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作品名:銀河を渡る船 第二部・道草 作者:佐藤 神

第6回   6
<<キャプテンは筋が通れば冷酷無比な殺人鬼になります。何かきっかけがあれば>>
「ベン、よくわからないけど?」
<<例えば、キャプテンが宇宙平定を目指せば、平常心で何十万、何百万人と殺戮を繰
り返すでしょ>>
「何で、宇宙平定を目指すの?」
<<キャプテンが好むと好まざるとに関わらず、キャプテンは追い込まれます。それを
打破するために宇宙平定を目指します>>
「なぜ、キャプテンは追い込まれるの?」
<<よく分かりませんが、安っぽい正義心のためと思われます>>

「ふん、わたしの出番はなさそうね。このことは二人には黙っていてね」
<<アスカ、分かりました。でも宇宙人のダブルのことは本人が知っていたとキャプテ
ンに報告してもよろしいですか。その方がアスカも余分な気を使わないで済むと思いま
すが?>>
「任せるわ、わたしはまた子どもの振りをするわ」

<<宇宙恒星日誌21080627。
 サザンクロス星へ飛行中に異星人に遭遇する>>

 あれから順調に3週間が過ぎる。近頃は野菜が収穫でき、夕食だけは豪華になってき
た。
「ウフ、わたしにしては上出来よ。こんなに美味しいトマトとナス」
 嬉しそうにナオがトマトをほうばる。
「うん、宇宙にも似たような野菜がなるんだな。このジャガイモも美味い」
 焼いたジャガイモにバターを塗り、美味そうにキャプテンは齧り付く。
「ねえねえ、豆腐はできないの。わたし豆腐が好きなの?」
 アスカがトウモロコシのスープを飲みながら言う。
「えー、豆腐。豆はあるけど、豆腐の作り方の本がないと難しいわね」
 ナオは無視するような口調で言う。

<<キャプテン、大変です、SOS信号を受信しました>>
 ロボットのベンの頭のランプが黄色く、点滅する。そして、三人の手が止まった。
「ベン、そのSOS信号とは、救助を求めている信号のことだな?」
 ゆっくりとキャプテンが言う。
<<キャプテン、この宇宙船の800万キロ前方から小型宇宙船が近づいています。そ
の後ろから3艘の高速艇が追っています。今のところ、この宇宙船のことは気づいてい
ません>>
「そうか、スピードを微速減速せよ」
<<キャプテン、減速しました。この宇宙船のことを気づくのは1分35秒後です>>
「よし、対応策を検討する。その4艘の船識別番号を確認できるか?」
<<了解、小型宇宙船は正式な船識別番号を発信しています。後ろの3艘は船識別番号
を発信していません。海賊の高速艇と思われます>>
「うーん」
 キャプテンは食べ物を前にして、眉間に鶸を寄せる。この船識別番号は地球の物流バ
ーコードと似ていた。それで持ち主の宇宙空域が詳細に分かるようになっている。
 海賊は非合法な生業で、正体を明かしたくなく船識別番号を発信していなかった。

「助けてあげて、キャプテン。わたし達の場合と同じよ。助けて」
 ナオが拝むようにキャプテンを見詰る。
「おねがい、たすけてあげて、キャプテン」
 子どものアスカも緊張した顔で言う。
「ベン、これから言うことを翻訳して、前方の4艘に向かって送信しろ」
<<了解>>
「こちら宇宙平和維持軍。速度を落として停止しなさい。発砲することは許さん。発砲
すれば破壊する」
 破壊と言う言葉を聞いて、ナオとアスカはギョッとして顔を見合す。
 キャプテンはロボットのベンを見て小さく頷いた。
<<キャプテン、今のメッセージを繰り返し前方の船に送っています。返事が届き次
第、お知らせします>>
「うん、操縦室で見守ろう。さあー、みんな」
 食事を中断して、三人は小走りに操縦室へ向かった。

「ベン、スクリーンに映してくれ」
 キャプテンの大きな声が響いた。
<<キャプテン、了解しました。距離20万キロ、微速前進。今だ応答無し>>
 ロボットのベンが嬉しそうに自分の音量を上げた。
 スクリーンには、小型円盤と高速艇の3艘が映し出された。
<<助けてくれ、海賊に襲われている>>
<<....邪魔....邪魔....おまえ....攻撃....>>
 小型宇宙船の応答は鮮明に聞きとれたが、海賊の応答は言語変換に無理があるのか、
途切れ途切れに聞こえる。
「こちら、宇宙平和維持軍、了解した。小型宇宙船は横にずれなさい」
 キャプテンはロボットのベンを見て小さく頷いた。

 直ぐに小型宇宙船が右によった。そして、キャプテンの宇宙船は海賊の高速艇と宇宙
空域で睨み合った。
「ベン、あの小型宇宙船は何人乗りだ」
<<キャプテン、最大搭載人員10人です。海賊の高速艇は2人乗りです。それにたい
した攻撃力はありません>>
「そうか、主砲のレーザー砲を海賊の高速艇の上空に威嚇射撃してくれ」
<<キャプテン、了解しました。距離800キロ、威嚇射撃、主砲発射>>
 その瞬間、スクリーンの上部から眩い光がスーッと延びて、海賊の高速艇の上を突き
抜け闇の中に消えた。そして、海賊の高速艇は光の衝撃波により大荒れの大海で弄ばれ
る小船のようにふらふらと揺れていた。
<<キャプテン、終了しました。次はどうしましょうか?>>
「うん、これで終わりだ。海賊の高速艇はこれで逃げ出す」
 キャプテンの言うとおり、暫くして海賊はすごすごと退却していった。

<<こちらアトラス宇宙船、助けてもらいありがとう。敵からの攻撃で宇宙船の一部が
破損した。そのため、水のろ過装置が駄目になった。そちらに予備があればもらいたい
のだが?>>
「うん、ベン。希望しているものが、この宇宙船にあれば無償でやってくれ。全てベン
に任せる」
<<キャプテン、了解しました>>
 そして、ロボットのベンは暫く相手とやり取りをしていた。

<<キャプテン、水のろ過装置ユニットと、宇宙食6カ月分と、クスリが欲しいとのこ
とです。そして宇宙船を接近させ、こちらの宇宙船へ取りに来ると言っています>>
「うん、了解した。アトラスの搭乗人員の人数とこちらに来る人数を確認してくれ?」
<<キャプテン、了解しました>>
 そしてすぐに返事がきた。
<<キャプテン、搭乗人員は親子連れの3人だけです。そして、宇宙スクーターに乗っ
て3人で訪問したいと言っています>>
「うん、了解したと伝えろ。マザー、宇宙人をこの宇宙船にむかい入れるために消毒す
る必要があるのか?」
<<キャプテン、この宇宙船の消毒は必要ありません。入ってくる宇宙人をエトランゼ
室から入れてください。エトランゼ室で消毒します。それと、この宇宙船の滞在時間は
1時間以内にしてください>>
「分かった。エトランゼ室とはあの宇宙へ散布する死体安置室のことか?」
<<ベンが勝手に死体安置室と呼んでいるだけで、正式には外部へ出入りするエトラン
ゼ室です>>
 ドクターロボのマザーは困惑した表情で言う。
「そうか、分かった」
 ロボットのベンは気まずい空気で、目が泳いでいた。











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