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作品名:銀河を渡る船 第四部・血の掟 作者:佐藤 神

第6回   6

 それから空が夕日に染まるまで撮影していた。
「教授、予定通り全部取れましたよ。他にとるものはありますか?」
 撮影隊チーフは満足そうに言う。
「じゃ、引き上げようか。ケピロスの子育てを邪魔しても悪いし」
 リチャード教授は振り返り、隊員の人数を確認する。
「ン、1人足りない。あッ、子どものアスカがいない、アスカを誰か知らないか?」
 顔色を変えてリチャード教授は、周りを捜す。
「おい、子どものアスカを捜せ。しょうがない子どもだな」
 学生たちは顔を見回して、うろうろするばかりである。

その時、草むらからアスカが、何もなかったように出て来た。
「すいません、おしっこしてたんです」
 詫びれる様子もなく、アスカが言う。
「だめだよ、断って行かないと。下手におっしこをすると動物たちに狙われる」
 温厚なリチャード教授がアスカを叱った。
「すいません、気をつけます」
「みんな、撤収する、忘れ物はないように、列を組め。アスカ、列の先頭で周波数を発
音してくれ」
 穏やかな顔に戻り、リチャード教授が言う。
「はーい」

 アスカは元気よく返事をした。そして、来た道を戻り調査船へ急いだ。
アスカは前方へ周波数を発音させながら、鬱蒼とした森には目もくれず、逃げるように
猛スピードで突き抜けた。荷物を運ぶ学生も必死でアスカに続く、誰も歩くスピードが
早すぎると、文句を言う者はいなかった。
 遠くに調査船が見えた時、先頭のアスカは歩くスピードを始めて落とした。
「ああー、つかれちゃった」
 アスカが大きな声で言った。
荷物を運んでいた学生が、その荷物を置いて一息入れようとした。
「だめだ、荷物を置くな。ゆっくりでいい、歩け。恐竜は時速50キロで走る」
 叱咤するようにリチャード教授が言う。
そして、再び列を正しふらふらとゆっくり進み、どうにか調査船まで辿り着いた。

「ごくろうさん、皆、無事でよかった。これよりサザンクロス国立総合大学へ帰る」
 リチャード教授の声に調査船の中で小さな歓声が上がった。学生たちは疲労困憊でぐ
ったりしていたが、うす汚れた顔に笑みが零れた。
 当然のように調査船の中のトイレは長蛇の列であった。しかし、女性は優先的にトイ
レを使うことが許されていた。尿道炎を考慮したためである。
 そして、リチャード教授からサンドイッチとホットドリンクが振舞われる。
「ああッ、うまい。生き返るようだ。教授、毎回いろんなことがありますね」
 一見、老けた学生が言う。
「うん、これがわたしのストレス発散だ。寿命が縮まるけどな」
 調査船の中に笑い声が起こった。

 調査船がサザンクロス国立総合大学に着くと、アスカは携帯電話でナオに連絡しよう
とした。
「アスカ、わたしのエアーカーで送ってあげるわ」
 オスカーは微笑みながら言う。
「ありがとう、オスカー」
 そして、二人はエアーカーに乗り込む。
 オスカーは宇宙港に泊めてある大型戦闘艇の住所コードを打ち込んだ。
「ねえッ、アスカ。あの時、ほんとうにおしっこをしてたの、それとも何か?」
 疑いの眼差しでオスカーはアスカを見る。
「うん、わたし子どもだから、直ぐおしっこをしたくなるの」
 と、言ってアスカは疲れた顔で、窓の外の日の出を眺めていた。

「ただいま、疲れた。あッ、マザー、あのボールペンが役に立ったの。ありがとう」
 マザーの顔を見てアスカが思い出したように言った。
<<それはよかったわ、使い心地はどうでした?>>
 凛とした表情でドクターロボのマザーが言う。
「すごかったの、ボールペンをノックしただけで、怪鳥ケピロスが衝撃で吹っ飛んだ
の。でも、怪我はしてなかった」
 それを聞いて、マザーは満足そうに頷いた。
「あの漆黒のケピロスに襲われたのか?」
 キャプテンは聞く。
「うん、マザーの周波数発生装置で助かったの」
 疲れた顔でアスカが言う。そして、アスカは胸ポケットから小さな白い花を出した。
「これおみやげだよ」

「うん、何だこれは?」
「あの大陸で、おみやげを捜していたんだけど、風に吹かれてこれが落ちてきたの」
 アスカは元気なく言う。
「あら、これはジャガイモの花じゃないの」
 横にいたナオは花を手にとって言った。
「なんだー、うちにもあるのか。がっかり」
 クツを脱いでアスカはソファーに横になる。
「おみやげ捜すの大変だったんだから、もと喜んでよ」
 と、言いながらアスカは眠そうな瞼を閉じた。

「駄目よ、アスカ。ここで寝ちゃ。しょうがないわね」
 あっという間にアスカは可愛い寝息をたてた。
「あーあッ、寝ちゃった。キャプテン運んでよ」
 と、言ってナオは振り返る。キャプテンは難しい顔で悩んでいた。

「ねえ、どうしたの。キャプテン、何を考えてるの?」
「うん、このジャガイモはデスラカン帝国が、この大型戦闘艇が遭難した時、その非常
食として開発した新種の薄紫色のジャガイモ。一般には出回っていない代物だ。それが
どうして?」
<<キャプテン、その通りです。このサザンクロス星にはあってはならない物です>>
 ロボットのベンの声が宇宙船中に響いた。
そして、キャプテンの悩ましい顔が少しずつ笑顔に変わってきた。

「どう言うこと、分かるように説明してよ」
 ナオが首を傾げて言う。
「ベン、デスラカン帝国の大型戦闘艇の7艘の所在確認は取れているか?」
<<キャプテン、大型戦闘艇の確認は取れています。しかし、大型輸送船が1艘確認が
取れていません>>
「そうか、その大型輸送船も非常食用の種が積まれているのか?」
<<キャプテン、わたしは把握していませんが、大型輸送船にはワープ機能がありませ
ん。2000人の搭乗員と長時間の船旅、それらを考慮すれば当然積んでいるでしょう
>>

「そうすると、われわれがこのサザンクロス星に来た時、デスラカン帝国の大型戦闘艇
と大型輸送船が上空にいたな?」
<<その通りです>>
「その時にもう1艘の大型輸送船がサザンクロス星の反対側にいたことになるな?」
<<まちがいありません、ですが、この1週間サザンクロス星の通信電波を盗聴してい
ますが、それらしき怪電波は出ていません>>



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