エアーカーは青空に吸い込まれるように、旋回しながら一般飛行禁止空域を軽快に飛 ぶ。 「オスカー、メディアセンターはあの一つだけなのか、他にも?」 「あのメディアセンターは国営よ。それ以外に民間のメディアセンターが2つあるの。 ところで、あの司会者のオットはどうでした?」 「うん、真面目そうな司会者に見えたけど」 「そう、人気者の司会者だけど今年で定年なの。昔、エアータクシーの中で傷害事件を 起して、役職では残れないみたい」 「へー、ここにも定年があるのか、じゃ、リストラもあるのか?」 キャプテンは窓の外を見ながら聞いた。 「ええ、定年はあるわ。でもわたしたちみたいな公務員にはリストラはないわ」 と、言ってオスカーは助手席のアスカを見た。 子どものアスカはうつらうつら眠っている。夢でしか逢えない亡くなった両親と楽しく 遊んでいるのか、アスカの口元には笑みが浮かんでいた。
その時、気密性が高い窓から奇声が聞こえた。遠くで威嚇するように怪鳥がこちらを 見て飛んでいた。カラスみたいにまっ黒で、嘴が長く尖がり、蝙蝠みたいな羽でゆっく り羽ばたいている。鍵爪が不気味に大きく全長2メートルはゆうにあった。 その奇声で、アスカの夢は破られた。
「ギャー、あれはなに。オスカー?」 うつらうつらしていたアスカは、顔色を変えて怪鳥を見詰た。 「あの鳥、あの鳥はサザンクロス星の反対側に生息しているケピロスよ。たまにこちら の上空高く飛んでいるわ」 「へー、こわくないの」 不安と好奇心の狭間で顔を背けながらアスカは窓から、ケピロスを見詰ていた。 「本当かよ、オスカー。恐竜もいるのか?」 身を乗り出すように、キャプテンも覗く。 「ええッ、全盛期ほどではないけど、小型恐竜の生残りがいるわ」 「ねえねえ、人間を食べに来るの?」 「それはないわ、海を渡ることが出来ないから。渡って来たとしてもわたしたちにはレ ーザー銃があるから」
「じゃ、恐竜を食料とする考えはないのか?」 キャプテンが真面目に聞いた。 「ええッ、何百年か前は食料として食べていたわ、でも今は、お互いに干渉しないこと に決めたのよ」 「そうよね、干渉しないのが一番だわ」 感心したようにナオが言う。 「今までに恐竜の被害者は出てないのか?」 「そうね、被害者が出たとは聞いてないわ」 <<コッツ、コッツ>> アスカは、小さな手の甲で窓のガラスを不安そうに叩いた。 「あら、アスカ。このエアーカーの窓ガラスの材質は強化プラスチックが使用されてい るから心配しなくても大丈夫よ」 オスカーは笑うように言った。 暫くすると、怪鳥は塒に帰るのか、青空を大きく旋回して引き上げた。
「あの前方の下に見える円柱の白い建物が、防衛省よ」 窓から下をキャプテンが覗いた。街から外れた森の中に防衛省があった。その防衛省 を囲むようにバリアー装置が四方に配備されていた。そして、不気味にレーザー砲台が 森の中に隠されている。 「何だか小さいな。もっと大きいと思ったが」 「ええッ、職員も少なく300人しかいないわ、主に防衛システムのメンテナンスね」 エアーカーは減速して迂回させながら降下する。そして、円柱の建物の屋上のエアー ポートに着陸させた。 「さあ、アスカ。おいしい食事を食べに行きましょう」 「うん、いっぱい食べたい」 子どものアスカはお腹を擦りながら言う。
そしてエアーポートのゲートをくぐると、制服を着た一見若そうな男が立っていた。 「あら、チャールズ事務次官。こんにちは」 「いや、オスカー。こちらが大型戦闘艇の人たちか、わたしは防衛省事務次官のチャー ルズです」 と、言ってチャールズ事務次官は微笑んでキャプテンを見た。 「キャプテンです、よろしく。そして、女性のナオ、子どものアスカ。ドクターロボの マザーです」 子どものアスカはチャールズ事務次官が気に入ったのか小さく手を振った。 「キャプテン、チャールズは防衛省ナンバーツウの新事務次官です」 「いや、防衛省ナンバーツウと言っても、職員300人足らずですから。防衛大臣から 防衛システムをキャプテンに見せるように指示があり、ここで待っていたんですよ」 険しい表情でチャールズ事務次官が言う。
「じゃ、チャールズ。防衛システムを見せてください。それから食事にしますから」 と、オスカーが言うとチャールズ事務次官は頷いて、防衛省の通路を奥深くキャプテ ン一行を案内した。 「どうです、これがサザンクロス星の防衛システムです」 それは部屋一杯のパネルにサザンクロスの国が描かれていた。所々に緑のボタンが点 灯していた。 「あのパネルの緑のボタンを押すと、1分でバリアーが張られる。バリアーを張ると、 戦闘艇のレーザーを撥ね返し、戦闘艇の突入を防ぐ」 チャールズ事務次官がゆっくり話した。 「そうですか、バリアーでどこを守るんですか?」 「それは、宮廷、宇宙港、官公庁施設、国立総合病院、国立大学と、この防衛省」 低い声でチャールズ事務次官が言う。
「分かりました。ところで、防衛省には高速戦闘機はあるんですか?」 キャプテンが聞いた。だが、チャールズ事務次官は躊躇する。 「うーん、この防衛省の地下エアーポートに高速戦闘機が30艘、格納されている」 と、声を潜めチャールズ事務次官が耳打ちした。 「出撃したことはありますか?」 「いや、ない。公には存在しないものだから」 顔を顰めてチャールズ事務次官が言った。 「いざという時には、役に立たないのではないか。平時から訓練しないと?」 首を傾げて、キャプテンが言う。 「地下に高速戦闘機の高度なシミュレーション装置があり、休日のみ訓練している」 自信ありげにチャールズ事務次官が言う。 「勿論、このことは陛下もご存知で?」 小さな声でキャプテンが聞く。 「いえ」 と、呟いてチャールズ事務次官が目を逸らした。
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