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作品名:銀河を渡る船 第三部・憧れの新天地 作者:佐藤 神

第8回   8

「陛下、あれから1時間が過ぎました。一般メディアは下船させ、会議を始めましょう
か?」
「うん、キャプテンの国がなぜ衰退したのか、その理由と、どうすべきだったのか、と
ことん聞きたい」
 そして一般メディアを撤収させ、サロンの桜を囲んで会議が始まった。

 キャプテンは日本の天皇制を説明してから、歴史を振り返り戦国時から詳細に話し出
した。
 織田信長を中心に、義理の父親蝮の道三。息子の謀反。桶狭間の戦い、長篠の戦い、
七本槍の賤ヶ岳の戦い。そして、北条早雲、今川義元、武田信玄、上杉謙信の話を適当
に面白おかしく話した。信長の天下布武には国王も閣僚も真剣に聞いていた。
 そして休憩を挟み、江戸時代、明治時代、大正時代のことを説明する。
「じゃ、午後から問題の昭和、平成の話をします。陛下、食事にしましょう」

 子どものアスカと、マザーが宇宙食のビスケットを配る。そしてナオが鱶鰭風スープ
を注いだ。
「さあ、皆様、召し上がってください。よろしかったら余分にありますから」
「うん、馳走になろう」
 と、言って国王が一口食べると、閣僚の大臣たちもいっせいに食べ始めた。
「ところで、キャプテン。生活費の金は足りているのか?」
「陛下、この宇宙船を手に入れた時、小さな金庫がありました。金庫の中には宇宙中の
紙幣が入っていて、十分足りています。それに金を使う必要もありません」
「うん、使う必要がないか。いや、使うところを知らないんだろう。質問も今日で終わ
る。オスカー、明日、キャプテンたちに街を案内してやってくれ」
 国王はオスカーを見る。
「陛下、かしこまりました」
 末席にいたオスカーが言う。
 子どものアスカがニャーと笑いナオを見た。ナオも含み笑いで頷く。

 和やかな食事が終わり、国王はサロンの中を見回す。隅に浮かぶボムボートを不思議
そうに見ていたが、質問することは無かった。

「じゃあ、問題の昭和、平成、名録に渡る衰退を説明します」
 キャプテンは国王を見詰た。国王は、国営メディアを一瞥して、頷く。
「経済不況で始まった昭和は、大蔵大臣の銀行破綻発言で全国的に取付け騒ぎが起こ
る。尚且つ、経済政策の貧困により景気回復しないまま、世界恐慌に襲われた。
 日本は八方塞になり、八紘一宇をスローガンにして海外侵略を正当化しようとする。
そして、隣国の中国の満州に無理やり武力進撃を開始した。
 日本軍は満州では関東軍と名乗り、瞬く間に満州を制圧して満州国を成立させる」

 と、言ってキャプテンはサロンを見渡した。みんな渋い顔付きで聞いている。国王だ
けは無表情で聞き入っていた。
「その中国が怒り、国際連盟に訴え満州国を白紙に戻した。日本は国際連盟を脱退して
世界戦争に突入する。最初から勝ち目は無く、最後は日本国が原爆実験場にされた。
 そして、日本国はある政治家のために勝戦国の属国となった。今思えばあの時、日本
国民の心を売ったのではないかと、わたしは思う。一説には勝戦国に従うふりをして独
自の政策を貫き通したと言う人もいるが、戦後7,80年経てばそれがそれがはっきり
分かった。昔虐めた中国に攻め込まれ、誰も助けてくれなかった」

「それで」
 国王が言った。
「戦後、戦禍で疲弊した国土の再建を目指し、不眠不休の据え世界でも目覚しい普及を
成し遂げた。しかし、その代償は大きかった。環境破壊に家族の崩壊、繁栄のために心
を売ったその報いで、何事にも無関心になった。またテレビ放送が一億総白痴化に大き
な役割を果たした」
「待ってくれ、テレビ番組のことか?」
「はい、視聴者には何も考えさせない、低俗な番組ばかりを放送していたそうです。さ
くらの視聴者をスタジオに用意して、笑い所も番組が指示していたとのこと。どうも政
府は国民が政治に関与しないようにテレビ番組に圧力をかけていたそうです」

「そんなバカなことが」
 国王は自国のテレビ番組と勘案する。
「その当時の有識者の文献にはそのようなことが、記述されておりました。また、大口
の政治献金があり、当時の大企業のスポンサーも裏で加担していたそうです」

 政府の奇策にまんまと乗せられた国民は、何事にも無関心になった。そのため国の未
来を託す、重大な国政選挙がまともに出来なくなった。
 常に目先の利害関係が優先して、国の未来は無視された。また日本の官僚と言う悪辣
な公務員のため国の税金が搾取され、それを咎めるまともな政治家もいない。
 あの当時、700人以上の国会議員がいた。そして当時の金で一人の年間消費金額が
7000万円以上という金額が支払われていた。
 国会議員はほとんどの議員が副業をしていた。特にお笑い番組に出て、高額な出演料
を得ていた不埒者が大勢いた。そんな連中がまともな政治ができるわけがない。
 そんな堕落した議員は、二世議員が多かった。

 あのころは酷かった。一党独裁でその政党に属していれば、政党から闇資金が自由に
もらえる。一党独裁といっても宗教団体の政党と連立を組んでいた。だが、無能な政策
に国民から見放された、その与党が崩壊すると宗教政党も自然消滅した。
 と、言ってキャプテンはサロンの桜を見上げた。
「そうか、その日本の野党の政治家は何故、政治家になったんだ?」
 陛下が首を傾げる。
「はい、自分のため、一族のためです。国会議員と言う国家権力、特権を手中に収めれ
ば、逆らえるものはいません。利権はおもうまま、そんな輩が官僚を取り締まれるわけ
が無く、族議員と言う官僚の飼い犬となり、官僚の天下り先を庇護しました」

「陛下、わたしの話は面白いですか?」
 キャプテンは昔の日本の話をしている自分が、滑稽に思えた。何となく集中力が途切
れたようである。
「うん、戦国時代の話は宇宙の勢力争いに通じる。天下布武の信長は差し詰めデスラカ
ン国王だな。そして、昔の日本の国会議員のことは、わが国の議員にも言えること。反
面教師として重く受け止めている」
 国王は険しい目つきでキャプテンを見る。

 その後、キャプテンは信長を殺した明智光秀の諸説ある生い立ちから、逃げる途中、
土地の農民の手によって殺されたことを、話すか、政治家の衰退を招いた二世議員の誕
生を話すか、それとも泥棒みたいな、天下り法人の一般入札妨害の仕組みを話すか、暫
く煩悶していた。

「それでは陛下、政治家の衰退を招いた二世議員のことを話します」
 と、キャプテンが言った。
「そうか、わが国にもそれを規制した法律がある。是非とも聞きたい」
 国王は目を瞑り、キャプテンの話に集中した。子どものアスカは飽きたのか席を立
ち、サロンを抜け出した。
「昔の日本は国会議員の二世、三世が親の後を継ぎ、苦労もしないいい加減な政治家が
過半数を超えた。金まみれの腐りきった心には年金生活者の....」


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