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作品名:銀河を渡る船 第二部・道草 作者:佐藤 神

第7回   7

「ベン、彼らに渡すろ過装置ユニットと、宇宙食を事前にエトランゼ室の前に揃えてく
れ」
<<キャプテン、了解しました>>
「わたしも行きたい、行っていい?」
 子どものアスカが悪戯っぽく言う。
「いいけど、ベンの邪魔をするなよ」
「うん」
 アスカはベンの指を握って部屋から出て行った。
「マザー、エトランゼ室の消毒準備を頼む。それと、クスリは彼らが来てから、何が欲
しいのか尋ねてからにしよう」
<<キャプテン、分かりました。ナオ、手伝ってください>>
 マザーは微笑んでナオを見詰た。
「いいわよ」
 快諾したナオは、マザーと雑談しながら操縦室を出て行く。

 その様子を見てキャプテンは、ある意味安堵した。アンドロイドと人間の違いがある
にせよ、絶世の美女二人が、キャプテンを巡っていがみ合っているんじゃないかと案じ
ていたが、取り越し苦労のようであった。
 キャプテンは一人苦笑いして、スクリーンを見詰る。

 前方のアトラス宇宙船の表面で何かが動いた。
「ベン、聞こえるか?」
<<はい、キャプテン。聞こえます>>
 ベンの声が、宇宙船内に木霊した。
「スクリーンに映っている、アトラス宇宙船は見えるか?」
<<キャプテン、見えます>>
「アトラス宇宙船を拡大してくれ、特に動いている部分が見たい」
<<キャプテン、了解しました>>
 ロボットのベンの調整で、その部分が的確にスクリーンに映し出された。
分厚い扉が開いている。しかし、アトラス小型宇宙船をよく見ると、滑らかで輝くばか
りの光沢がある宇宙船とは違い、あちらこちらに修理した跡が目立ち、悪く言うと継ぎ
接ぎだらけである。

 その中から何かが出て来る。水上スクーターみたいなものに宇宙服を着た人間が跨っ
ている。そしてスクーターから長いロープが垂れていた。
 そのロープの先に宇宙服を着た人間が間隔をあけて二人、ぶら下がっていた。それが
ゆっくりとこっちに向かって動いている。
「うーん、宇宙人でもこんな方法しかないのか」
 キャプテンが呟いた。

 その水上スクーターみたいなものが、やっと半分ぐらい進んだ時、アスカとベンが帰
って来た。
<<キャプテン、準備完了しました>>
「キャプテン、なに、なにしているの。楽しそう!」
 子どものアスカが、スクリーンを見て釘付けになった。
「ベン、やっと半分来た」
<<キャプテン、13分後に到着します>>
「アスカもあれ、やってみたい。だめ?」
 甘えた声でアスカが言う。
「駄目だ、一歩間違えれば命を落とす。彼らは生きるために命懸けだ」
 冷たい口調でキャプテンが言う。
<<キャプテン、エトランゼ室の消毒準備が終わりました>>
 ドクターロボのマザーとナオが操縦室に帰ってきた。
「うん、ご苦労さん。お客さんは13分後に着く」

「ところでベン、逃げていった高速艇は二人乗りだと言っていたな?」
<<キャプテン、その通りです>>
「二人乗りの高速艇じゃ、惑星間を飛び回れないが、母船が近くにいるのか?」
<<キャプテン、超高感度レーダには引っかかっておりませんが、どこかにいます>>
「われわれを襲ってくる確率はあるのか?」
<<キャプテン、ありません。この最新型の大型戦闘艇を襲う愚か者はいません>>
「それを聞いて安心した。それと、今来ようとしている宇宙人は、地球人と姿かたちは
似ているのか?」
<<はい、船識別番号通りの星の人間が乗っていれば、比較的似ています。でも、サザ
ンクロス人よりは似ていません>>
「そうか、凶暴性はないのか?」
<<キャプテン、凶暴性はありません、穏やかな性格です>>
「そうか、小型宇宙船が継ぎ接ぎだらけだったが、財政事情が困窮しているのか?」
<<キャプテン、よく分かりません。ただ継ぎ接ぎだらけの宇宙船だから、その持ち主
が困窮しているとは限りません。気にすることはないと思います。ただ、この宇宙船の
豪華さは宇宙でもトップクラスです>>
「うーん、分かった」

 それから暫くして連絡が入った。
<<こちらアトラス、宇宙船に近づいた。指示をしてくれ>>
「ベン、お客さんをエトランゼ室へ誘導してくれ。そして宇宙服を脱がして消毒後、サ
ロンに連れて来てくれ」
<<キャプテン、了解しました>>
 そしてロボットのベンが、宇宙船に何かをぶつぶつ呟いていた。
「じゃ、サロンへ移動しようか」
「はーい」
 子どものアスカが嬉しそうに言う。

 3人がサロンで待っていると、ロボットのベンを先頭に宇宙人が入って来た。
「助けていただきありがとう。厚かましく備品や食べ物まで要求して、申し分けない」
 と、白い顎髭をはやし落ち着きのある40歳後半の男が言う。ちょうどキャプテンよ
り一回り上の歳である。
 顔は笑っているが、眼差しは鋭い。額が発達しているのか髪を左右に分けるように前
に突起している。別に見苦しくはないが慣れるまで、時間が掛かりそうである。ただ、
女性は男性より額が発達していなかった。

「いや、困ったときはお互い様ですよ。遠慮なく言ってください」
 キャプテンはその男の目を見詰て言う。その男の横に上品で美しい女性が微笑んでい
た。そして、17,8歳の綺麗な娘は恥ずかしいのか、その女性に隠れるように覗く。
 身なりも仕草も高貴な感じがする。
「わたしの名はカカリーです、妻のリリアシア。そして、娘のリリーです」
 男は指を指し、紹介した。
「そうですか、わたしはキャプテン、こちらがナオ、子どもがアスカ。案内して来た大
きいロボットがベン、そして白衣を着たドクターロボのマザーです」

「えッ、ドクターロボ。この美しい方がドクターロボですか?」
「そうです。ご存知ですか?」
「はい、噂だけは聞いています。ここで合えるとは。いや、それよりこんな大型戦闘艇
にあなた方3人とは理解に苦しむ」
 納得がいかないのか、顎鬚の男はサロンの中を見回す。
「あッ、そうだった。ウイルスの関係であなた方は、この宇宙船に1時間以上いると危
険なので、必要なクスリを言ってください。直ぐに用意します」
 キャプテンが慌てて言った。
「分かりました、実は娘が喘息もちなんですよ。逃げて来る時、そのクスリを持ってく
る余裕がなくて」
「そうですか、マザー、診察するか?」
<<キャプテン、時間がまだありますから、娘さんを診察してからクスリを出します。
よければ医務室へ>>
「それはありがたい。リリアシア、リリーを医務室へ」
 父親のカカリーが促した。
「マザー、わたしも行っていい?」
 子どものアスカは興味本位で言う。
「駄目よ、アスカ。邪魔しては、時間がないんだから」
 横にいたナオが嗜める。
「まあ、可愛いお子さんですね」
 リリーの母親リリアシアが優しく言う。
「えッ、まあ」
 一瞬、ナオは怒ったように顔を膨らます。
 アスカは9歳、ナオは24歳。ナオの子ならナオ15歳で産んだことになる。






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