そして、列を崩さず小鳥の声が聞こえる草むらを、森へ森へと進む。草といっても草 は腰の辺まであり、大きなトカゲや、大蛇が潜んでいる可能性がある。 警戒するためか歩くスピードが遅くなり、雑談が止んだ。 「これから森に入る、森を抜ければ目的地に着く。もう一息だ、がんばれ」 リチャード教授は励ましの激を飛ばした。 そして、森に入ると草や樹の青臭い匂いが鼻をつく、30メートル近い大樹が無数に立 ちはだかり、日差しを遮り鬱蒼としている。今にも獣が襲ってきそうである。 先頭の学生は震える足で、一歩一歩前に進む。冬なのにレーザー銃を持つ手が汗で、 ぬるぬるに滑る。その掌を探検服の腰に擦りつけた。
<<ギャー、ギャー、ギャー>> 調査隊一行の頭上を漆黒の大鳥が飛んでいる。 「あれは怪鳥ケピロスね、いつ見ても大きくて不気味だわ」 頭上を見てオスカーが言う。 「そうですね、われわれに挨拶をしに来たんでしょう」 リチャード教授が笑いながら言う。レーザー銃を持たない学生たちは撮影スタッフの 荷物運びをしていた。そして、荷物を楯に上空を見上げる。 「うーん、晴れていたのに曇ってきたな、撮影には影響ないか?」 不安そうにリチャード教授が言う。 「よくはないけど、ぎりぎり大丈夫でしょう。でも、晴れてくれないかな」 撮影隊チーフは渋い顔で言う。 <<ガサ>> その時、横の繁みで気配を感じた。獣か、恐竜か、それとも風のいたずらか。 調査隊一行は、その繁みに背を見せず、横を向いて前に進んだ。
そして、どうにか無事に森を抜けると坂になっていた。そのでこぼこした長い坂を進 むと高台に出た。その高台の眼下から原始林や湖、恐竜が一望できた。 「オー、いつ来ても神秘的だな。それじゃ、レーザー銃を持った学生は前方の警護はい いから、左右の横に1人ずつ、そして後ろを2人で守ってくれ」 「はい、分かりました。教授、レーザー銃は自分の判断で撃ってもいいんですか?」 学生は険しい顔で聞いた。 「いや、撃つ前に声をかけてくれ」 リチャード教授は確認するように4人の学生の顔を見る。 その時、湖で大きな恐竜の親子連れが水を飲み、その長い首を持ち上げる。 「あッ、見たことのある恐竜だ。首と尻尾の長いディプロドクスだ」 子どものアスカは誰に憚ることなく、驚嘆の声を上げた。 「よく知っていたね、その通りだ。しかし、この星にいるとは思わなかった、わたしも 始めてみる。じゃ、撮影を始めてくれ」
「はい、教授、分かりました。おーい、荷物を解いてくれ」 学生たちは素早く荷を解き機材を組み立てた。そして、撮影を始める。 「よし、警護以外の学生は自由研究だ、ただし、この場所を離れるな危険だ」 大きな声でリチャード教授が怒鳴る。 アスカは後ろめたさもなく草の上に座り、のんびりディプロドクスの親子を見てい た。少し離れてオスカーも暇そうに周りを眺めている。
そのうちアスカは、うとうとしだした。 <<ギャー、ギャー、ギャー>> 突然、怪鳥ケピロスが奇声を上げ、上空を旋回する。 「あれ、襲ってくるの?」 アスカは心配そうに上空を見上げて言う。 「まずいな、この近くにケピロスの巣があるみたいだ。出て行けと警告している。しか し、われわれも年に2回の調査だし、多額な予算を消費しているので、おめおめ引き返 すわけにもいかん」 リチャード教授が眉を顰めた。 「教授、撮影はどうするんですか?」 撮影隊チーフは上空を見上げて脚立に手をかける。 「うーん、レーザー銃のメモリを一番弱くして、上空に威嚇射撃してくれ」
「はい、教授」 <<ピューー>> 弱い光が上空に吸い込まれた。 <<ギャーー>> 一段と高い奇声が耳を劈く。 「だめだ、ケピロスが怒った。レーザー銃でケピロスを狙え」 リチャード教授が叫ぶ。 「教授、レーザー銃のメモリは?」 学生が聞く。 「一番強くしろ。襲って来たぞ、早くしろ」 全長2メートル以上の真っ黒い怪鳥が羽を絞り、目は獲物を狙い定め奇声を発しなが ら突っこんで来た。 学生たちは不安と恐怖で手が震え、思うようにレーザー銃が構えられない。
「みんな、伏せて」 小型レーザー銃を構えて、オスカーが怒鳴った。 <<ギャーー>> 漆黒のケピロスの嘴が、オスカーを襲おうとした瞬間、小型レーザー銃から蒼白い光 が放される。 <<ギャーオ>> ケピロスは一瞬たじろぎ、急上昇して旋回後、再び襲って来た。鋭い目の上から赤い 血が滴り落ちるが、怯むようすがない。 「いけない、エネルギーが無い!」 いつも落ち着いているオスカーが顔色を変える。その瞬間、一気にケピロスが突っこ んで来た。
子どものアスカは、ボールペンを前に出し構える。 「アスカ、危ない、伏せて」 甲高いオスカーの声が聞こえた。 <<グアー>> その瞬間、ケピロスは何かに弾き飛ばされたのか、後方に吹っ飛んだ。そして、びっ くりしたような顔付きで、蝙蝠みたいな羽を羽ばたかせて森の中に消えた。 <<ギャー、ギャー、ギャー>> 森の中でケピロスは悔しそうに鳴いている。
「アスカ、どうなったの?」 驚愕の表情でオスカーはアスカを見詰た。 「えへッ、高い周波数の音で脅したの」 アスカは、得意そうにボールペンみたいな周波数発生装置を見せる。 「周波数、それでケピロスを?」 動揺が収まらないオスカーが言う。 「そうよ、マザーが作ってくれたの。こんなに威力があるとは思わなかったけど」 その周波数発生装置をジッと見詰てアスカは微笑んだ。 「うん、今度来る時は、われわれも周波数発生装置を持参しよう。とにかく良かった」 怪我人が出なかったので、リチャード教授は安度する。 「教授、調査が終わるまで、高い周波数の音を上空に向け時々、発音します」 子どものアスカが言う。
「うん、そうしてくれ。レーザー銃で動物を傷つけたくない」 「よーし、撮影再開だ。急いでくれ。オッ、日差しが出て来た」 雲の切れ間から日の光りが、燦然と輝きだした。高台から見るとその輝きが湖に反射 して、小波がキラキラ光っていた。
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