに指示を仰ぐのは人間とし
てのプライドが許さなかったのか、重たい空気が会議室を包んだ。

 宇宙ニュースでデスラカン帝国の宇宙空域に続々と反デスラカン連合軍が集結してい
る様子を放映していた。デスラカン帝国軍も他星から一族の精鋭を集結させている。
 キャプテンは逸る気持ちを抑えて、翌日の新国王即位式典の終わるのを待った。

「早く終わらないかな」
 口には出さずキャプテンは心の中で囁いた。
そして式典の最後、国王の冠授与式が終わり、サルダン王子が国王の冠を被った。次の瞬間、キャプテンがサルダン王子に小走りに近寄る。
「サルダン国王、ばんざい」
 と、キャプテンが両腕を上げて大声で叫んだ。
<サルダン国王、ばんざい>
 会場からも呼びかけに応して民の声が怒涛のように会場に響く。
サルダン国王は感情が高ぶり目頭を押さえた。
<サルダン国王、ばんざい>

 そしてキャプテンは民の興奮が沈静するのを待った。
「みなさん、サルダン国王が誕生した今、わたしはカイザー前国王との約束を果たしに
宇宙戦争に参加します。戦争をするためではありません、宇宙平和を守るために戦うの
です」
 と、言うとキャプテンはナオとアスカを横目で見て会場を後にした。そして宮廷に停
めてあった大型戦闘艇に乗り込んだ。

<<キャプテン、いよいよですね>>
 ベンの頭のランプが激しく点灯する。
「うん、デスラカン帝国の宇宙空域の上空までワープしてくれ。ワープ後、マザーの気
付け薬でわたしを起こしてくれ」
<<キャプテン、了解しました。ワープ30秒前>>
<<ワァンー、ワァンー、ワァンー>>
 宇宙船内にワープ走行の警告音が鳴り響く。
<<ワープ20秒前、キャプテン、椅子に座って手すりを掴んでいてください>>
 ロボットのベンの声が宇宙船に響く。
<<ワープ10秒前>>
 宇宙船が微かに震えてきた。
<<ワープ5秒前、3、2、1。ワープ開始>>
 ロボットのベンの甲高い声が宇宙船に響いた。その瞬間、キャプテンは気を失った。


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