翌日。 オスカーが迎えに来るというので、外出する用意をしてキャプテンは待っていた。子 どものアスカは嬉しくて、朝からはしゃいでいた。 「ねえねえ、キャプテン。どこへ行くの?」 「分からないが、以前サザンクロス星の紹介映像で見た所に、行くんじゃないか」 キャプテンは、朝から同じ質問を繰り返すアスカに面倒臭そうに言う。 「ねえッ、遊園地には行かないの?」 舌打ちをするようにアスカは顔を顰める。 「アスカ、社会勉強にいくのよ。五月蝿くしちゃ駄目よ」 ナオがアスカを睨む。 「分かってる」 ふてくされて、アスカは視線を逸らした。
暫くして、オスカーがエアーカーで迎えに来た。 「じゃ、ベン。留守番を頼む」 <<キャプテン、敵の宇宙船が来たらマザーに連絡します>> マザーは背を正し凛とした顔で頷いた。 「うん、扉を開けてくれ」 宇宙船の外に出ると、ひときわ鮮やかな夏の青い空が目に飛び込んだ。オスカーはは ち切れそうな体をシックな黒のスーツに身を包んでいる。そして、シルバーメタルの最 新型のエアーカーの横に立っていた。だが、オスカーの他は姿が見えない。 「お早う、待たせたね」 「みなさん、お早うございます」 オスカーが微笑みながら言う。 「今日は、よろしくお願いします。子どものアスカが粗相するかもしれませんが」 と、ナオは言って、オスカーのヘヤースタイルや着ているものを羨ましそうに見た。 「そんな子どもじゃないよ。ねえ、遊園地みたいなところは行かないの?」 子どものアスカは大きな目でオスカーを見詰る。 「アスカ、三人の興味がありそうなところをスケジュールに組み込んでありますよ」 「ワーッ」 と、言って両手を上げて、アスカは全身で嬉しさを表した。
「さあー、お乗りください。サザンクロスのメディアセンターにご案内します」 オスカーは笑みを浮かべ、三人を促した。 「前がいい、わたし前に座る」 アスカは人に取られないように助手席にいきよいよく乗り込む。 エアーカーは6人乗りで、運転手席、その横の助手席。その後ろにキャプテンとナオが 座り、その後ろにマザーが座る。そして、運転といっても行き先を数値化してあるの で、数値を打ち込むか、口頭で言えば自動で目的地まで飛んでくれる。
「ねえねえ、オスカー。メディアセンターってゲームセンターもあるの?」 「えー、たしかあったと思ったわ。でも、メディアセンターはナオのために行くのよ。 ナオ、華やかなところが好きなんでしょ?」 エアーカーを離陸させながら、オスカーが言う。 「えッ、何で知っているの、わたしの好み?」 ナオはびっくりした顔で言う。 「うーん、何となく分かるわ。もしかしたら番組に特別出演してもらうわ。ナオ、嫌じ ゃないでしょう?」 得意そうにオスカーが言う。 「ええッ、いいけど」 クスッと笑うようにナオが言う。 「わたしも、ねえねえ、オスカー。わたしも出たい」 子どものアスカは目を輝かして、オスカーを見詰る。 「いいわよ、アスカ」 正面を見ながらオスカーが言う。エアーカーは上昇して、超高層ビルの上空の抜ける ような青い空を悠々と飛んでいた。
「オスカー、この高さで飛んでいるエアーカーは、他に見当たらないな?」 超高層ビルの屋上を下に見て、一羽の鳥のように飛んでいる。サザンクロスの国全体 が下界に広がった。 「はい、本来この空域は飛行禁止空域です、飛ぶことは出来ませんが、今日は許可をと り飛んでいます。素晴らしい眺望でしょう?」 「ええッ、こんな絶景初めてだわ、一生忘れられないわ」 感動したようにナオが言う。子どものアスカは助手席で見慣れない景色が恐いのか、 手摺を掴み両足を踏ん張っていた。 「どうしました、アスカ。高いところが恐ければ地上に降りましょうか?」 前を見てオスカーが優しく言う。 「うん、大丈夫」 小さな声でアスカが呟くように言った。
暫くすると、前方に大きな建物が見えてきた。中央でシルバーメタルの球体が輝いて いた。エアーカーはスピードを落とし、迂回しながら高度を下げる。 「ほら、眼下にみえる大きな建物が、サザンクロスメディアセンターです」 助手席のアスカの様子を見ながらオスカーが言った。 「よかった、おしっこがしたかったの」 アスカがほっとしたように言う。 「あッ、そうなの。じゃ、屋上に着けるわね」 オスカーは垂直に下降させ、球体の上の狭いエアーポートに無理やり着陸させた。 「さあー、アスカ。早く」 エアーカーから先に降りたオスカーがアスカを促す。そして、オスカーに手を引かれ て、アスカはエアーポートの出入り口から姿を消した。 「うーん、アスカは何時もああなのか?」 キャプテンが首を捻る。 「多分、エアーカーに乗ったので緊張したせいじゃないの」 と、ナオが窓の外を見ながら言う。
その時。 「おい、誰の許可でここに停めているだ」 警備服で身を固めた、厳しい大男が顔を覗かした。 「いや、われわれはオスカーの」 「何だ、オスカーって、誰なんだ。ともかく迷惑だ、直ぐに離陸させろ警察を呼ぶぞ」 戸惑った表情でキャプテンは目を逸らす。 警備員はキャプテンたちが直ぐにエアーカーを離陸させるつもりがないと判断して、 肩に取り付けていたマイクで警察を呼んだ。 数分で、メディアセンター詰め所の警官が4人走って来た。 「業務妨害だ。身分証明書を見せて」 一人のにやけた警官がエアーカーの窓を開けさせ顔を突っこんで言う。 「ない、われわれは持ってない」 キャプテンが言うと、その警官は腰のレーザー銃に手を置く。そして、エアーカーの 外の3人の警官はレーザー銃を抜き構える。 「そうか、悪いけどエアーカーから降りてくれない。両手はクロスさせ胸の前につけて よ。言うこと聞かないと撃つからね」 その警官は嬉しそうに目が笑っている。なんとも胡散臭い警官だった。仕方なくキャ プテンとナオは言われた通りに両腕をばってんにして、胸につけた。
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