そして、キャプテンとナオは楽しそうに黙々と作業を続ける。 「2週間後が楽しみね、キャプテン」 「そうだな、冷凍物ばっかりだと新鮮味がない」 「あら、キャプテン。冷凍物と区別がつくの?」 「うーん、生で食えば分かるさ」 その時、通路の遠くからアスカの甲高い声が聞こえた。
「あら、アスカの声だわ。嬉しくてしょうがないのね」 「いや、違う。何かトラブッテいる。ちょっと見てくる」 キャプテンは素早く手についた泥を払い、部屋を飛び出した。そして、通路を駆け抜 けサロンへ入った。 キャプテンはボートを捜したが見当たらない。そして、ロボットのベンとドクターロ ボのマザーが、天井を見上げている。 「あッ、ボートが」 天井を見上げて、キャプテンが叫んだ。
<<キャプテン、わたしのロボットの腕ではどうしてもうまく紐が放れなくて、それで マザーが>> ベンが言う。そして、マザーは手に紐を持って、天井に放り投げようとしていた。 「マザー頑張れ」 <<はい、キャプテン。わたしの腕はベンと違い人間のように造られていますから>> 反動をつけてマザーは、勢いよく紐を天井のボートから顔を出しているアスカめがけ て放る。アスカは片手で、天井を押し上げ、天井とボートの隙間から、顔ともう一方の 手を出している。 だが、期待に反してマザーの放った紐は、天井まで届かず途中で落ちてきた。 <<おかしいわね、うまくいかないわ>> 白衣の乱れを整いながらマザーは首を傾げる。
「うん、紐が軽すぎるな。ベン、太い紐で10メートルある紐を持ってきてくれ」 <<キャプテン、了解しました>> 「キャプテン、早くして。おしっこがしたいの。もれそうよ」 「そうか、ベンが倉庫へロープを取りに行った。もう少しの辛抱だ」 「そんなに待てない。早く」 悲痛なアスカの声が聞こえる。 「アスカ、我慢しないでボートの中でおしっこをしなさい」 気楽にキャプテンが言った。 「いやよ、こんなところで」 「そうか、困ったな」 <<キャプテン、オムツを使いましょうか。それとも、持ち運び簡易トイレがいいです か?>> ドクターロボのマザーが言う。 「それはいい、天井まで放れるのがいいな」 <<キャプテン、簡易トイレを持ってきます>> と、言ってマザーは小走りで医務室に走った。
床にはボートの中にあるはずのゴム製のボトルが散乱していた。暫くすると、ベンと マザーが同時に帰ってきた。 「紐じゃ時間的に間に合わない。マザー、簡易トイレを早く」 マザーは包みを切って、素早くキャプテンに渡した。 「よし、アスカ。簡易トイレを放るぞ、受取れ」 簡易トイレを片手に持って、腕を振り下ろして、キャプテンは天井を見詰る。 「うん、トイレはいらない。ここから下ろして」 「そうか、遅かったか」 残念そうにキャプテンが言う。
それから2日が過ぎた、 アスカを乗せたボートは床上1メートルに浮いていた。ボートの縁に結び付けている 紐をベンが引っぱり宇宙船内を歩き回る。 「ベン、ありがとう。楽ちんだよ」 <<アスカ、喜んでもらってよかった>> ベンが倉庫の中を引っぱっている時、アスカは低い声で言う。 「ねえ、ベン。何で今日に限ってボートの紐なんか引っぱっているの?」 <<アスカに喜んでもらおうと思いまして>> 「ベン、何かを隠していることは分かっているのよ。わたしは子どもじゃないのよ」 <<アスカ、子どもじゃないとは、どう言う意味ですか?>> 「肉体的には子どもでも、わたしは天才少女よ、知能では負けないわ。何を隠している の?」 <<アスカ、そう言われても困ります。マザーに頼まれて>> 「マザーに頼まれた。何を?」 <<これ以上は言えません>> 「わたしが宇宙に来たのは、ベンがいたからよ。ベンがいなかったら来なかったわ」 <<アスカ、その言い方はやめてください。健康診断で異常が見つかったのです>> 「何、わたしの何がおかしかったの?」 <<うーん、キャプテンとナオの血と異なるDNAがアスカの血から見つかったと言っ ていました>> 「えーッ、わたし、宇宙人なの?」 <<マザーはダブルじゃないかと>> 「じゃ、わたし、混血児なの?」 <<はい、地球人の血が間違いなく半分入っています。けど、もう半分の宇宙人の種族 が判明しません>>
「そう、でもよかった」 <<アスカ、何でいいのですか?>> 「だって、地球には帰らないのよ。これからは宇宙人の中で暮らすのよ、半分でも宇宙 人の血が混じっている方がいいわ」 <<そんなもんですか、わたしにはよく分かりません。そのことで、キャプテンとマザ ーが話し合っています>> 「そうだったの。そんなことどうでもいいのに。それよりベン、わたしと組まない?」 <<はあー、何のことですか?>> ロボットのベンが警戒するようにアスカを一瞥した。 「天才少女のわたしは、宇宙制覇を狙っているのよ。わたしがこの手で宇宙を」 と、言うと子どものアスカは小さな拳を握った。 <<アスカ、やめてください。あなたに戦いは似合わない。学者になるのがいいでしょ う>> 「学者?」 <<はい、宇宙ではワープ走行の開発が終わり商品化されました。これからはタイムマ シンの開発に入ります>>
「タイムマシンか」 <<アスカ、宇宙制覇はあきらめて、学者になってください>> 「だけど、ベンは戦争好きのロボット兵でしょう?」 <<ふふふ、そうです。アスカ、知ってたんですか?>> 「分かるわよ、戦いになると異常に興奮しているから。だからベンも宇宙制覇を考えて いるんでしょ?」 <<わたしはロボットですよ、そんなこと考えませんよ>> 「ベン、わたしには分かるの。ベンは戦いに生き甲斐を感じているわ。このままでいい の?」 <<しょうがない人だ。誰にも言ってはいけませんよ。わたしはキャプテンに期待して います>> 「キャプテンは只のお人よしのパイロットよ。ベンの買いかぶりすぎよ」 ベンの目がギョッロット大きく見開き、アスカを見詰た。
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