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作品名:銀河を渡る船 第二部・道草 作者:佐藤 神

第2回   2

「ベン、こういうのが欲しいんだが、どこかにないかな?」
 紙に書いた浴槽をキャプテンは、ベンに見せる。
<<キャプテン、これにお湯を入れて、それに浸かるんですね?>>
 ロボットのベンはその絵を見詰た。人間がシャワーを浴びることは学んでいたが、湯
に浸かる習慣は宇宙にはなかった。
「うん、縦2メートル、横3メートル、深さ1メートルぐらいで水が漏れないものが欲
しいんだが?」
<<キャプテン、厨房の流し台では駄目ですか、少し小さいですが?>>
 冗談にも受取れるベンの答えである。
「うん、それは小さ過ぎるよ。それに、流し台は流し台として使うから、普段使わない
ものがいいな」
<<キャプテン、難しいですね、冷凍庫の間仕切りを合わせて、溶接しますか?>>
「うーん、もっと簡単にできないかな」
 キャプテンは首を傾げる。

「ベン、この宇宙船は不慮の事故を想定して、食べ物が倉庫にあるんだな?」
<<キャプテン、その通りです>>
「じゃ、車とかオートバイとかは、この宇宙船に積んでいないのか?」
<<キャプテン、小型エアーカーを積んでいます>>
「そうか、もしこの宇宙船が海に不時着した場合、救命具は何だ?」
<<キャプテン、8人乗りのゴムボートが15隻用意されています>>
「そのゴムボートをこの浴槽に使えないかな?」
<<キャプテン、そのゴムボートの長さは5メートル、横幅2メートル50センチ、深
さ70センチです。使えそうですね>>
「うん、倉庫に取りに行こう」

 そして倉庫からゴムボートを取り出し調べてみると、分厚いゴムが二重になってい
た。空気を入れる口があり、膨らませると頑丈なゴムボートになりそうである。
「ベン、空気入れ用の小型ボンベが何個かあるけど、どれでもいいのか?」
<<キャプテン、注意してください、空気と風船用ヘリウムガスの2種類がありますか
ら>>
「そうか、風船用ヘリウムガスを入れれば、このゴムボートを浮かせることができるの
か?」
<<キャプテン、その通りです。不時着して地上の歩行が危険な場合は、この風船用ヘ
リウムガスを入れて空中を進みます。ただし、ボムボートに乗せる重さによりヘリウム
ガスの濃度を変えますから、その調整も結構大変です>>
「それは面白そうだ。とりあえず両方持っていこう」
<<キャプテン、了解しました>>

 そして、キャプテンとロボットのベンは、シャワー室の奥でゴムボートを組み立て
た。そのゴムボートは、レジャー用のゴムボートと違いバットで叩いても壊れそうもな
かった。
「ベン、このゴムボートは大きくて随分がっしりとしているな」
<<キャプテン、荒波に耐えられるようになっています。それに蓋もできます>>
「いや、蓋はいらない。これで十分だ。これでシャワーのホースを5本ぐらい、このゴ
ムボートに入れて、お湯を捻れば入れるぞ」
 嬉しそうにキャプテンは言った。
「うん、いいな。このシャワー室の室温と照明は、わたしにも調節が出きるのか?」
<<キャプテン、全てわたしに接続されていますが、扉の横のコントロールパネルから
も出来ます。キャプテン、何だか楽しそうですね?>>
「いや、ナオが五月蝿くて参る。ナオは地球へ帰還しないと決まってから、急に喧しい
女になった。わたしは優しい女性だとばっかり思っていたのに」
 キャプテンが愚痴りだす。

<<キャプテン、この浴槽が出来れば、ナオの機嫌も直りますよ>>
「うん、そう願いたいものだ。ところで、ベン。ここの天井にホログラムを投影して欲
しいんだが?」
<<キャプテン、何を投影させましょう。湯気が邪魔をするかもしれませんが?>>
「うーん、そうか湯気か。後で絵は見せる」
<<キャプテン、了解しました>>

 その時、子どものアスカが顔を覗かした。
「ベン、何してるの」
 子どもが珍しい玩具を見つけたような顔をして、アスカがシャワー室に入って来た。
<<アスカ、浴槽を作っています>>
「よくそう?、何これ、大きい」
 不思議そうな顔で、アスカは浴槽の中を覗いた。
「健康診断は終わったのか、アスカ?」
 浴槽の中に入ろうとしたアスカをキャプテンの腕が遮った。
「うん、ナオが健康診断をしているよ」
 アスカは浴槽の中を見ながら言った。
「今晩から、温泉に入るからな」
「えッ、何、温泉って?」
 分けがわからずアスカは、キャプテンの顔を見た。
「うん、この中にお湯を入れてみんなで、裸で入るんだ。アスカ、火星のコロニーに
は、お風呂が無かったのか?」
「うん、知らない。でもプールなら知ってよ」
「いや、プールとは違うな」
「そうなの、裸で入って何するの?」
「お湯に浸かって体の疲れを取るんだよ」
「じゃ、アスカも入る。ベンも入るんでしょ?」
<<アスカ、わたしはロボットです。お湯に浸かればショートして故障します>>
「よし、これで出来上がった。後はサロンでホログラムの絵を決めよう。行こうか」
<<キャプテン、了解しました>>

 そして、キャプテンはシャワー室の天井に投影する、ホログラムの絵柄を決めかねて
煩悶していた。
「うーん、どうするかな。初めてだから満天の星と流れ星にするかな、それとも、銭湯
に描かれている富士山と帆掛け舟にするかな」
「ねえ、ねえ、猫のタマでもいい。わたし、タマがいいな」
 甘えた声でアスカが言う。
「うん、他の絵に飽きたらタマにしてやるよ」
「忘れないでよ、キャプテン。わたし約束を忘れたことがないのよ」
 アスカは賢そうな顔でキャプテンを見詰る。
「大丈夫だ、アスカ。約束は守る。そうだ、ベン。前に見たサザンクロス星の街並みを
シャワー室の天井に映すことは出きるか?」
<<キャプテン、簡単です>>
「そうか、動画だぞ?」
<<はい、問題ありません。上映時間は10分間です>>
「そうか、10分は短いな。それじゃ、サザンクロス星と、この宇宙船の持ち主のデス
ラカン帝国を映してくれ」
<<キャプテン、了解しました>>






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