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作品名:銀河を渡る船 第二部・道草 作者:佐藤 神

第3回   3

 そして、キャプテンの健康診断も無事終了する。午後の運動も終わり夜になった。
「今日の夕食は無しだ。明日の健康診断のために食事抜きだ。でも水はいいそうだ」
「えッ、水だけ。やだな」
 アスカは空腹のためか顔を顰める。
<<アスカ、アスカは夕食を抜かなくてもよかったけど、みんなと同じの方がいいでし
ょう?>>
 ドクターロボのマザーが言う。
「う、う、うーん」
 と、言ってアスカは薄目で、キャプテンとナオの顔を見た。
「アスカもいいだろう、夕食を抜くぐらい」
「やだ、食べたい」
「分かった、ビスケット型の宇宙食でいいな?」
「うん、いいよ」
 アスカは二ッコと笑った。
「直ぐに出してあげるわ。アスカ。アスカだけよ食べるの」
 ナオは立ち上がった。
「じゃ、わたしは、風呂の準備でもするか」
 と、言ってキャプテンはシャワー室に入り、次から次に蛇口を捻った。お湯が勢いよ
くボートに流れ込み、湯気がもうもうと立ち登る、キャプテンはその熱気に慌ててシャ
ワー室から出て行く。

 そして、ボートの浴槽が何分で一杯になるか、キャプテンはこまめに計っていた。
「うーん、一杯になるまで26分か。ボートがちょっと大きかったかな」
 呟くようにキャプテンが言う。
「えッ、入ってもいいの?」
 子どものアスカは、服のボタンを焦って外し服を脱いだ。
「あー、だめだ。足がとどかないよ」
 アスカはボートの浴槽の縁に手を付いて、その場でぴょんぴょん跳ねる。キャプテン
はアスカの腰に手を当てて、軽々持ち上げてゆっくりと浴槽に入れた。
<<ザーザ、ザー>>
 浴槽のお湯が縁から勢い欲流れ出した。
「ギャー、おもしろい。早く、キャプテンも早く入ってよ」
 そして、ナオも入り三人は仲良く浴槽に浸かる。

「これからどうするの?」
 子どものアスカは白い肌を朱に染めて、キャプテンに聞く。
「うん、天井を見てごらん」
 照明を暗くした天井にサザンクロス星の白い宇宙港が堂々と聳えていた。
「いいわね、こうしているとまるで、旅行に来ているみたい。あの国が移住先ね?」
 湯の中で、ナオの手がキャプテンの脚に置かれた。
「うん、うまくいけば6ヶ月先に、この宇宙船はあの宇宙港に着陸している」
「大丈夫よ。ベンとマザーがいるから、サザンクロス星まで行けそうね」
 ナオは髪の毛を濡らしたくないのか、長い髪の毛を頭の上で丸めて、それをタオルで
巻いていた。

 子どものアスカは、浴槽の中を泳ぎたくて手足をバタバタさせている。
「ねえ、泳いでもいい」
 と、言うと勢い欲、ザブーンと、湯にその小さな体を躍らせた。
「駄目よ! アスカ、顔にかかるわよ」
 アスカはキャーキャーいいながら、湯の中で嬉しそうに遊びだした。ナオは立ち上が
り、キャプテンの前を横切り、浴槽の隅に移動する。
「アスカ、泳げるのか?」
「うん、泳げるよ」
「じゃ、明日から運動の時間はアスカだけ、ここで水泳をするか?」
「いいよ。ねえねえ、キャプテン、壁に立てかけてあるのは何なの?」
 何かの遊び道具だとアスカは、浴槽の中から怪しんで見詰る。

「あれは空中に浮かぶゴムボートだ」
 得意顔でキャプテンは言う。
「そうなの、アスカが乗っても浮かぶの?」
「ああ、アスカなら乗れるな。風船のようにぷかぷか浮いて宇宙船内を移動できるぞ」
「えーッ、風船みたいにぷかぷかと。乗ってみたい!」
「分かった。明日やろう」
「約束だよ」
 アスカはわくわくした気持ちで、目を輝かせゴムボートを見詰る。
「よかったわねえ、アスカ、玩具が増えて。明日がお楽しみ」
「うん、早く乗ってみたい」
 子どものアスカは短期間に別人のように明るくなった。そして、ナオも喜び、このゴ
ムボートの浴槽は大成功であった。

 その翌日、キャプテンは6時に目を覚ました。
 アスカが興奮して、はしゃぎ回っている。
「キャプテン、早くゴムボートに乗せてよ」
「うーん、アスカ、早いな」
 待ちきれずにアスカは、毛布の中からキャプテンの手を引っぱる。
「分かったよ、アスカ」
 アスカに手を引かれキャプテンは、司令官室からサロンに出た。
<<あらキャプテン、早いですね>>
 白衣のマザーが上品に微笑んだ。
「うーん、アスカに起こされた。早く浮かぶゴムボートに乗りたいと言って。あれ、ベ
ンはどこに?」
 キャプテンはサロンの中を見回した。
<<キャプテン、ベンは備品置き場にいます>>
「そうか、ベンが来たらシャワー室にくるように言ってくれ。ゴムボートにヘリウムガ
スを入れてもらいたいから」
<<キャプテン、ベンは直ぐに来ますよ>>
「うん、アスカが五月蝿いから、先に行っている」
 アスカに手を引かれてキャプテンはシャワー室へ向かった。

 そして、シャワー室の奥の壁に、立てかけてあったゴムボートをキャプテンは床の上
に置いた。
「アスカ、このタオルでゴムボートについている水滴を綺麗に拭いてくれ」
 と、言ってキャプテンはタオルをアスカに抛る。
「うん、いいよ」
 アスカはしゃがみこみ、一生懸命に濡れている部分を拭う。
<<キャプテン、浮かぶゴムボートですか?>>
 その時、二人の後ろからロボットのベンが声をかけた。
「あッ、ベン。アスカが五月蝿くてな、ゴムボートにヘリウムガスを入れてくれ」
<<キャプテン、分かりました。乗るのはアスカだけですか、それとも三人ですか。ど
うしましょう?>>
「いや、アスカだけだ。アスカが太ってもいいように、5キロの錘を入れたい」
<<キャプテン、錘と言いますと?>>
「うん、500グラムのゴム製のボトルに水を入れて、10本分をゴムボートに乗せ
る。だから、アスカの体重と5キロの重さで床から1メートル浮くようにヘリウムガス
を調整してくれ」
<<キャプテン、分かりました。アスカの体重が25キロでしたから、5キロ加算して
30キロでいいですね?>>
「うん、そうすればわたしでも、ゴム製のボトルの水を入れたり出したりして、ゴムボ
ートを1メートル浮かせる調整が出きる」
<<キャプテン、分かりました。それと誰も乗っていない時は天井まで浮いてしまうの
で、ゴムボートに紐をつけてどこかに結わいて、係留させましょう>>
「うん、ベン、それでお願いする」
<<キャプテン、了解しました。とりあえず倉庫から紐を持ってきます>>
 そして、ロボットのベンは、シャワー室から出て倉庫へ向かう。











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