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作品名:銀河を渡る船 第三部・憧れの新天地 作者:佐藤 神

第10回   10

 ドクターロボのマザーは背を正し、凛とした表情で正面を見詰ていた。
「おい、白衣を着たお姉さん。言う通りにするんだ。さもないとお仕置きをするぜ」
 マザーは身動きせず、正面を見詰たまま。
「可愛い顔して、たまらないぜ」
 警官は我慢が出来ないという顔で腕を伸ばし、マザーを抱こうとした。
「ふざけるな、殺すぞ」
 キャプテンは恫喝するような重く低い声で、警官を怒鳴りつけた。
警官はピックと手を震わして、身を引いた。
「な、なんだ。抵抗するのか?」
 警官は震える声で言った。

「ちょっと、あなた方何しているの?」
 その時、警官の背後からオスカーの声が聞こえた。
「あッ、申し上げます。不審な人物が、その、あの、申しわけありません」
 警官はオスカーの顔を見た時、全てが理解できた。宮廷のお客に対して無礼なことを
働いてしまい、目の前が真っ暗になった。
「とんでもないことをしたわね。この最新型エアーカーは、事故を想定して車内の映像
と音声が記憶されているから、このまま司法に提出するわ。いい訳は法廷で、とりあえ
ず監察官をここに呼ぶわ」
 と、言うとオスカーは携帯電話を取り出すと監察局に連絡した。
「あの、オスカー宮廷管理室長。われわれ3人は何もしてないので、別に司法の判断を
仰ぐこともないし、詰め所に帰ってもいいですか?」
 3人の警官はオスカーの顔色を覗う。
「駄目よ、あなた方3人は極刑にはならないでしょうけど、何故、仲間の暴走を止めな
かったの、もしかしたら、この映像と会話を陛下がご覧なっているかもしれない」
 それを聞いて、エアーカーに顔を突っこんでいた悪辣警官は目眩を起こし、その場に
崩れ落ちた。

 暫くして、監査官に警官を引き渡し、オスカー一行はメディアセンターの受付に顔を
出す。
「昨日連絡した、オスカーです。入管許可証を5人分ください」
 オスカーが優しく言う。
「これはオスカー宮廷管理室長、お待ちしておりました。これがVIPカードです。そ
れと、番組出演は35分後に第3スタジオで。司会者はオットーが担当です」
 と、赤いリボンをつけた可愛い人間型アンドロイドが言った。
「ありがとう」
 そして、5人は首からVIPカードをぶら下げた。
「じゃ、時間があるから社員食堂で、お茶でも飲みましょうか」
「いいわね、でも後で、メイク室を5分間だけ貸してね?」
 ナオが微笑んで言う。
「オスカー、わたしも1分だけ」
 子どものアスカは片目を瞑って言う。
「いいわよ、じゃ、メイクさんの予約を取らないと」
 オスカーは携帯電話を取り出した。
「いえ、必要ないわ。メイクはマザーがやってくれるから、場所さえあれば」
「そうなの、ドクターロボのマザーがメイクをねー」
 不思議そうにオスカーがマザーを見詰た。

 そして、5人は社員食堂でホットドリンクを飲む。
「さっきの警官はどうなるんだ?」
 キャプテンが心配そうに聞く。
「多分、判例からして死刑は免れないと思う、あとの3人は懲役5年かしら。警官とし
てあるまじき行為、許せないわ」
 憤懣やるかたない表情でオスカーは言う。
「うん、その通りだ。だが、わたしの国より厳しいな」
 キャプテンは首を捻った。
「被害者がいるわけでもなく、犯罪の計画性も無い。あの警官は運が悪い」
「運が悪い?」
 ナオの顔色が変わる。
「いや、アスカがトイレに行かなければ、エアーカーは地下のエアーポートに停めたは
ずだ。そうすればこんなことには。それにマザーの美貌があの警官の運命を狂わせた」
 それまで凛とした表情のマザーの頬が、ポーッと赤くなったように見えた。
「ねえねえ、あれなに?」
 子どものアスカは大人の話には興味がなく、少し離れてテーブルで休んでいる奇妙な
縫いぐるみを着たタレントを指さした。
「駄目よ、指さしちゃ。カエルみたいなかっこしているけど、お仕事なんだから」
 ナオは一瞥して言う。

「じゃ、そろそろ行きましょうか。今日は生放送ですから発言には注意してください、
取り直しは効きませんから」
 オスカーは促すように言って席を立った。
「えッ、生放送なの。参ったわ」
 眉を寄せて、困惑した表情でナオが言う。
「ナオ、どうしました?」
「わたし、生だと緊張しちゃって、喋れなくなるの」
「今日は、顔見世だけですから。キャプテンはどうですか?」
 少し不安気味にオスカーはキャプテンを見た。
「わたしはテレビに興味もないし、出演したことも無いんで、何とも言えないな」
 と、とぼけた顔付きでキャプテンが言う。
 そして、キャプテンとナオとアスカ、それに白衣を着たドクターロボのマザーはカメ
ラの前に立った。司会者の質問は主に国王との話の内容であった。キャプテンはありの
ままを話した。隣に座っていたナオは緊張のため髪を盛んに掻き揚げていた。
 そのナオの緊張が子どものアスカにも移ったのか、アスカは表情を崩さず、瞬きせず
カメラのレンズを凝視している。

 それでもキャプテンが質問を無難に答えて、出番を終了させた。
「お疲れ様でした。ナオも綺麗に映っていたわ。次に行きましょう」
 緊張して、気の効いたことが言えなかったナオをオスカーが気う。
「うーん、録画なら負けないんだけど。アスカ、おしっこは大丈夫?」
「うん、いっぱい出したから。大丈夫だよ」
 そして、オスカー一行はエアーポートに停めたあった、エアーカーに乗り込んだ。
「ねえねえ、オスカー。次はどこに行くの?」
 アスカがオスカーに聞く。
「次は食事しにサザンクロス星の防衛省に行くのよ。あそこは食事が美味しいのよ」
 オスカーは食べ物でアスカを黙らそうとした。


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