<<待て、キャプテン。待ってくれ、ガブリエルだ>> ガブリエルの必死な呼びかけが聞こえた。 「こちらキャプテン、ガブリエル、残念だが時間切れだ。縁がなかったとあきらめる」 さばさばした感じでキャプテンが言った。 <<待て、国王のカイザーだ。直ぐに話し合いがしたい>> 「こちらキャプテン、了解した。宇宙港に着陸する」 その声に操縦室が和らいだ。そして、子どものアスカは泣きそうな顔で、ナオを見て にっこり微笑んだ。ナオはアスカの手を握り小さく頷いた。 「うん、どうにか間に合ったみたいだな。ベン、宇宙港へ引き返してくれ」 <<キャプテン、了解しました。よかったですね>> 「うん、国王が出てきたからもう大丈夫だろう」 しかし、キャプテンは対応の遅さに不審を払拭することが出来なかった。
そして、最新型の大型戦闘艇が白い宇宙港の隅に着陸する。すると直ぐに大型の高級 エアーカーが横付けされた。 <<カイザー国王の命により、迎えに来ました>> 事務的な声が聞こえた。 「了解した」 「ねえ、キャプテン、大丈夫。気をつけてね」 子どものナオが心配そうに言う。 「いや、全員で行く。マザーも一緒に連れて行く。これからのことを考えれば、全て晒 した方がいいだろう」 「そうね、二心ないことを示した方が、信用するわ」 髪を掻き揚げナオが厳しい表情で言う。 「ベン、ベンはこの宇宙船から離れると強制的に自爆するように仕組まれている。しか し、ベンがいないとなると誰が言語変換をするんだ。同時通訳ヘッドホーンでもあるの か?」 <<キャプテン、マザーが一緒ならマザーと宇宙船のコンピューターを直結させます。 それで言語変換の問題は解決します。それにマザーの目で見たものはコンピューターを 介してわたしにも見えます>> 「うん、それを聞いて安心した。留守中、サザンクロスの警備官が宇宙船を調べに来る かもしれない。協力してやってくれ」 <<キャプテン、最終兵器も見せるのですか?>> 「そうだ、全てを晒せ。生きるためだ」 <<キャプテン、了解しました>>
暫くしてキャプテンとナオ、子どものアスカとドクターロボのマザーが、大型のエア ーカーの中に乗り込んだ。エアーカーの中には5人の警務官がいた。そしてシートに座 るように言われ、子どものアスカは窓際に座り、珍しそうに窓から外を眺めている。
そして、エアーカーがふわっと浮かんだ。 「ねえねえ、見て、海に船が浮いているよ」 小さな声でアスカは隣りのナオに言う。始めてみる光景にアスカは興奮していた。 「懐かしいわね、遊覧船かしら。芦ノ湖を思い出すわ」 ナオは眼下の船を見る。そして、青い空と遠くの白い雲を見詰た。 海に突き出た宇宙港から、高層建築が立ち並ぶ繁華街の上空を矢のようなスピードで 突き抜ける。そして、はるか彼方に見える山並に向かって進んでいる。 その山が目の前に迫った時、山麓に宮廷が見えた。よく見るとその山々が自然の要塞 となり、難攻不落とは言えないまでも、かなり堅固のように思える。 「うん、屈折に富んだ地形を上手に取り込んでいる、大きくて立派な宮廷だ」 興味深くキャプテンは窓から覗いた。
エアーカーは減速しながら高度を下げ、宮廷の外れにあるエアーポートに着陸する。 そして、宮廷に入る時、金属チェックでマザーが引っかかった。 「ああッ、この白衣を着た女性はドクターロボと言う、医療用ロボットです」 「ええッ、この美しいい女性が、ロボットとは信じられない。だが、ロボットは危険す ぎて通すことが出来ない」 5人の警務官は、マザーを取り囲み腰のレザー銃に手を置いた。 「待ってくれ、国王と連絡を取ってくれ。ドクターロボを通さなければ、われわれはこ の星から撤収する」 キャプテンの声が響く。警務官はお互いに顔を見回した。 「よく考えろ、国王の命は何だ。われわれを国王の前に連れて行くことだろう。ここを 通してくれ」 諭すようにキャプテンが言う。 「ちょっとお待ちください。許可を取ります」 警務官は連絡を取り、どうにかキャプテン一行は無事に通された。
そして前方に3人、後ろに2人の警務官に挟まれてキャプテン一行は宮廷の奥に進む。 擦れ違う人々はその一行に好奇な目を向けた。背の高いキャプテン。白衣を着た上品で 高貴なマザー。そして、片肩を剥き出した絶世の美女ナオ。キョロキョロ見回している 子どものアスカ。サザンクロス人には、どのように見えたのか。
赤い絨毯を踏みしめながら、宮殿の奥へ奥へと進む。 「ねえねえ、ナオ。クツは脱がなくていいの?」 珍しそうに赤い絨毯を見ながら子どものアスカが言う。 「ええ、脱がなくていいのよ。アスカは火星生まれのコロニー育ちだから、絨毯を見る のは初めてね?」 「うん、ふわふわしておもしろい」 アスカは絨毯を踏みつけるようにして歩く。そして、一行は別の建物の前に出た。そ の中に入ると年代物の大きなステンドガラスから光が漏れていた。その豪華な造りに一 行は驚きを隠せなかった。
「オスカー室長、陛下の命により訪問者3名と、ロボットをお連れしました」 警務官が大きな声で言う。 「ご苦労さま、えッ、ロボット?」 「はい、白衣を着たドクターロボ。医療用ロボットです」 オスカーは20歳後半の女性である。肌が透き通るように白く、目鼻立ちがくっきり とした稀に見る美人である。そして、椅子から立ち上がると一行の前に歩み寄った。 「遠路遥遥ご苦労さまです。サザンクロスはあなた方を心より歓迎いたします。わたし は陛下のしもべ、オスカーと申します」 と、言ってオスカーは少し微笑んだ。白い肌が黒いスーツによく映えている。白いう なじが匂うような色香を漂わせて、魅力的な体をしていた。そして、胸の前で軽く手を 組む。その立ち振る舞がいかにも切れ者と言う感じがする。 「そうですか、わたしはキャプテンと言います。こちらがナオ、子どものアスカ。そし て、ドクターロボのマザーです。よろしく」
「アントニー、後はわたしが」 オスカーが警務官に言う。 「分かりました、これで失礼します」 5人の警務官は気を緩めることなく整列して、部屋から出て行った。 「キャプテン、お連れします。こちらへ」 オスカーの後ろにキャプテン一行はぞろぞろと続く。そして、オスカーは大きく重い 扉を開いた。天井が高く、大きな部屋の中央に12、3人の男たちがいた。その男たち は好奇な眼差しでいっせいにキャプテンを見詰た。 「陛下、お連れしました。男性がキャプテン、若い女性がナオ、子どものアスカ。そし て、白衣を着たドクターロボのマザーです」 オスカーは大きな声で朗々と紹介した。 「うん、わたしはサザンクロス星の国王、カイザーだ。待ちかねたぞ、キャプテン。他 の者は宇宙船か?」 中央に座っていたカイザー国王はキャプテン一行を見て言う。洗練された風貌の中に 貫禄が垣間見られる。どう見ても50歳は越えていた。 「はい、宇宙船のコントロールロボット、ベンジャミンV号だけが、宇宙船に残ってい ます」 キャプテンは緊張することなく自然体で言う。
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