20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:銀河を渡る船 第二部・道草 作者:佐藤 神

第4回   4

「アスカ、ゴムボートは綺麗に拭けたか?」
「うん、大丈夫だよ」
 タオルを濯いでいたアスカは、額に汗を浮かべていた。
「そうか、サロンに運ぼう」
 二人でゴムボートを持ち上げる、子どものアスカは嬉しくてニコニコしていた。
 暫くして、紐を持ってベンが倉庫から帰って来た。
<<キャプテン、綺麗な紐がありました>>
 ベンの手には、黄色と赤の格子模様の3メートルぐらいの太い紐が握られていた。
「うーん、宇宙船に、こんなにいい感じの紐があるとは」
 キャプテンはその紐を受取り、ゴムボートの縁の輪にその紐を通した。そして、その
紐の反対側を宇宙船に固定されている棚の根元に縛った。
「これで天井まで飛ばないの?」
 アスカは待ちきれない顔で言う。
「ああ、大丈夫だ」
<<キャプテン、ゴム製のボトルを10枚、倉庫の前の床においてあります。わたしは
ゴムボートにヘリウムガスを入れます>>
「分かった、取ってくる。アスカ、倉庫に行くぞ」
 アスカはスキップを踏むように、軽快にキャプテンの後に続く。そして、洗面所で水
を詰めて、サロンに帰って来た。

「ワーッ、ボートだ。浮いている」
 ゴムボートが紐に繋がって、床から2メートルぐらいの高さでぷかぷか浮いていた。
「ベン、完成したのか」
 キャプテンはその紐を手繰り、ツーン、ツーンと凧みたいに引っぱった。ゴムボート
がその引き具合に合わせて反応した。
<<キャプテン、終わりました。これがリモコンです、前後左右に動きますが、危険な
ので時速2キロのスピードに設定しました>>
「ありがとう、ベン。乗るか、アスカ?」
「うん、乗りたい」
 痛いぐらい首を上に向け、アスカは大きい声で言う。

「分かった。じゃ、ベン。紐を手繰ってボートを床に付けててくれ。わたしがボトルと
アスカを入れる」
<<キャプテン、了解しました>>
 ロボットのベンは紐を掴むと、器用に手繰り寄せる。手繰るたびにボートが少し斜め
になり床に引き付けられる。近づくとベンは、片手でボートの縁を掴んで一気にボート
を床に押さえつけた。
「ワーッ、ベン、凄い力」
 子どものアスカが歓声を上げた。
<<キャプテン、今のうちに>>
「うん」
 ボトルを持って、キャプテンは次々にボートの中に入れる。最後にアスカを抱え上げ
ボートの中に静に置いた。
 緊張した顔でアスカはキャプテンを見る。
「よし、ベン、ゆっくりボートを浮かせてくれ」
 ベンはボートを押さえている腕の力を緩める。するとだんだんボートが浮いてきた。
そして、ベンはボートから手を離した。

 ボートが空中にフワーと浮いた。
<<キャプテン、床から1メートルの予定が4,5センチ足りません。どうしましょ
う、水を抜きますか?>>
 ロボットのベンが厳しい目で言う。
「いや、このぐらいのほうがいい。どうだ、アスカ。気分は?」
「いいよ、おもしろい」
 念願のボートに乗れて、アスカは顔をクチャクチャにして喜んでいる。
「アスカ、これがリモコンだ。前後左右に動けるぞ」
 リモコンを見てから、キャプテンはアスカに渡した。
「ほんとう、操縦できるの、うれしい」
 アスカがリモコンを弄ると、ボートがゆっくり進んだ。しかし、ボートに繋がれた紐
がピーンと張りそれ以上は進まなかった。アスカは判然としない顔で、身を乗り出して
ボートの下を覗いた。
「ベン、ひもをほどいてよ。犬小屋につながれた犬じゃないんだから」
 ロボットのベンは、キャプテンの顔を見た。
「うーん、いいだろう。怪我をしてもドクターロボのマザーがいるから」
 ベンは棚の根元に縛ってあた紐を解いて、その紐をボートの中に入れた。そして、ゆ
っくりボートを押した。
「アスカ、もう直ぐ食事だ。宇宙船を一蹴したら帰って来い」
「はーい、ごきげんよう」
 上機嫌でアスカは手を振って、サロンを出て行った。

「ねえ、アスカがあんなに喜ぶとは思わなかった。わたし、ビスケットを持てくるわ。
アスカの分、1枚増やそうかしら」
 と、言いながらナオは笑いながら厨房に行く。
「大人は健康診断で、食事抜きか。辛いな」
 キャプテンはアスカが羨ましそうに言う。
<<キャプテン、今日だけですから我慢してください>>
 ドクターロボのマザーが言う。
「そうだな」
 そして、ナオが大事そうに宇宙食のビスケットとスープを持ってきた。
「今日はアスカの分だけよ。マザー、検査が終われば食べてもいいの?」
<<ナオ、終わればいくらでも、食べてください>>
 意地汚い人たちと言う顔で、マザーが言う。だが、ロボットには空腹という満たされ
ない気持ちは理解できなかった。

 その日の午前中は、健康診断でベンの宇宙学が学べなかった。
そして、午後の運動をしてから、3人でナオの野菜栽培の手伝いをする。
 そこでキャプテンは新規にジャガイモみたいなものを植えた。
「あッ、キャプテン。何か植えたら植えたものの名前をこれに書いて、横に差してね。
後で分からなくなるといけないから」
 キャプテンはナオからプラスチックの札を受取った。
「フーン、これも倉庫にあったのか?」
「ええッ、ベンからもらったのよ。倉庫には何でもあるのね」
 感心したようにナオが言う。
「ねえねえ、ナオ。全部終わったからボートに乗ってきていい?」
 子どものアスカが鼻に土を着けながら言う。そしてその土をナオが払った。
「いいわよ、気をつけるのよ」
「うん」
 アスカは、走って部屋を出て行った。




← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 4714