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作品名:銀河を渡る船 第三部・憧れの新天地 作者:佐藤 神

第13回   13

 子どものアスカはジュースのある方を見詰る。
「アスカ、ジュースを飲む?」
 オスカーはアスカが欲しがっているのを見て言った。
「うん、ほしい」
 目を輝かせて、アスカはオスカーを見る。
「じゃ、奢ってあげるわ。アスカ」
「オスカー、ありがとう。嬉しい」
 そして、ゴックゴックと喉を鳴らして、美味そうにアスカはジュースを飲む。
「やっぱり夏は、冷えたジュースが最高ね」

 その時。
<<みなさん、新しいお客さんだ。電車をとめまーす>>
<<キィー、キィー>>
 と、鉄製の車輪の軋む音が聞こえて、電車が止まる。
家族連れと思われる3人が、ゆっくりと乗り込んで来た。4,5歳のポニーテールの可
愛い女の子とその母親と父親だった。
 そして、キャプテンたちと反対側の長椅子に座る。
<<ようこそ、テーマパークまで行きます。みなさん、乗りましたか?>>
 全員、黙って見ていた。
<<お客さん、確認の返事がないと出発しませんよ。乗りましたか?>>
 アスカは黙って、アスカの前に座っている可愛い女の子を指さす。
「のりました」
 と、その可愛い女の子は大きな口を開いて返事をした。

<<出発進行、テーマパーク中央口まで行きます。途中で降りる人は、ストップと、大
きな声で言ってください>>
 やはり、ロボットの運転手は、頭を左右に少し振りながら言う。そして、電車が動き
出した。
「ごほうびよ、これあげる」
 と、言ってアスカは持っていた赤い風船を、その可愛い女の子に渡した。それから2
人は仲良くなり、顔を見合わせてニコニコ微笑んでいる。
 その後は、乗車する客も無くテーマパーク中央口まで電車に揺られて辿り着いた。

<<テーマパーク中央口です、終点。テーマパーク中央口です、お忘れ物が無いよう
に、テーマパーク中央口です>>
 旧式ロボット運転手は同じ言葉を何度も繰り返した。
 キャプテン一行は電車を下りて、辺りを見回す。
「うーん、乗り物や、建物があっちこちに散っていると、なんだか淋しいな」
 キャプテンの想像したテーマパークの活気に満ちたにぎあいは無かった。
「キャプテン、平日のせいですよ。休日になると長蛇の列が出来ます」
 大観覧車を見上げながらオスカー言う。

 その時、前方からこの場に不似合いの3人の男たちが近づいて来た。厳つい大男が2
人と小柄な男であった。だが、3人とも足がふらついている。
「オスカー、やつらはこの星の者か?」
 キャプテンはオスカーに囁いた。
「いえ、この星に出稼ぎに来ている人たちだと思うわ」
「そうか、でっかいけど凶暴性はあるのか?」
 警戒するようにキャプテンが言う。
「わからない」
 と、言いながらオスカーは携帯電話を握った。

「ねえちゃん、その携帯をどうするんだよ」
 いつのまにか、厳つい大男がオスカーの前に威嚇するように立ちはだかった。
「止めなさい。わたしは宮廷管理室長のオスカーよ」
 オスカーは美しい顔を険しくして、厳つい大男を睨み見つける。
「おれはこっちの方がいいな」
 もう一人の厳つい大男は、笑いながら白衣のマザーに手を伸ばす。
「ギャー」
 マザーは凛とした顔で、厳つい大男の手首を握って上へ伸ばす。その次の瞬間、マザ
ーはスーッと体を屈んだ。厳つい大男は手首を万力のような力で、マザーに握られてい
たため手首を中心に男はその場で一回転する。
 その男は呻き声も上げられず、体をくの字に曲げたまま意識を失っていた。

「なんだ、どうなったんだ?」
 小柄な男が怒鳴る。
<<連れて帰りなさい、骨が折れているだけよ>>
 何ごとも無かったように、凛とした表情でドクターロボのマザーが言う。
そして、厳つい大男と小柄な男は、顔を見合して伸びている男を怯えるような顔で引き
ずって行く。

「大丈夫か、マザー?」
 キャプテンは気まずい顔で言った。
<<キャプテン、何ともありません>>
 と、言うとマザーは白衣の皺を入念に伸ばす。
「うーん、マザーの強さにびっくりしたな」
 キャプテンは言いながら、後ろを振り返る。
「あれ、ナオ。アスカはどうした?」
 ナオも辺りを見回す。騒ぎのため遠巻きにテーマパークの客が、4,50人、心配そ
うに見詰ている。しかし、騒ぎが収まりその客も散り始めた。




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