<<キャプテンは筋が通れば冷酷無比な殺人鬼になります。何かきっかけがあれば>> 「ベン、よくわからないけど?」 <<例えば、キャプテンが宇宙平定を目指せば、平常心で何十万、何百万人と殺戮を繰 り返すでしょ>> 「何で、宇宙平定を目指すの?」 <<キャプテンが好むと好まざるとに関わらず、キャプテンは追い込まれます。それを 打破するために宇宙平定を目指します>> 「なぜ、キャプテンは追い込まれるの?」 <<よく分かりませんが、安っぽい正義心のためと思われます>>
「ふん、わたしの出番はなさそうね。このことは二人には黙っていてね」 <<アスカ、分かりました。でも宇宙人のダブルのことは本人が知っていたとキャプテ ンに報告してもよろしいですか。その方がアスカも余分な気を使わないで済むと思いま すが?>> 「任せるわ、わたしはまた子どもの振りをするわ」
<<宇宙恒星日誌21080627。 サザンクロス星へ飛行中に異星人に遭遇する>>
あれから順調に3週間が過ぎる。近頃は野菜が収穫でき、夕食だけは豪華になってき た。 「ウフ、わたしにしては上出来よ。こんなに美味しいトマトとナス」 嬉しそうにナオがトマトをほうばる。 「うん、宇宙にも似たような野菜がなるんだな。このジャガイモも美味い」 焼いたジャガイモにバターを塗り、美味そうにキャプテンは齧り付く。 「ねえねえ、豆腐はできないの。わたし豆腐が好きなの?」 アスカがトウモロコシのスープを飲みながら言う。 「えー、豆腐。豆はあるけど、豆腐の作り方の本がないと難しいわね」 ナオは無視するような口調で言う。
<<キャプテン、大変です、SOS信号を受信しました>> ロボットのベンの頭のランプが黄色く、点滅する。そして、三人の手が止まった。 「ベン、そのSOS信号とは、救助を求めている信号のことだな?」 ゆっくりとキャプテンが言う。 <<キャプテン、この宇宙船の800万キロ前方から小型宇宙船が近づいています。そ の後ろから3艘の高速艇が追っています。今のところ、この宇宙船のことは気づいてい ません>> 「そうか、スピードを微速減速せよ」 <<キャプテン、減速しました。この宇宙船のことを気づくのは1分35秒後です>> 「よし、対応策を検討する。その4艘の船識別番号を確認できるか?」 <<了解、小型宇宙船は正式な船識別番号を発信しています。後ろの3艘は船識別番号 を発信していません。海賊の高速艇と思われます>> 「うーん」 キャプテンは食べ物を前にして、眉間に鶸を寄せる。この船識別番号は地球の物流バ ーコードと似ていた。それで持ち主の宇宙空域が詳細に分かるようになっている。 海賊は非合法な生業で、正体を明かしたくなく船識別番号を発信していなかった。
「助けてあげて、キャプテン。わたし達の場合と同じよ。助けて」 ナオが拝むようにキャプテンを見詰る。 「おねがい、たすけてあげて、キャプテン」 子どものアスカも緊張した顔で言う。 「ベン、これから言うことを翻訳して、前方の4艘に向かって送信しろ」 <<了解>> 「こちら宇宙平和維持軍。速度を落として停止しなさい。発砲することは許さん。発砲 すれば破壊する」 破壊と言う言葉を聞いて、ナオとアスカはギョッとして顔を見合す。 キャプテンはロボットのベンを見て小さく頷いた。 <<キャプテン、今のメッセージを繰り返し前方の船に送っています。返事が届き次 第、お知らせします>> 「うん、操縦室で見守ろう。さあー、みんな」 食事を中断して、三人は小走りに操縦室へ向かった。
「ベン、スクリーンに映してくれ」 キャプテンの大きな声が響いた。 <<キャプテン、了解しました。距離20万キロ、微速前進。今だ応答無し>> ロボットのベンが嬉しそうに自分の音量を上げた。 スクリーンには、小型円盤と高速艇の3艘が映し出された。 <<助けてくれ、海賊に襲われている>> <<....邪魔....邪魔....おまえ....攻撃....>> 小型宇宙船の応答は鮮明に聞きとれたが、海賊の応答は言語変換に無理があるのか、 途切れ途切れに聞こえる。 「こちら、宇宙平和維持軍、了解した。小型宇宙船は横にずれなさい」 キャプテンはロボットのベンを見て小さく頷いた。
直ぐに小型宇宙船が右によった。そして、キャプテンの宇宙船は海賊の高速艇と宇宙 空域で睨み合った。 「ベン、あの小型宇宙船は何人乗りだ」 <<キャプテン、最大搭載人員10人です。海賊の高速艇は2人乗りです。それにたい した攻撃力はありません>> 「そうか、主砲のレーザー砲を海賊の高速艇の上空に威嚇射撃してくれ」 <<キャプテン、了解しました。距離800キロ、威嚇射撃、主砲発射>> その瞬間、スクリーンの上部から眩い光がスーッと延びて、海賊の高速艇の上を突き 抜け闇の中に消えた。そして、海賊の高速艇は光の衝撃波により大荒れの大海で弄ばれ る小船のようにふらふらと揺れていた。 <<キャプテン、終了しました。次はどうしましょうか?>> 「うん、これで終わりだ。海賊の高速艇はこれで逃げ出す」 キャプテンの言うとおり、暫くして海賊はすごすごと退却していった。
<<こちらアトラス宇宙船、助けてもらいありがとう。敵からの攻撃で宇宙船の一部が 破損した。そのため、水のろ過装置が駄目になった。そちらに予備があればもらいたい のだが?>> 「うん、ベン。希望しているものが、この宇宙船にあれば無償でやってくれ。全てベン に任せる」 <<キャプテン、了解しました>> そして、ロボットのベンは暫く相手とやり取りをしていた。
<<キャプテン、水のろ過装置ユニットと、宇宙食6カ月分と、クスリが欲しいとのこ とです。そして宇宙船を接近させ、こちらの宇宙船へ取りに来ると言っています>> 「うん、了解した。アトラスの搭乗人員の人数とこちらに来る人数を確認してくれ?」 <<キャプテン、了解しました>> そしてすぐに返事がきた。 <<キャプテン、搭乗人員は親子連れの3人だけです。そして、宇宙スクーターに乗っ て3人で訪問したいと言っています>> 「うん、了解したと伝えろ。マザー、宇宙人をこの宇宙船にむかい入れるために消毒す る必要があるのか?」 <<キャプテン、この宇宙船の消毒は必要ありません。入ってくる宇宙人をエトランゼ 室から入れてください。エトランゼ室で消毒します。それと、この宇宙船の滞在時間は 1時間以内にしてください>> 「分かった。エトランゼ室とはあの宇宙へ散布する死体安置室のことか?」 <<ベンが勝手に死体安置室と呼んでいるだけで、正式には外部へ出入りするエトラン ゼ室です>> ドクターロボのマザーは困惑した表情で言う。 「そうか、分かった」 ロボットのベンは気まずい空気で、目が泳いでいた。
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