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作品名:銀河を渡る船 第三部・憧れの新天地 作者:佐藤 神

第7回   7

そして、録画が終了すると、見てはいけないものを見てしまったと言う顔でみんな目を
背ける。暫く会場は重い空気に包まれた。
「陛下、良くも悪くもこれが戦いです」
 キャプテンは大きな声で言う。
「うん、分かった。おい、防衛大臣ガブリエル」
 国王はガブリエルを見た。
「もし、この映像を宇宙ニュースに流したらどうなる?」
「陛下、デスラカン帝国は求心力を失い、一歩も二歩も後退するでしょう」
 顔色を変えて、ガブリエル防衛大臣が言う。
「そうであろうな、あの一度も攻め込まれたことが無い無敵のデスラカンが」
 愉快そうに国王の口元から笑みが漏れた。

「陛下、この一戦でデスラカン帝国は、戦略を変えざるを得ないでしょう」
 キャプテンは静に言う。
「うん、どうなるだ?」
「陛下、攻撃一辺倒のデスラカン帝国は、主力の最新型大型戦闘艇を防御に回すことに
なります。最終兵器はデスラカンの宮廷に限らず、デスラカン星のどこに撃ち込んでも
星が崩壊します。
 そのため、デスラカン星の東西南北、上下の6カ所に最新型大型戦闘艇を配備するこ
とになります。そうすると攻撃戦力が大きく落ち込み、デスラカン帝国は戦地を縮小せ
ざるを得ないでしょう」
 キャプテンは大きな声で言う。
「うん、諸刃の剣か」
 と、国王は呟いた。

 翌日。
 宇宙港に泊めていたキャプテンの最新型大型戦闘艇の横に、大型エアーカーが列を成
して着陸する。
 国王の一言で、今日の質問場所が宮廷から、キャプテンの最新型大型戦闘艇に変更さ
れた。
 ぞろぞろとメディアの一群が、2番目の大型エアーカーの出口を遠巻きに取り囲ん
む。そして、ドアが開き国王がにこやかに手を振り姿を現した。その後ろにはオスカー
室長が続く。離れて5人の警務官が扇形で警護する。
 直ぐに1番目の大型エアーカーから閣僚が降りて来た。それから3番目の大型エアー
カーから国営の報道陣が通信器具を担いで大勢出て来る。そして、最新型大型戦闘艇の
扉が開き、キャプテン、ナオ、子どものアスカ、マザーが出てきた。

 国王は珍しそうに最新型大型戦闘艇を端から端まで凝視している。
「うん、キャプテン。この目で始めて見るが要塞みたいな宇宙船だな」
 感心したような顔で、国王は言う。
「はい、陛下。この最新型大型戦闘艇の番人、ベンジャミンV号がこの宇宙船のことを
説明いたします。どうぞこちらへ」
「うん」
 国王は頷いた。
「それから国王以外の人は、このドクターロボのマザーが武器を持っていないかボディ
チェックをおこないます」
「何、われわれ閣僚にもボディチェックをするのか。失礼じゃないか」
 声を荒げて防衛大臣のガブリエルが、キャプテンを睨みつけた。
「はい、この最新型大型戦闘艇のルールです。お許しください、ガブリエル防衛大臣」
 動じることなくキャプテンは突っぱねた。
「いいではないか、ガブリエル。この最新型大型戦闘艇の中は治外法権みたいなもの
だ。従え」
 国王は振り返り強い口調で言う。
「はッ、陛下の仰せの通りに」
 ガブリエルは直立不動の姿勢をとった。そして、訪問者は次から次へと最新型大型戦
闘艇に入る。マザーのボディチェックといっても、マザーの指が肩に触れるだけで、何
を持っているのか判別できたので、列が滞ることが無く最新型大型戦闘艇に入る、その
数およそ90人。

<<それでは一般メディアの方は、1時間だけ取材を許可します。時間になったら速や
かにお帰りください。取材禁止区域はありませんが、もし、不正行為があれば命の保障
はできません。注意してください>>
 ベンの声が宇宙船内に響いた。
「では陛下、この宇宙船の概要をベンが説明します」
「うん、頼む」
 国王は桜を愛でながら、ベンの説明を聞いている。だが、ベンの話は時々途切れた。
<<あ、その袋をポケットにしまわないでください。それは鶏肉を燻製にしたもので
す、写真撮影は許可しますが、持ち帰らないでください。わたしにはこの宇宙船の中の
ことが全て見えています。あなた、イエローカードです。では、話を進めます>>
 暫くしてベンの説明が終わり、キャプテンは国王を船内に案内する。

 ナオと子どものアスカは、その後ろから付いて行く。列から離れたカメラマンを見つ
けると、ナオは壁に寄りそったり、にっこり微笑んだりして、写真のポーズをとる。
それを見てアスカも真似してポーズをとる。
 しかし、何枚かの写真を取るとカメラマンが飽きて、別の被写体を求めて消えた。
「やあね、遠慮して。もっと取ればいいのに」
 ナオは不満そうに髪を掻き揚げる。

 国王一行は、ぞろぞろと通路を進む。
「キャプテン、あのゴムボートは何で置いているんだ?」
 国王はシャワー室の中のゴムボートに興味を示した。
「陛下、ゴムボートの中にシャワーのお湯を溜め、裸で入り浸かっていると体の疲れが
取れます」
「そうか、面白そうだな。おい、オスカー」
「はい、陛下」
「うーん、宮廷でも出来そうだな?」
「はい、陛下。今夜からでも」
「うん」
 そして、国王は広い倉庫を丹念に珍味を探していた。珍味が見つかるとオスカーに渡
し、最後はオスカーの両手に結構な量が溜まる。
「キャプテン、この食料をもらいたい。その代わり宮廷の食料を届けよう」
「はい、陛下」
「うん、異星の宇宙船はおもしろい、ここに来たかいがあったな」
 上機嫌で国王は笑いながら言った。



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