暫くして。 「う、うーん....」 キャプテンは焦点が定まらない目で、目の前のマザーの掌を見詰る。 <<キャプテン、気がつきましたか?>> 「ああ、ここは?」 <<キャプテン、サザンクロス星の上空です>> 「そうか、ベン、あの大型輸送船はまだいるか?」 <<キャプテン、大型輸送船はいます。そして高速戦闘機が約100機、輸送船から飛 び出し上空で整列しています>> 「なぜ、攻撃しないんだ?」 <<キャプテン、軍隊は全機揃ったところで攻撃を仕掛けます>> 「よし、ベン。主砲のレーザー砲で大型輸送船をを射撃しろ」 ワープ走法で疲労困憊したキャプテンは、呟くように言う。 <<キャプテン、了解しました。主砲レーザー砲、発射>> 眩い光が伸び、大型輸送船を貫くと思った瞬間、大型輸送船のバリアーに邪魔されて レーザーは稲光となり弾き飛ばされた。 「うん、もう一度やるか。あんなに大きいんだバリアーの燃料切れを待とう」
その時、大型輸送船から連絡が入った。 <<待て、撃たないでくれ。われわれは撤退する>> その声を聞いて、疲れていたキャプテンは大きく安堵の息を吐いた。 「いいだろう、高速戦闘機を回収して帰りなさい」 キャプテンは呟くように言う。暫くすると、高速戦闘機が次々に大型輸送船に飲み込 まれていく。最後の一機を飲み込むと大型輸送船は青空の彼方に消えた。
「あー、やっと終わったか」 スクリーンを見ながら、キャプテンは操縦席の背にゆったりと体を預ける。 <<キャプテン、大成功です。あそこまでデスラカン帝国に直接攻撃を仕掛けた者はい ません。それもデスラカン帝国の象徴である宮殿の破壊。今頃はその情報がインターネ ットでこの大宇宙を駆け巡っているでしょう>> 興奮したようにロボットのベンが言う。 「残念なのは、最終兵器を撃ち込めなかったことだ。このような好機、二度とこないだ ろう」 キャプテンは一度の戦いでデスカラン帝国を消滅したかった。これからはデスカラン 帝国の防御が強固になることは目に見えていた。そのためキャプテンは奇襲に失敗した と思った。
「ベン、サザンクロス星にメッセージを送ってくれ」 キャプテンは躊躇することなく次の行動をとった。 <<キャプテン、了解しました>> 「わたしは宇宙平和維持軍のキャプテンだ。サザンクロス星の平和と安全を無償で守り に来た。われわれの受け入れを要請する。できれば国王と話がしたい、連絡を待つ」 キャプテンはベンを見て、小さく頷いた。 <<キャプテン、了解しました。メッセージを送信します>> 「うん、マザー。ナオとアスカを起こしてくれ。これ以上ワープする必要はない」 キャプテンはマザーを見て言う。 <<キャプテン、分かりました>> マザーはその華奢な手をナオと、アスカの上に翳す。
「あーあ、ここはどこ。何だか疲れたわ」 「ナオ、ここはサザンクロス星だ。今受け入れを要請している」 「う、ううッ、うーん。何だかだるい」 ナオは目を開け髪の毛をゆっくりと掻き揚げた。 「ねえねえ、キャプテン。サザンクロスで暮らすの?」 寝ぼけた顔でアスカが言う。 「うん、受け入れ要請の返事を待っている」 <<キャプテン、サザンクロス星の応答がありません。何かあったんでしょうか?>> 「待つんだ、返事がくるまで何時間でも待つんだ」 疲れたキャプテンの顔が険しくなる。
そして待つこと一時間、やっと応答があった。 <<こちら、サザンクロス星の防衛大臣ガブリエルだ。どうするか検討している、とり あえず宇宙港の隅に宇宙船を停めて、検討の結果を待っていてくれ>> 予想外の応答にキャプテンは戸惑いを隠せなかった。 「こちらキャプテン、了解した」 キャプテンはナオの目を見て小さく首を振った。 「ねえ、ねえ、ナオ、どうなるの?」 子どものアスカは不安そうに聞く。 「大丈夫よ、どうにかなるでしょう。それより前回のワープより疲れたわ。あーあッ」 髪を掻き揚げ、生あくびをかみ殺しながらナオがだるそうに言った。 「うん、何だかおかしい?」 頭を掻きながら、元気がなく子どものアスカが言う。
「そうか、心配すると思って隠していたが、ワープしてここに到着した時、デスカラン 帝国の軍隊が上空に集結していた。わたしは退却するようにデスラカン帝国に警告した が、聞き入れてくれなかった。 そのため仕方なく、デスラカン帝国までワープして、宮廷を攻撃して再度、サザンク ロス星までワープして帰ってきた。だから連続で3回ワープしたことになる」 と、言ってキャプテンは操縦室の天井を仰いだ。 「ちょっと、なにそれ。デスラカン星に行って、宮廷を攻撃した?」 唖然とした表情で、ナオが言う。 「すごい、キャプテン。勝ったの?」 嬉しそうに子どものアスカが聞く。 「いや、戦力が違いすぎる。今日は挨拶程度で引き上げた」 「そう」 子どものアスカは残念そうに言った。
<<キャプテン、子どものアスカには、3回の連続ワープはきついと思います。寝かせ た方がいいかと>> ドクターロボのマザーが凛とした表情で言う。 「うん、われわれもきついので寝る。ベン、応答が入ったら起こしてくれ」 <<キャプテン、了解しました。それにしても遅いですね>> 「うん、遅い、遅すぎる」 そして、三人はふらふらしながら操縦室を出て行く。寝室で着替えて寝ようとした 時、マザーが疲労回復のホットドリンクを持ってきたので、一気に飲み干し横になる と、三人はあっという間に深い眠りに落ちた。
その翌朝。 寝相の悪いアスカの足が、キャプテンの肩の上に乗り、キャプテンは目を覚ました。 「あー、よく寝た。うん、なんだアスカの足か」 半目でキャプテンはアスカを見詰る。 「あれ、サザンクロス星の返事がまだだったな。どうなったんだ」 呟きながらキャプテンは着替える。そしてふらふらとサロンに向かった。 「オーイ、ベン、返事は来たか?」 <<キャプテン、サザンクロスは沈黙を守ったままです>> 「うーん、何を検討しているんだ。よく分からん。あッ、マザー。昨日のホットドリン クが効いたのか調子が戻った、ありがとう」 <<キャプテン、それは好かった。調子が悪い時はいつでも言ってください>> マザーは優しく微笑みながら言う。
|
|