そしてキャプテンは顎鬚のカカリーにこれまでの経緯を話した。 「そうですか、あなた方は下手に最終兵器を手に入れたばかりに、祖国を捨て宇宙を彷 徨っているんですか」 カカリーは淋しそうな顔で言う。 「まあ、そんなところです。あなた方はどこから来て、どこへ行くんですか?」 「わたしが住んでいたアトラス星が、海賊に襲われて崩壊した。みんなで逃げ出した が、わたしの小型宇宙船だけが生き残った。これから我が一族がいるルグール星へ行く ところです」 「なぜ海賊に襲われたんですか?」 「うーん、理由がよく分からないんですよ」 「えッ、どういうこと?」 キャプテンは首を傾げる。
「どうも1年前から、宇宙の秩序がおかしくなってきている。嫌な感じがする」 顎鬚を擦りながらカカリーが言う。 「それでは宇宙全体に火の手が上がったとでも?」 口調を強めキャプテンが言う。 「うーん、誰かが細工しているのかもしれん。または周期的に訪れる戦いの波動に入っ たのかもしれない」 ゆっくりと桜の花を愛でながらカカリーが言う。 「そうすると平和が続くと、その後に戦争が待っていると言うことか?」 キャプテンはカカリーの目を見詰る。 「うん、そうだ。この宇宙は、平和、戦争、平和、戦争の繰り返しだ」 「そうか、そうするとこの戦争は止められないな」 諦めたような顔でキャプテンが言った。 「ああ、宇宙の流れに逆らっても流されるだけだ。時を待つしかないでしょう」
「わたしは、サザンクロス星に行こうとしている。その星を知っていますか?」 何か情報が知りたくて、キャプテンは聞いた。 「いや、命を助けてもらいお礼に教えたいんだが、宇宙空域が異なり私は聞いたことが ない、でも何しに行くんだ?」 「うん、サザンクロス星は3年毎に南方空域の野蛮人に略奪されている。われわれが用 心棒になろうと思って」 「野蛮人か?」 「野蛮人は知っているのか?」 「いや、野蛮人といっても色々な種族がいて、海賊もそうだが」 「海賊もそんなにいるのか?」 「ああ、独立している海賊、一族でやっている海賊、組織化した海賊、一番やっかいな のが闇海賊と呼ばれているやつだ。 これは大国の軍隊とつるんでいる海賊だ。稀に軍人が海賊に化けている時もある」 「それは酷いな、追ってきた海賊はどれに属するんだ?」 「うん、独立系だと思うんだが、はっきりとは分からない」
その時。 <<キャプテン、診察してクスリを渡しました>> ドクターロボのマザーが帰って来た。そして、その後ろから母親のリリアシアと、娘 のリリーが安心したのか微笑みながらサロンに入ってきた。 「ごくろうさん、何か問題は?」 <<キャプテン、リリーは5,6年前に鳥インフルエンザのH5N2ウイルスに感染し ました。事前にパンデミックワクチンを注射していたそうですが、そのワクチンに問題 があり体が拒否反応を起こして、それから喘息が出たそうです。 この事例は他の星でも発生しましたが、わたしのクスリで完治しています>>
マザーはリリーを見詰て、優しく微笑む。 「そうか、それはよかった」 キャプテンは満足そうに頷いた。 「いや、ありがとう。ドクターロボ。感謝します」 父親のカカリーは立ち上がり、両手を広げ大袈裟に喜んだ。よほど娘のリリーのこと が、気がかりだったのであろう。 それを見て娘のリリーも嬉しくて涙ぐんだ。
「カカリー、残り時間がなくなってきた。ルグール星までは遠いのか?」 「あーッ、われわれのおんぼろ宇宙船で2ヶ月はかかる。もう一山あるかもしれない」 と、言ってカカリーは微笑んだ。 「ベン、お客さんの宇宙船は無事にルグール星にいけそうか?」 <<キャプテン、到着する確率は残念ながら....>> その途端、カカリーの顔から血の気が引いた。 「何を言うんだ、ベン」 キャプテンも次の言葉が出てこなかった。 「ベン、間違いないの?」 横からナオが口を挿む。 <<ナオ、わたしの計算に間違いはありません>> それから重苦しい空気が6人を包んだ。 「ベン、宇宙船が目的地まで行けない理由は、何なんですか?」 動揺を隠し切れず震える声でカカリーが言う。 <<はい、海賊は小型宇宙船が、この大型戦闘艇と離れるのを狙っています。それがハ イエナのような海賊の戦法です>>
「それは困ったな、せっかく助けしたのに、むざむざ殺されるような真似はできない。 ベン、いい方法はないのか?」 <<キャプテン、この危険宇宙空域から小型宇宙船が、抜け出すまで約1か月間かかり ます。それを抜ければ惑星も、隕石も、磁気嵐もなく、見晴らしのいい安全宇宙空域に 出ます。そこまで行けば海賊も手が出ません>> 「そうか、ベンはボディーガードのことを言ってるのか?」 <<キャプテン、それ以外方法はありません>> 「分かった。小型宇宙船を安全宇宙空域まで見送ろう」 キャプテンはカカリーを見て微笑みながら言う。 「いいんですか、キャプテン。われわれのために遠回りになって?」 申しわけなさそうにカカリーが言う。 「先ほども言った通り、われわれは宇宙を彷徨っている旅人のような者です。それに必 要があればワープ走法もあるし、気にしないでください」
「何てお礼を言えばいいか、ほんように....」 「あれを」 妻のリリアシアがカカリーを促すように言った。 「うん、そうだった」 と、言ってカカリーは服から紫色の袋を取り出した。そしてその袋から重々しく、深 緑色の丸いタマを取り出す。 「これは我が家の家宝と呼べるものでもないんですが、お礼の印に納めてください」 それはちょうど野球のボールのような大きな翡翠であった。 「いや、われわれはその価値が分からない愚者です。気持ちだけで十分、価値の分かる あなたがお持ちください。そのほうがこの翡翠も幸せでしょう」 キャプテンは丁重に断る。 「あの、是し受取ってください。娘を助けていただき感謝しています。実はこの翡翠は アトラス王国の繋がりを意味します」 リリアシアが静かに言った。 「うん、それじゃ、わたしの目の前にいる人は、国王と王妃と姫ですか?」
「いや、海賊の攻撃を防ぎきれず、アトラス星を滅ぼしたわたしに、国王を名乗る資格 はない」 思い詰めた顔でカカリー言う。 「うん、卑劣な海賊相手では致し方ないのでは」 「そうよ、あれだけの海賊です、防ぐのは困難かと、それに国民が協力してわたしたち を逃がしてくれたのよ。愛されていた国王の証拠ですよ」 ウーッ、と耐え切れずにカカリー国王が嗚咽を漏らした。 <<キャプテン、時間です。これ以上滞在を延ばすならウイルス>> 「いや、これで失礼します。ドクターロボ」 マザーの言葉をカカリー国王が遮った。
|
|