そのサザンクロス国立子供学校は、16歳以下の子供のための学校であり、全国の秀 才が集まっている。それより年上の学生にはサザンクロス国立総合大学があった。 しかし、年齢には関係なく能力がある者には飛び級制度が設けられている。 そして、翌日から子供のアスカは、ナオの運転するエアーカーで登校した。 「じゃ、キャプテン。学校にいってくる」 微笑みながらアスカが言う。 「ああ、アスカにとっては久しぶりの学校だな。言語変換機は持ったか?」 「うん、ベンからもらった」 アスカは嬉しそうに紙袋を持ち上げる。 「アスカ、アスカ、行くわよ」 ナオの大きな声が聞こえる。 「はーい」 アスカはマザーに手を振って、小走りでサロンを出て行った。
そして、宇宙船の外に出ると夏の日差しが輝き、清々しい風がアスカの頬を撫でた。 「今日から頑張るのよ。他の生徒に負けないようにね」 エアーカーの行き先コードを入力しながらナオが言う。 「やーね、教育ママのように言って」 と言って、アスカはナオを見た。 「アスカには宇宙船みんなの期待がかかっているのよ、しっかりしてよ」 「うん」 少し反抗するようにアスカは窓の外を見詰ながら言う。アスカはナオに云われなくて もそんなことは十分承知していた。 そのためアスカは宇宙語を必死に勉強している。それ以外にもアスカの知らない宇宙 方程式、宇宙の法則をロボットのベンから習っていた。 地球人と宇宙人のダブルの子という出生の秘密を知ったアスカは、それなりのプライ ドを持っている。今さらナオにいわれなくてもアスカは力強く生きていた。
周りの人はアスカのことをナオの子供だと思っているが、ナオは歳の離れた妹ぐらい に考えている。キャプテンは子供のアスカに甘いので、わたしが躾をしないと、と考え ていた。
キャプテンは地球から逃亡した時、人生の目標を宇宙平定に決めている。そのためナ オとアスカにはそれほど愛情を感じていなかった。しかし、まったく愛情が無いわけで なく、人生の目標が大きすぎるため、それだけの余裕が無かった。 サザンクロスの平和より宇宙の平和を望んでいる。そのためには多少の犠牲はしょうが ないと考えていた。そのことはサザンクロス国王も薄々感じている。
サザンクロス国王カイザーには、一人息子のサルダンがいる。歳を取ってから出来た 子だけに甘やかして育てた。そのため絶対君主制を嫌がり、宮廷を飛び出してサザンク ロス国立子供学校で寄宿舎生活を送っている。 国王は王政に拘らなかった。サザンクロスの民の幸せだけを考えている。しかし、思 うようにサザンクロスの民に笑顔が見えなくて焦りを感じていた。
「あら、あそこに見える学校、サザンクロス国立子供学校だわ。アスカ、帰りは時間通 りに3時に迎えに来るけど、変更する場合は携帯で連絡してね」 「うん、分かった」 「アスカ、虐めにあったら直ぐに言うのよ。ベンやマザーに敵う人はいないわ、キャプ テンが怒ればサザンクロス星なんか宇宙の塵になるわ」 「大丈夫よ、この星の人はおとなしい性格だから」 クッスとアスカは笑って、エアーカーから降りる。 「アスカ、問題を起こさないでね」 「うん、分かった」 そして、アスカは人ごみにまみれた。 「頑張るのよ、アスカ」 その人ごみをいつまでも見詰ながらナオは呟く。
その後、アスカは事務局に顔出す。 「あッ、アスカ。理事長がお待ちよ。一緒に来てください」 事務局の人間型アンドロイドの受付嬢が、アスカに言った。 「えッ、わたしですか?」 びっくりした顔で、子供のアスカが振り返る。直ぐに別な受付嬢が出て来てアスカを 促し、受付の横から長い通路を通り、幾つかの教授室を横目で見て、奥の趣がある部屋 に入る。 <<理事長、アスカをお連れしました>> その男は大きな本棚の前で、分厚い本を調べていた。そして、振り返った。 「あらッ、国王と一緒にいた人?」 見覚えがある顔にアスカは、思わず声が漏れた。 「ハハハッ、わたしは防衛大臣ガブリエルの双子の弟、ピェールだ。アスカが見たのは 兄のガブリエルでしょう」
「そう、そっくり」 穴のあくほどアスカは理事長を大きな目で見詰る。 「そうか、アスカのことは防衛大臣から聞いている。両親代わりのキャプテンもナオも 数奇な運命を辿っている。過去のことは忘れて、ここで勉学にスポーツに励み、いい友 人を作ってください」 優しい眼差しで理事長はアスカを見た。 「はい、分かりました」 小さく頷きアスカは言う。 「うん、じゃ、君。アスカをアンジェリーナに紹介して」 <<はい、理事長。分かりました>> 理事長は手を振り、アスカを見送る。 サザンクロス人にしては防衛大臣も理事長も、珍しくジャガイモみたいな顔をしてい た。少し赤ら顔の団栗眼で見詰、ねちねちと話す癖があった。
「ねえねえ、アンジェリーナってどんな先生なの?」 理事長室から戻る途中、アスカは人間型アンドロイドの受付嬢に聞く。 <<生徒たちはアンジーと呼んでいるわ。若くて、スタイルがよく、綺麗な先生よ。多 分アスカも気にいるわよ>> そして、職員室の中に入って行く。 <<アンジー、この子がアスカよ。理事長から紹介するように言われたの>> 人間型アンドロイドの受付嬢は、髪が長く大きな目の綺麗な女性に声をかける。その 女性は微笑みながらアスカを見た。 宮廷のオスカーも美しかったが、負けず劣らずアンジーも美しい。オスカーが秘めた 美しさなら、アンジーには華やいだ美しさが演出されて、オーラの輝きがあった。 暫く、アスカは見とれていた。 「はーい、アスカ。アンジーよ。よろしくね。後はわたしが引き継ぐわ、ご苦労さま」 零れんばかりの笑顔で、アンジーがアスカを迎える。 「アスカです、よろしく」 思わずアスカはお辞儀をしてしまった。 「アスカ、事情は聞いているわ。ここサザンクロスはいいところよ、楽しんでね。これ がアスカのパスワードよ、暗記したら破いて捨てて」 「はい、分かりました」 アスカは11桁のパスワードを一瞥して、紙を破いてゴミ箱に捨てる。 「えッ、もう覚えたの?」 アンジーは目を大きくしてアスカを見た。 「はい、300桁までなら瞬時に覚えられます。数字でも文字でもなんでも」 微笑みながらアスカは言う。その時、雑談で喧しかった職員室が静になる。 「新人類か?」 職員室の奥で若い男性教師が言う。
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