「ねえ、ねえ、すわる椅子はないの?」 子どものアスカがキョロキョロ周りを見ながら言う。 「アスカ、中央のテーブルに席があります。さあー、みなさんもご一緒に」 オスカーの後に三人が続く。そして、マザーも続いた。 「さあ、主賓席にお座りください。この後、陛下がお見えになったら立ち上がり陛下を お迎えしてください。そして陛下がお座りになってから、椅子に座ってください」 オスカーが小さな声で、ゆっくり言う。 テーブルの上の白い布を子どものアスカが珍しいのか小さな手で触っている。 「ねえ、ナオ。この布はなにに使うの?」 「これはテーブルを綺麗に飾っているのよ。触らないでじっとしていて、みんな見てる わよ」 ナオは正面を見て、小声で言う。
暫くして、陛下が正装して姿を現した。胸の前の勲章が鈍く光っている。 そしてキャプテンが立ち上がると、全員が立ち上がった。お付の者が椅子を引くと国王 が座った。それを見てキャプテンが座ると、全員が座った。 「本日は、サザンクロス星の警護に当たるキャプテン一行の歓迎会だ。星が違えば礼儀 作法も異なる。これからは全て、無礼講だ。閉会も設けない、好きな時に席を立て、た だし明日も10時から質問を始めるから遅れるな。以上だ」 と、言って国王は、オスカーを見た。国王は料理を運びなさいという催促の積もりだ った。しかし、オスカーはキャプテンを見詰、軽く顎を杓った。 それを見て、キャプテンは頷いた。
「本日は、このような歓迎会を催していただき、心より感謝いたします。宇宙を彷徨っ ていたわれわれには夢のようです。陛下に御使い出来ることは一族の誉れです。これか らは陛下のため、サザンクロスのため命を捨て警護いたします」 大きな声でキャプテンが言った。そして、国王は目を細め大きく頷いた。 「料理を」 オスカーは安心したように言う。
そして、着飾った女性が行列で、いろいろな料理を運び、テーブルがご馳走の山とな る。肉、魚、野菜、スープ、手の込んだ食べ物が食欲を誘った。 子どものアスカは目の色を変えて、最高級の肉に被りつく。 「あ、うまい。こんなの初めて」 アスカは次に何を食べようかテーブルの上の料理を物色している。ドクターロボのマ ザーはいつもの様に背を正し、凛とした顔付きで正面を見詰ている。 「キャプテン、ドクターロボに高級オイルでも用意しようか?」 国王はグラスを片手に言う。 「うーん、どうするマザー?」 キャプテンはマザーを見る。 「陛下、ご心配なく。食欲がありませんので」 マザーは国王を見詰る。 「そうか」
暫く、飲み食いした後で、赤い顔で陛下が横のキャプテンを見た。 「キャプテン、デスラカン星でバリアーが邪魔して、最終兵器を打ち込めなかったと言 っていたな?」 「はい、陛下、その通りです」 と、キャプテンが言う。 「そうか、一瞬のうちに、5000万人の命が消えるんだぞ。ほんとうに最終兵器が使 えるのか?」 それまで食器の音がガチャガチャ聞こえていたが、会場が水を打ったようにシーンと なり、キャプテンの返事に集中した。 「はい、宇宙の平和と安全を守るため、何の迷いも無く最終兵器を起動しました。 しかし、直ぐにデスラカン帝国がバリアーを張り、迎撃の高速戦闘機が見えたので、最 終兵器の発射を中止して、ワープで逃げてきました」 さらりとキャプテンは言った。そして、陛下はグラスを空けた。 「うん、デスラカン帝国は一度も攻め込まれたことが無い無敵の軍国だ。それをたった 一人の民間人が宮殿を崩壊させたとは、申し訳ないが信じられん」 その会場にいた閣僚たちは、食事を忘れ二人の話に聞き入っていた。
「ご覧になりますか?」 「うん、先ほど宇宙ニュースで破壊されたところの映像が流れていたのを見たが、犯人 は不明だと言っていた」 と、国王はキャプテンを一瞥して、空のグラスを少し持ち上げる。するとお付の者が 重々しく注いだ。 「いや、閣下。その一部始終をです」 「どうやって?」 「はい、最終兵器の番人、ベンジャミンV号が録画して、宝物のように大事に保管して いるはずです」 「そうか、余興といっては何だが、この場で再現してもらってもいいか?」 酔いが回ったのか、国王の口元が笑っている。 「はい、陛下、ご覧ください。マザー、ベンは今の話を聞いているはずだな?」 キャプテンはマザーを見た。 <<キャプテン、聞いていました。いつでも送れます>> マザーの口からベンの声が聞こえる。 「オスカー、この会場の真ん中で再生する」 「はい、陛下」 直ぐに装置が運ばれセットアップされた。 「陛下、いつでも」 オスカーは微笑んで言った。 国王がキャプテンを見詰た。そして促すように頷いた。 「ベン、デスラカン星にワープしたところから送ってくれ」 <<キャプテン、了解しました>>
その会場の中央に立体映像が浮かび上がる。 その映像はキャプテンが気を失って伸びているところから始まった。 キャプテンの顔にマザーの掌が覆う。 <<キャプテン、気がつきましたか?>> 「ああ、ここは?」 <<キャプテン、デスラカン帝国の宮廷の上空です>> 「そうか、ベン、最終兵器をぶち込め」 目の前のキャプテンは中指を立て口元がニャと笑っていた。 <<キャプテン、了解しました。最終兵器発射、30秒前>> <<キューン、キューン、キューン>> 宇宙船内に最終兵器の警告音が鳴り響く。 <<キャプテン、最終兵器発射10秒をきると、解除不能になります>> ベンの声が聞こえる。 <<最終兵器発射20秒前>>
「しまった。デスカラン帝国のやつら、バリアーを張ろうとしている」 宮廷の両脇の山から、薄い黄色い膜が中心に向かい徐々に張られてきた。 「最終兵器発射中止。主砲のレーザー砲で宮廷の塔を破壊」 キャプテンが言うのと同時に、眩い光が薄い黄色いバリアーを突き抜け、高さ300 メートルの塔を照らした。その瞬間、ズズーンと塔が崩壊し、宮廷も半壊した。その 時、オレンジ色のバリアーが完全に張られ高速戦闘機が向かって来た。 映像は破壊された宮廷を確認するように映っている。次の瞬間、キャプテンの冷酷で 鬼のような形相の横顔に焦点が合わせられた。 「ベン、サザンクロス星上空まで、ワープせよ」 <<キャプテン、了解しました。ワープ30秒前>> <<ワァンー、ワァンー、ワァンー>> その映像はベンが見た映像がそのまま録画されていた。
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