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作品名:銀河を渡る船 第三部・憧れの新天地 作者:佐藤 神

第12回   12

「では、食事に行きましょうか?」
 何事も無かったように、オスカーが言う。
「うん、いこう」
 待ち構えていたように、子どものアスカが嬉しそうに言う。そして、チャールズ事務
次官は複雑な表情でキャプテンを見送った。
 チャールズ事務次官は、前任のモリー事務次官が収賄罪で起訴され、その後釜でチャ
ールズが防衛局長から事務次官に昇格した。その時、モリーから高速戦闘機のことを耳
打ちされた。
 防衛省では、事務方だけが握っている闇の部分が存在していた。それを代々事務次官
が引き継いでいる。決して表には出ないおぞましい事実であった。
 何故、チャールズ事務次官がまだ全幅の信頼を寄せるに足りないキャプテンに隠し事
を漏らしたのか。そして、オスカーもそのことを知ってキャプテンを巻き込もうとして
いるのか、謎は深まるばかりである。

 オスカーはキャプテンと目を合わさず、気まずい雰囲気で食事をした。子どものアス
カだけはそんなことに関係なく、頑張って大人と同じ一人前を食べて満足していた。
「アスカ、美味しかったですか?」
 微笑みながらオスカーが言う。
「うん、いまいちかな」
 と、言いながらアスカは他のテーブルの食事を覗いていた。
「それでは、行きましょうか。次はアスカの好きなテーマパークよ」
「なに、なにがあるの?」
 アスカは目を輝かして言う。
「行けば分かります。さあ、行きましょう」

 一行はエアーカーに乗って、旋回しながら上空を優雅に飛ぶ。
「うーん、やっぱり青空が一番いいな。何もかも忘れる」
「ええッ、こんな小さな星でもいろいろな問題が山積しているわ。天気のいい日はドラ
イブが最高ね」
 気分がよさそうにオスカーが、微笑みながら言う。
「この星に来てよかったわ。環境破壊もなく、空気が美味しい」
 ナオも笑いながら独り言のように呟いた。

 子どものアスカは、エアーカーの窓から眼下を覗いて、テーマパークを捜す。
「あッ、あれ、あれなの?」
 アスカが甲高い声で言う。海と山に囲まれ、かわった形の建物があちらこちらに見え
る。その中央に大観覧車が聳え立っていた。
 アスカには玩具箱の玩具のように見えるのか、急に落着きがなくなる。
「さあ、下りるわよ」
 エアーカーは山沿いのエアーポートに着陸した。
「結構大きいのね」
 ナオが見回して言う。エアーポートの中央の端から一直線にテーマパークまで、線路
が延びている。その線路端で、暫く待つと大型トロッコに屋根をつけた乗り物がやって
来た。

「来たわ。アスカ、手を上げて電車が停まるから」
 オスカーがアスカの腕を軽く掴んだ。そして、アスカは手を上げた。
<<キィー、キィー>>
 と、鉄製の車輪の軋む音が聞こえる。

「これは無料の電車よ。アスカ、乗って」
 電車に乗ってみると、平日のためか客は見当たらなかった。電車の運転台に上半身だ
けの旧式ロボット運転手がいた。電車の客席は両脇に長椅子があり、片側に10人ぐら
い座れそうであった。風通しもよく、夏には格好の乗り物である。
<<ようこそ、テーマパークまで行きます。みなさん、乗りましたか?>>
 オスカーは黙って見ている。
<<お客さん、確認の返事がないと出発しませんよ。乗りましたか?>>
 オスカーは黙って、アスカを指さした。
「えッ、はーい、乗りました」
 と、慌てて大きな声でアスカが言った。

<<出発進行、テーマパーク中央口まで行きます。途中で降りる人は、ストップと、大
きな声で言ってください>>
 ロボットの運転手は、頭を左右に少し振りながら言う。ロボットの横には赤、青、
黄、白の風船が風に吹かれて、ゆらゆら揺れていた。
「風船をもらってあげようか、アスカ?」
 子どものアスカが嬉しそうに風船を見詰ているのを見て、オスカーが言う。
「わたし、そんな子どもじゃないわ」
 アスカは否定するように片手を軽く振る。
「そう、でも、ただなのにね」
 残念そうにオスカーが言う。
「えッ、ただ。じゃ、もらう。おじさん、この風船ちょうだい」
 アスカは大きな声で言うと、赤い風船に繋がっている紐の結び目を解いた。
<<いいよ、可愛いお嬢さん>>
「ありがとう、大事にするね」
 風船を持ってアスカは振り返り、ニャーと笑った。
<<おっと、可愛いお嬢さん。喉は渇きませんか、冷えて美味しいジュースがあるけ
ど。御代は200クロス。最後の1本だから早い者勝ちだよ>>
 運転手のロボットの頭の振りが大きくなった。







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