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作品名:銀河を渡る船 第二部・道草 作者:佐藤 神

第10回   10

「じゃ、条件付だ。わたしはこの宇宙船の元の持ち主、デスカラン国王にわれわれの存
在を知られたくない。そのため宇宙船の全貌を放映させない、エトランゼ室とサロンし
か映してはいけない。ロボットのベンとマザーとわたしは映さない」
 と、言ってキャプテンはナオの目を見詰る。
「うーん、条件が多いわね。でも、ベンがいないと言語変換が出来ないわ。どうするの
よ?」
 ナオがキャプテンを見詰返す。
「そうよ、ベンがいないと」
 子どものアスカもキャプテンを見る。
「そういわれると、だがベンが映っていれば、デスラカンに見つかる虞がある」
 キャプテンは、いい方法を考えながらベンを見詰る。
「ベンに服を着させるか。マザー、ベンの服を作るとなると何時間ぐらいかかる?」
<<キャプテン、ベンの服ですか。大柄だから1日はかかりますね>>
 マザーが首を捻る。
「国王、メディアの取材はいつですか?」
<<いや、メディアが勝手に話を進めて。今から30分後に、そちらの大型戦闘艇のエ
トランゼの前に到着することに>>
「分かりました。どうにかしましょう。準備がありますのでこれで」
<<すまない。キャプテン>>

「マザー、ベンの服を作る時間がない。ベンをミイラのように包帯で巻いてくれ」
 キャプテンがマザーを見る。
<<分かりました。ベン、医務室へ>>
「マザー、待って。15分で終わらせて、そしてわたしのメイクをお願い」
 と、ナオが言う。
「ずるい、わたしも」
 子どものアスカが便乗するように言う。
「えッ、子どもはいいのよ。そのままで十分綺麗よ。アスカ」
「だめ、メイクさせないと取材中にママって言うよ」
「アスカ、脅す気なの。しょうがないわね、1分だけあげる。いいわね?」
「うん、いいよ」
「じゃ、マザーに作ってもらった服に早く着替えましょう」
「えッ、何だ。その服と言うのは?」
 疑いの眼差しで、キャプテンは二人を見る。
「ほら、サザンクロス星で人前に出るから、何か着る物をマザーに作ってもらったの」
「そうか、わたしのは?」
「えッ、無いんじゃないの。さあッ、アスカ、行くわよ」
 ナオとアスカは、逃げるように司令官室に入る。そして着替えてから医務室へ行く。

<<ベン、足を広げて、腕を上げて。包帯を巻くわ>>
<<まったく迷惑な話だ、何でこんなことしなくちゃいけないんだ>>
 ロボットのベンは足を広げ厭わしそうに、ドンと足を下ろす。
<<直ぐに終わるわ、いろいろ事情があるのよ。ベン>>
 優しい声で諭すようにマザーが言う。
<<マザー、そうですね>>
 マザーの華奢な手が包帯を持ち、ニッコリ笑い瞬く間にベンをミイラに仕立てた。そ
して最後に黒い髪の毛のカツラを被せた。
「すごい」
 子どものアスカは感心したように言う。
「かっこいいわ、ベン。カツラも決まっているわ。さあーマザー、メイクをお願い、マ
ザーのメイクは感性の違いかしら、わたしには真似できないわ」
「マザー、1分はわたしの分よ。わすれないで」
 アスカはベンの包帯を触りながら言う。
<<アスカ、分かりました。ナオ、今の化粧は落とします。それと絶対に顔を動かさな
いで、危険ですから>>
「分かりました」

 眼にも留まらぬ速さで、マザーの手がナオの顔のメイクをクレンジングオイルで落と
す。そしてファンデーションから塗り始めた。
 瞬く間に基礎が仕上がり、美しさが輝きだした。そして、マザーの手が止まると、そ
こには別人のようなナオがいた。その肌は真珠の光沢に負けないぐらい上品に輝き、目
の周りのラメがくすむほどであった。
 そして、ナオは片肩が露に露出したドレスを優雅にセクシーに着こなしていた。
それを見た子どものアスカが、嫉妬したかのように落着きがなくなる。
「つぎはわたしよ、早くやって。マザー」
 アスカは急いで椅子に座る。そして、眉間に鶸が寄るほど目をかたく瞑った。
「アスカ、分かりました。もっと力を抜いて」
 残りの化粧品で子どものアスカも変身した。

 暫くして、ナオと、アスカはサロンに顔を出した。
「じゃ、キャプテンとマザーは隠れていてね。わたしが仕切るわ」
 ナオは機嫌がいいのか、微笑が絶えなかった。だが、キャプテンはロボットのベンを
見て笑いたくてしょうがなかった。
 ベンは体中包帯を巻き、頭から黒髪を垂らし、目だけがギョロット覗いていた。しか
し、ベンは結構その姿が気に入っていた。
「じゃ、わたしはマザーと操縦室に隠れているから、適当に取材を受けてくれ」
 サロンから出て行こうとしたが、ドクターロボのマザーがついてこないので、不思議
に思いキャプテンは振り返る。
「うん、マザー。隠れよう」
 マザーがモタモタしていたので、キャプテンは仕方なくマザーの手を掴みサロンから
出る。
「どうした、マザーもメディアの取材を受けたいのか?」
<<いいえ、キャプテン。そんなことはありません>>

 そして、二人は操縦室でも手を離さず、並んで坐った。
「マザーの手はナオの手より、柔らかくて温かい」
 キャプテンは首を軽く捻り、マザーを見詰た。
「キャプテン、わたしの手はどんな手術でも出きるように、作られています」
 と、言ってマザーは手をキャプテンの顔の上に置いた。そして、親指と中指がキャプ
テンの顔のこめかみを優しく押さえる。
「あッ、これは何の匂いだ、懐かしい匂いがする」
 キャプテンは催眠術にかかったように、そのまま眠りに落ちた。

 そして、ナオとアスカは、ルグール星から来たメディアの取材スタッフに囲まれてい
た。スタッフといっても、若くて綺麗な女子アナと、カメラマンと、荷物運びの3人と
 それを見て、ナオは気落ちしていた。それにスタッフの体がいやに小さい。男の身長
が150センチぐらいで、女子アナは140センチもなく、子どものアスカと同じぐら
いの身長であった。
 ナオは身長が170センチ以上あるので、並ぶと頭1つ以上の差があった。そのため
か女子アナは、ナオよりもアスカによく質問した。
 しかし、女子アナが宇宙平和維持軍のことを質問しても、二人は話をのらりくらりと
はぐらかした。女子アナもしだいに、痺れを切らし早々に切り上げ退散した。









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