釣り道具を手に持ってキャプテンは、海辺を歩き防波堤の上に腰を降ろした。 海は秋の日をギラギラと照り返している。しかし、秋風が暑さを和らげる。キャプテン はタオルでほっ被りして、カジュアルウエアーの胸を緩めた。 <ドッ、ドッ、ドッ> その時、3艘の漁船が白い航線を残しながらオバマ港に帰って来た。キャプテンは何 気無く手を振ると漁船からも手を振り返す、造船したての船のせいかピカピカに輝いて いる。 言葉は通じなくてもキャプテンの心は和んでいた。 その漁船を覗くと操縦室に鉢巻をした漁師が1人と、甲板にロープを持った漁師が1人 見える。 「近場の漁業は2,3人で操業した方がいいのかな。頑固者が多いんだろうな」 呟きながらキャプテンは釣竿を放る。 「しまった、クーラーボックスを買うのを忘れた」 しかし、キャプテンは日本で釣りをして一度も魚が釣れた記憶は無かった。 「いいか、釣れてから買いに行くか」
その後も漁船がドッ、ドッ、ドッとけたたましい音を上げ、1艘、2艘と、次々オバ マ港に帰って来た。 キャプテンは長い間、浮きを見詰ていたが、ピックとも動かなかった。しかし、防波 堤の真下には魚がいて口をパックパックさせている。 「うん、凪のせいかな。釣れないな」 キャプテンは釣竿を防波堤に置いて、タモアミを取り出した。 タモを海につけて、ゆっくりと魚の後ろから追いかける。パックパックさせている魚が タモに入るのを確認して、掬い上げる。 「やった」 キャプテンが歓喜の声を上げる。タモの中には20センチぐらいの暗褐色のカサゴが タモから逃げ出そうと躍っていた。 「うーん、後、2匹は釣らないと喧嘩になるな」 カサゴのトゲに気をつけながら、カサゴを防波堤に置いた。そして再びタモでカサゴ を狙った。面白いようにカサゴが取れる。 「これで3匹になった。引き上げるか」
3匹のカサゴをタモに入れて、キャプテンはティファニーに向かった。秋とはいえ日 差しが強く鼻の頭が熱を持ちヒリヒリしていた。 そして3匹のカサゴを嬉しそうに、店の女性に見せる。 「このクーラーボックスをください」 と、日本語で言って中型のクーラーボックスを指で指した。定価は5千クロスであっ た。 「キャプテン、キャプテン」 漁師風の男たちが7、8人で、レストランで酒を飲みながら宴会兼食事をしていた。 何かを言いながら手招きで、こっちへ来いといっているように見えた。
「こんにちは」 キャプテンは微笑みながら流暢な宇宙語で言うと、漁師たちから歓声が上がる。 「わたしはキャプテンです、よろしく」 またもキャプテンは宇宙語で言う。 長老の漁師がグラスをキャプテンの前に出した。迷わずキャプテンは受取る。何か言い ながら若い漁師がボトルを長老に渡した。そしてグラスに並々と注ぐ、キャプテンは気 障っぽくグラスを掲げて一気に飲んだ。 「ウェーッ」 奇声を上げてキャプテンはその場に崩れ目を回す。
「うーん、喉が焼けるように痛い」 気がつくと漁師たちの姿が見えないテーブルも綺麗に片付いていた。水を一口含み夕 日に染まった海をキャプテンはぼんやり見た。 店の女性が何か言いながらクーラーボックスを持ってきて蓋を開けた。クーラーボッ クスの中には3枚に降ろしたカサゴの切り身と、ドライアイスが入っていた。 「おおッ、ありがとうございます」 キャプテンは宇宙語で礼を言う。そして財布から札を取り出し差し出す。 女性は何か言いながら受取らない。 「あなたの優しい心に感謝します。一生忘れません」 キャプテンは真面目な顔で流暢な宇宙語で言う。この言葉は子どものアスカから習っ た言葉である。 女性は照れながら早く帰りなさいと出口を指を指す。
そしてキャプテンは店を出て、夕日に照らされた海を暫く眺めていた。 「うーん、宇宙にもこんなところがあったのか」 久しぶりに満たされた気持ちでエアーカーに乗り、日が沈む黄昏の海を上空から眺め る。 山を回り込むと街の明かりが遠くに見える。その輝きがいろいろな形に別れた。タワ ー、超高層ビル、劇場、ドーム、キャプテンが乗るエアーカーもその夜景に飲み込まれた。
「ただいま、今日は大漁だったよ。ミッキーは?」 「あら、お帰りなさい。ミッキーは奥で寝ているわ、何を釣ったの?」 白衣を着たナオが微笑みながら聞く。 「うん、カサゴが3匹釣れた。地元の人が捌いてくれた」 と、言いながらキャプテンは産婦人科に改造された家の奥の台所に行く。 「じゃ、煮付けにしようかしら。新鮮なら生臭くないし、アスカも喜んで食べるわ」 「うん、任せるよ」 キャプテンは釣りの道具を持ってシャワー室に行く。道具を洗っている時にアスカが 帰って来た。そして二人の話し声が聞こえる。 「スーパーで買ってきたみたい。クーラーボックスに切り身で入ってたの....」 ナオの声が聞こえる。 「値札は付いていたの」 アスカの声が聞こえる。 「値札は付いてなかったわ」 「じゃ、値札はどこかで捨てたのね」 道具を干してキャプテンは居間兼食堂に行く、うまそうな匂いがする、初めての生魚 である。匂いが違っていた。
「じゃ、いただくか」 食卓にはカサゴの煮付けと野菜、ジャガイモの煮たものとナンみたいなパンとスープ があった。 「うまい!」 子どものアスカがびっくりしたように叫んだ。 「どこで買ったの?」 「いや、オバマ港の防波堤で釣ったんだ。正確にはタモアミで掬ったんだ。けして買っ たものじゃない」 「どうでもいいじゃない、細かいこと」 ナオがカサゴの煮付けを食べながら言う。 「明日も行くんでしょう、明日は何を釣るの?」 「うん、明日はミハマ港に行こうと思っている。何がいるのか分からない」 キャプテンがナオをみて言う。
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