子どものアスカはジュースのある方を見詰る。 「アスカ、ジュースを飲む?」 オスカーはアスカが欲しがっているのを見て言った。 「うん、ほしい」 目を輝かせて、アスカはオスカーを見る。 「じゃ、奢ってあげるわ。アスカ」 「オスカー、ありがとう。嬉しい」 そして、ゴックゴックと喉を鳴らして、美味そうにアスカはジュースを飲む。 「やっぱり夏は、冷えたジュースが最高ね」
その時。 <<みなさん、新しいお客さんだ。電車をとめまーす>> <<キィー、キィー>> と、鉄製の車輪の軋む音が聞こえて、電車が止まる。 家族連れと思われる3人が、ゆっくりと乗り込んで来た。4,5歳のポニーテールの可 愛い女の子とその母親と父親だった。 そして、キャプテンたちと反対側の長椅子に座る。 <<ようこそ、テーマパークまで行きます。みなさん、乗りましたか?>> 全員、黙って見ていた。 <<お客さん、確認の返事がないと出発しませんよ。乗りましたか?>> アスカは黙って、アスカの前に座っている可愛い女の子を指さす。 「のりました」 と、その可愛い女の子は大きな口を開いて返事をした。
<<出発進行、テーマパーク中央口まで行きます。途中で降りる人は、ストップと、大 きな声で言ってください>> やはり、ロボットの運転手は、頭を左右に少し振りながら言う。そして、電車が動き 出した。 「ごほうびよ、これあげる」 と、言ってアスカは持っていた赤い風船を、その可愛い女の子に渡した。それから2 人は仲良くなり、顔を見合わせてニコニコ微笑んでいる。 その後は、乗車する客も無くテーマパーク中央口まで電車に揺られて辿り着いた。
<<テーマパーク中央口です、終点。テーマパーク中央口です、お忘れ物が無いよう に、テーマパーク中央口です>> 旧式ロボット運転手は同じ言葉を何度も繰り返した。 キャプテン一行は電車を下りて、辺りを見回す。 「うーん、乗り物や、建物があっちこちに散っていると、なんだか淋しいな」 キャプテンの想像したテーマパークの活気に満ちたにぎあいは無かった。 「キャプテン、平日のせいですよ。休日になると長蛇の列が出来ます」 大観覧車を見上げながらオスカー言う。
その時、前方からこの場に不似合いの3人の男たちが近づいて来た。厳つい大男が2 人と小柄な男であった。だが、3人とも足がふらついている。 「オスカー、やつらはこの星の者か?」 キャプテンはオスカーに囁いた。 「いえ、この星に出稼ぎに来ている人たちだと思うわ」 「そうか、でっかいけど凶暴性はあるのか?」 警戒するようにキャプテンが言う。 「わからない」 と、言いながらオスカーは携帯電話を握った。
「ねえちゃん、その携帯をどうするんだよ」 いつのまにか、厳つい大男がオスカーの前に威嚇するように立ちはだかった。 「止めなさい。わたしは宮廷管理室長のオスカーよ」 オスカーは美しい顔を険しくして、厳つい大男を睨み見つける。 「おれはこっちの方がいいな」 もう一人の厳つい大男は、笑いながら白衣のマザーに手を伸ばす。 「ギャー」 マザーは凛とした顔で、厳つい大男の手首を握って上へ伸ばす。その次の瞬間、マザ ーはスーッと体を屈んだ。厳つい大男は手首を万力のような力で、マザーに握られてい たため手首を中心に男はその場で一回転する。 その男は呻き声も上げられず、体をくの字に曲げたまま意識を失っていた。
「なんだ、どうなったんだ?」 小柄な男が怒鳴る。 <<連れて帰りなさい、骨が折れているだけよ>> 何ごとも無かったように、凛とした表情でドクターロボのマザーが言う。 そして、厳つい大男と小柄な男は、顔を見合して伸びている男を怯えるような顔で引き ずって行く。
「大丈夫か、マザー?」 キャプテンは気まずい顔で言った。 <<キャプテン、何ともありません>> と、言うとマザーは白衣の皺を入念に伸ばす。 「うーん、マザーの強さにびっくりしたな」 キャプテンは言いながら、後ろを振り返る。 「あれ、ナオ。アスカはどうした?」 ナオも辺りを見回す。騒ぎのため遠巻きにテーマパークの客が、4,50人、心配そ うに見詰ている。しかし、騒ぎが収まりその客も散り始めた。
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