<<宇宙恒星日誌21080606。 銀河系太陽系第三惑星地球人の三人、ナオ、アスカ、そしてキャプテンはサザンクロ ス星を目指して飛行中である。 この日誌は、これから起こる出来事を後世に残すために記するものである>>
地球防衛軍から逃亡した翌日。 キャプテン、ナオ、そして子供のアスカの三人はライブラリー室で、ロボットのベン から宇宙人の歴史を聞いていた。 <<アスカ、どうでしょう、わたしの話を理解してもらえましたか?>> ベンはアスカを見詰る。 「うん、よく分かる。火星の科学アカデミーの先生より上手よ。ベン、もっと教え方の レベルを上げて、わたしは大丈夫」 可愛らしく利発そうなアスカは大きな目で微笑んだ。亡くなった両親のことを忘れよ うと勉強に集中していた。 <<アスカは天才少女でしたね。大人あつかいでもいいですね。キャプテン?>> 「うん、多分われわれより理解力があると思う」 キャプテンは目を細めアスカを見た。 <<キャプテン分かりました。それからドクターロボのことなんですが>> 「あッ、忘れていた。これからわれわれの健康診断をお願いしよう。勉強はひとまず中 止だ。ベン、ドクターロボを立ち上げてくれ」 <<キャプテン、了解しました。それではみなさん、医務室へ行きましょう>> と、言うとベンは一人で、すたすた歩いてライブラリー室を出て行った。
移動する時、常にベンは三人を先導するように歩くのが、今回に限り一人で行ってし まった。キャプテンは首を傾げた。 「ベンはなんだか張り切っているわね。さあ、アスカ、行きましょ」 ナオが笑いながら言う。そして、三人は小走りにベンの後を追った。医務室に入ると ベンは、奥でなにやらごそごそやっていた。 <<あッ、みなさん。もう少しお待ちください。ドクターロボにここまでの現状説明を しています>> 「うん、分かった」 暫くすると、ベンの後ろから白衣を着た麗しい女性が現れた。 「あッ、これがドクターロボか?」 ドクターロボの顔を、昔見た木彫りの菩薩の顔にキャプテンはだぶらせていた。何で 宇宙人がこの顔を知っているんだ、それとも偶然か。頭の中が錯乱した。 <<みなさん、どうしました。あまり美人なので驚きましたか?>> ロボットのベンが言う。 ナオも驚愕の表情でドクターロボを見詰る。子どものアスカは口を開け息をするのを 忘れているようであった。
そのドクターロボが二歩、三歩と前に歩み寄った。 <<みなさん、命令とは言えお仲間の人たちを切り刻んで、申しわけありません。心よ りお詫び申しあげます>> ドクターロボは潤ませたような目で、三人を見詰る。上品で気品のに満ちた顔が既に 三人の心を魅了していた。 「うん、そのことは不幸な出来事として忘れよう。われわれ三人もベンとドクターロボ の助けがないと、この宇宙では生きられない。ドクターロボもわれわれの仲間として喜 んで受け入れる」
<<みなさん、ありがとう。わたしのことはマザーと呼んでください>> マザーの髪はブロンドのセミロングで、髪の毛を後ろでまとめていた。黒目で堀が深 く、透き通るような肌をしている。身長はナオより少し高かった。40歳の設定のわり には胸が豊かで、ウエストが括れていた。
「うん、いい名前だ。わたしはキャプテンと呼ばれている」 嬉しそうにキャプテンが言った。 「わたしはナオです。よろしく」 ナオは微笑みながら小さく手を上げた。 「あの、アスカです」 と、言うとアスカは小走りにマザーに近づき、マザーの指に小さな手が絡めた。 「あッ、温かい。人間の手だ」 アスカは大きな目をクリクリさせて、マザーの目を見詰た。 <<アスカ、残念でした。わたしは人間型アンドロイドです>> 「そうなの」 しかし、アスカはその指を離さなかった。
「マザー、われわれの健康診断をお願いする。いいかな?」 <<キャプテン、直ぐにやりますか?>> 「うん」 「あーッ、アスカからやる」 アスカが嬉しそうにマザーの腕に縋りついた。 「アスカはマザーが気に入ったみたいね?」 ナオがアスカの頭を撫でる。 「じゃ、マザー。アスカ、ナオ、このわたしの順番で健康診断をお願いする」 <<キャプテン、分かりました。アスカ、覚悟しなさい>> 「はーい」 「じゃ、われわれはサロンで待つか」 「そうね、ここで見てるのもなんだし。マザーにお願いして行きましょう」 <<はい、今日は1人1時間ぐらいで終わります。それから、今日の夕食から食事を抜 いてください、水以外は駄目です。明日は内臓を検査します>> マザーは優しく言って微笑んだ。 「分かりました。アスカ、おとなしくマザーの言うことを聞くんだぞ」 「大丈夫だよ」 と、言うとアスカは、小走りにマザーの白衣の後ろに隠れた。
キャプテンとナオは、サロンのソファーに坐った。 「ねえ、キャプテン。アスカだけど健康に問題があっても困るわね。無事に済めばいい んだけど。とにかく両親が亡くなって精神的に参っているから」 「うん、一度に両親をなくした経験はわたしにはないが、アスカの気持ちは痛いほど分 かる」 サロンの桜の花を愛でながら、キャプテンが呟いた。 「まあ、アスカを孤独にしないことだな」 「そうね、気をつけるわ、キャプテン。わたしは今日から空き部屋で、アスカと野菜を 栽培するけど。お風呂はできそう?」 「ああ、検討しているよ。いろいろ条件があってね」 小さく首を振りながらキャプテンが言う。
「えッ、なに。条件って?」 ナオが口調を荒げる。 「うん、外から浴槽の代わりになるものをシャワー室に入れようと考えていたんだが、 ベンに話したらシャワー室の扉を外したら駄目だと言うんだ」 キャプテンは困惑した表情を見せる。 「何で、入れた後、元通りにすればいいんじゃないの?」 「どうしても専門家がやらないと、宇宙船内の気密が保てないと言っていた。まあ、シ ャワーを使うため、ぴったりと扉をもとに戻らないと湿気が宇宙船に漂うからな」 「だって扉の幅は1メートルぐらいよ。浴槽は3人で入るからもっと大きくないと」 怒った顔でナオが言う。 「どうだろう、個別の浴槽というのは?」 「はあー、どう言うこと?」 「いや、ベット用のカプセルじゃ駄目かな。あれなら扉から入るし丁度いい?」 「絶対駄目よ。ちゃんと考えてよ、頼りにならないわね」 「分かったよ、ナオとアスカが満足するような浴槽を作るよ」 キャプテンは立ち上がり逃げるようにサロンを出た。
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