「ベン、彼らに渡すろ過装置ユニットと、宇宙食を事前にエトランゼ室の前に揃えてく れ」 <<キャプテン、了解しました>> 「わたしも行きたい、行っていい?」 子どものアスカが悪戯っぽく言う。 「いいけど、ベンの邪魔をするなよ」 「うん」 アスカはベンの指を握って部屋から出て行った。 「マザー、エトランゼ室の消毒準備を頼む。それと、クスリは彼らが来てから、何が欲 しいのか尋ねてからにしよう」 <<キャプテン、分かりました。ナオ、手伝ってください>> マザーは微笑んでナオを見詰た。 「いいわよ」 快諾したナオは、マザーと雑談しながら操縦室を出て行く。
その様子を見てキャプテンは、ある意味安堵した。アンドロイドと人間の違いがある にせよ、絶世の美女二人が、キャプテンを巡っていがみ合っているんじゃないかと案じ ていたが、取り越し苦労のようであった。 キャプテンは一人苦笑いして、スクリーンを見詰る。
前方のアトラス宇宙船の表面で何かが動いた。 「ベン、聞こえるか?」 <<はい、キャプテン。聞こえます>> ベンの声が、宇宙船内に木霊した。 「スクリーンに映っている、アトラス宇宙船は見えるか?」 <<キャプテン、見えます>> 「アトラス宇宙船を拡大してくれ、特に動いている部分が見たい」 <<キャプテン、了解しました>> ロボットのベンの調整で、その部分が的確にスクリーンに映し出された。 分厚い扉が開いている。しかし、アトラス小型宇宙船をよく見ると、滑らかで輝くばか りの光沢がある宇宙船とは違い、あちらこちらに修理した跡が目立ち、悪く言うと継ぎ 接ぎだらけである。
その中から何かが出て来る。水上スクーターみたいなものに宇宙服を着た人間が跨っ ている。そしてスクーターから長いロープが垂れていた。 そのロープの先に宇宙服を着た人間が間隔をあけて二人、ぶら下がっていた。それが ゆっくりとこっちに向かって動いている。 「うーん、宇宙人でもこんな方法しかないのか」 キャプテンが呟いた。
その水上スクーターみたいなものが、やっと半分ぐらい進んだ時、アスカとベンが帰 って来た。 <<キャプテン、準備完了しました>> 「キャプテン、なに、なにしているの。楽しそう!」 子どものアスカが、スクリーンを見て釘付けになった。 「ベン、やっと半分来た」 <<キャプテン、13分後に到着します>> 「アスカもあれ、やってみたい。だめ?」 甘えた声でアスカが言う。 「駄目だ、一歩間違えれば命を落とす。彼らは生きるために命懸けだ」 冷たい口調でキャプテンが言う。 <<キャプテン、エトランゼ室の消毒準備が終わりました>> ドクターロボのマザーとナオが操縦室に帰ってきた。 「うん、ご苦労さん。お客さんは13分後に着く」
「ところでベン、逃げていった高速艇は二人乗りだと言っていたな?」 <<キャプテン、その通りです>> 「二人乗りの高速艇じゃ、惑星間を飛び回れないが、母船が近くにいるのか?」 <<キャプテン、超高感度レーダには引っかかっておりませんが、どこかにいます>> 「われわれを襲ってくる確率はあるのか?」 <<キャプテン、ありません。この最新型の大型戦闘艇を襲う愚か者はいません>> 「それを聞いて安心した。それと、今来ようとしている宇宙人は、地球人と姿かたちは 似ているのか?」 <<はい、船識別番号通りの星の人間が乗っていれば、比較的似ています。でも、サザ ンクロス人よりは似ていません>> 「そうか、凶暴性はないのか?」 <<キャプテン、凶暴性はありません、穏やかな性格です>> 「そうか、小型宇宙船が継ぎ接ぎだらけだったが、財政事情が困窮しているのか?」 <<キャプテン、よく分かりません。ただ継ぎ接ぎだらけの宇宙船だから、その持ち主 が困窮しているとは限りません。気にすることはないと思います。ただ、この宇宙船の 豪華さは宇宙でもトップクラスです>> 「うーん、分かった」
それから暫くして連絡が入った。 <<こちらアトラス、宇宙船に近づいた。指示をしてくれ>> 「ベン、お客さんをエトランゼ室へ誘導してくれ。そして宇宙服を脱がして消毒後、サ ロンに連れて来てくれ」 <<キャプテン、了解しました>> そしてロボットのベンが、宇宙船に何かをぶつぶつ呟いていた。 「じゃ、サロンへ移動しようか」 「はーい」 子どものアスカが嬉しそうに言う。
3人がサロンで待っていると、ロボットのベンを先頭に宇宙人が入って来た。 「助けていただきありがとう。厚かましく備品や食べ物まで要求して、申し分けない」 と、白い顎髭をはやし落ち着きのある40歳後半の男が言う。ちょうどキャプテンよ り一回り上の歳である。 顔は笑っているが、眼差しは鋭い。額が発達しているのか髪を左右に分けるように前 に突起している。別に見苦しくはないが慣れるまで、時間が掛かりそうである。ただ、 女性は男性より額が発達していなかった。
「いや、困ったときはお互い様ですよ。遠慮なく言ってください」 キャプテンはその男の目を見詰て言う。その男の横に上品で美しい女性が微笑んでい た。そして、17,8歳の綺麗な娘は恥ずかしいのか、その女性に隠れるように覗く。 身なりも仕草も高貴な感じがする。 「わたしの名はカカリーです、妻のリリアシア。そして、娘のリリーです」 男は指を指し、紹介した。 「そうですか、わたしはキャプテン、こちらがナオ、子どもがアスカ。案内して来た大 きいロボットがベン、そして白衣を着たドクターロボのマザーです」
「えッ、ドクターロボ。この美しい方がドクターロボですか?」 「そうです。ご存知ですか?」 「はい、噂だけは聞いています。ここで合えるとは。いや、それよりこんな大型戦闘艇 にあなた方3人とは理解に苦しむ」 納得がいかないのか、顎鬚の男はサロンの中を見回す。 「あッ、そうだった。ウイルスの関係であなた方は、この宇宙船に1時間以上いると危 険なので、必要なクスリを言ってください。直ぐに用意します」 キャプテンが慌てて言った。 「分かりました、実は娘が喘息もちなんですよ。逃げて来る時、そのクスリを持ってく る余裕がなくて」 「そうですか、マザー、診察するか?」 <<キャプテン、時間がまだありますから、娘さんを診察してからクスリを出します。 よければ医務室へ>> 「それはありがたい。リリアシア、リリーを医務室へ」 父親のカカリーが促した。 「マザー、わたしも行っていい?」 子どものアスカは興味本位で言う。 「駄目よ、アスカ。邪魔しては、時間がないんだから」 横にいたナオが嗜める。 「まあ、可愛いお子さんですね」 リリーの母親リリアシアが優しく言う。 「えッ、まあ」 一瞬、ナオは怒ったように顔を膨らます。 アスカは9歳、ナオは24歳。ナオの子ならナオ15歳で産んだことになる。
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