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作品名:銀河を渡る船 第六部・ロボット帝国 作者:佐藤 神

第8回   8

 その夜、イカの焼ける香ばしい匂いがアスカを興奮させる。
「何、この匂い、美味しそう。早く食べたい」
 アスカの鼻は獣並みに利く。そしてすっかり魚好きになった。

 その次の日、キャプテンは昔からあった漁港リバプール港に向かっている。
「昨日、ブリの若魚、ワラサが釣れるとアスカが言っていたが大きいのが釣れたら捌く
のが面倒くさいな」
 リバプールは遠洋船の港である。大きな漁船が眼下に見える。駐車場に着陸する寸前
でベンから連絡が入った。

<<キャプテン、大変です。陛下が心肺停止状態です。大学で学生と討論中にレーザー
銃で心臓を撃たれました。現在宮廷に搬送中です>>
 突然甲高い声がキャプテンの耳に響いた。一瞬キャプテンは夢でも見てるような錯覚
を起こす。
「ええッ、陛下が崩御されたのか?」
 呟くようにゆっくりとキャプテンが言う。
<<はい、間違いありません>>
「他国のテロリストか?」
<<いえ、前防衛大臣ガブリエル・トーマスの双子の弟、ピェール理事長です。レーザ
ー銃で撃った後、歯に隠した毒カプセルを噛み切り即死です>>
「うーん、あの時殺しておけばよかった。何故この時期に....」
 キャプテンは言葉を失った。キャプテンの頭の中は宇宙戦争の戦略で一杯だった。

<<キャプテン、陛下についているオスカーから指示を仰いでいますが?>>
「うん、メディアには死んだと言うな、危篤中で通せ。それとアントニー警務官に話し
警務官を武装させサザンクロス国立子供学校にいる陛下の一人息子、サルダンを宮廷に
連れてきてくれ。わたしは20分後に宮廷に着く」
 キャプテンはエアーカーの緊急のボタンを押し、サイレンをけたたましく響かせなが
らリバプール港の青空を後にした。
 この緊急ボタンはサイレンを鳴らせるだけでなく、緊急波長を出していた。一般のエ
アーカーはその緊急波長を受信するとスピードを落とし、エアーロードの端に寄せた。
自動操縦のため運転手には負担が掛からない。

「これは気分がいいなあ」
 と、言ってキャプテンは小さな優越感を味わいながらこれからの対策を練っていた。
そしてサイレンを鳴らしながら宮廷の駐車場に着陸した。キャプテンは徐に緊急ボタン
を止める。
 エアーカーを飛び降りるとキャプテンは、小走りに宮廷の奥へ進む。

「誰か、誰かいないか?」
 大きな声でキャプテンは怒鳴った。
「キャプテン、みなさんがお待ちです。こちらへどうぞ」
 女性警務官が言って、先を歩いた。そして宮廷医務室に通された。
医療用カプセルに国王が目を瞑り死んでいる。その横のオスカーの隣に見知らぬ少年が
いた。
「オスカー、駄目だったか」
 呟くようにキャプテンが言う。
「あッ、キャプテン」
 宮廷室長のオスカーが顔を上げた。泣いていたため顔がマスカラで黒ずんでいる。
「その少年がサルダン王子か?」
 サルダン王子は涙を見せず項垂れていた。
「ええ、この方がサルダン王子です」
「ではサルダン王子、国王の後を継ぎますか。継げばよし、継がなければお覚悟を?」
 低く太い声でキャプテンが言う。
「何故だ、何故、ぼくが後を継がないと殺されなければいけないんだ?」
 険しい顔でサルダンはキャプテンを睨みつける。

「サルダン王子、陛下の後を継げば800万の民は納得するでしょう。しかし王子が拒
めば、この国の民はリーダを失い後ろ盾が無くなり烏合の衆となります。
 宇宙の平和が混沌としている今、そんな我侭は許せん。亡き陛下に代わりわたしが王
子を殺す、そして代わりの者を立てる」
 と、言ってキャプテンは大粒の涙を流した。
「いいだろう、ぼくが国王になろう。だがキャプテンの脅しに屈したわけじゃない、民
のためだ」
「王子、王子の行く道は棘の道です。周りの者の助言に耳を傾け、前陛下のように民か
ら愛される国王になてください」
「うん」
「オスカー、陛下の崩御を民に伝えよう。明日から三日間サザンクロスは喪に服す、そ
の次の日に新陛下の誕生だ。いつもの会議室から放映しよう。準備してくれ」

 そして王子とオスカー、キャプテンが席に着く。いつもの陛下の席は空白にした。
 陛下の今日の行動を時系列でオスカーが喉を詰まらせながら、読み上げた。
「....陛下は崩御されました」
 と、言ってオスカーは泣き崩れた。
「それではわたしから話しましょう。明日から三日間、サザンクロスは喪に服します。
喪が明ければ隣にいるサルダン王子が新国王になられます。
わたしは亡き陛下の遺言でサルダン王子の後見人になりました。けして傀儡政権ではあ
りません」
 キャプテンはサルダン王子の後見人を勝手に名乗ってしまった。
そしてサザンクロス国王カイザー崩御を宇宙ニュースに流す。

 翌日、各テレビ局は宮廷の半旗を映し、厳かな曲を流していた。宮廷には献花台が設
けられ、一般弔問の列は途切れなかった。
 キャプテンは礼服が無く、貸衣装屋でモーニングと黒い蝶ネクタイを借りて葬儀に出
席する。喪主のサルダン王子を真ん中に、その横に別離した元后、そして王室の血筋の
順に座らせる。
 その列の末席にヘッドホンをつけてキャプテンは座る。夜になっても一般弔問が途切
れず、夜間照明が祭壇を照らしていた。

 その翌日もキャプテンは列の末席にヘッドホンをつけて座っていた。キャプテンが空
腹を覚えた時、大型戦闘艇のベンから連絡が入る。
<<キャプテン、大変です。反デスラカン連合ライアン事務総長から直々に連絡を傍受
しました>>
「なに、何と言っていた?」
 口に手を当て小声でキャプテンが言う。
<<はい、サザンクロス、カイザー国王の弔問に来た。国王の葬儀に参加しサルダン王
子に弔意を伝えたい。と、繰り返し発信しています>>
「分かった、サザンクロスでは、まだ受信していないのだな?」
<<はい、受信機の精度が違いすぎますから>>
「じゃ、全閣僚に伝えろ。弔問で反デスラカン連合ライアン事務総長が間も無く到着す
る、失礼の無いように迎えろ。外務大臣は宇宙港に出迎えろ。そして葬儀場まで案内し
ろ。わたしは宮廷側に伝える」
<<キャプテン、了解しました>>


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