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作品名:銀河を渡る船 第二部・道草 作者:佐藤 神

第1回   1

<<宇宙恒星日誌21080606。
 銀河系太陽系第三惑星地球人の三人、ナオ、アスカ、そしてキャプテンはサザンクロ
ス星を目指して飛行中である。
 この日誌は、これから起こる出来事を後世に残すために記するものである>>


 地球防衛軍から逃亡した翌日。
 キャプテン、ナオ、そして子供のアスカの三人はライブラリー室で、ロボットのベン
から宇宙人の歴史を聞いていた。
<<アスカ、どうでしょう、わたしの話を理解してもらえましたか?>>
 ベンはアスカを見詰る。
「うん、よく分かる。火星の科学アカデミーの先生より上手よ。ベン、もっと教え方の
レベルを上げて、わたしは大丈夫」
 可愛らしく利発そうなアスカは大きな目で微笑んだ。亡くなった両親のことを忘れよ
うと勉強に集中していた。
<<アスカは天才少女でしたね。大人あつかいでもいいですね。キャプテン?>>
「うん、多分われわれより理解力があると思う」
 キャプテンは目を細めアスカを見た。
<<キャプテン分かりました。それからドクターロボのことなんですが>>
「あッ、忘れていた。これからわれわれの健康診断をお願いしよう。勉強はひとまず中
止だ。ベン、ドクターロボを立ち上げてくれ」
<<キャプテン、了解しました。それではみなさん、医務室へ行きましょう>>
 と、言うとベンは一人で、すたすた歩いてライブラリー室を出て行った。

 移動する時、常にベンは三人を先導するように歩くのが、今回に限り一人で行ってし
まった。キャプテンは首を傾げた。
「ベンはなんだか張り切っているわね。さあ、アスカ、行きましょ」
 ナオが笑いながら言う。そして、三人は小走りにベンの後を追った。医務室に入ると
ベンは、奥でなにやらごそごそやっていた。
<<あッ、みなさん。もう少しお待ちください。ドクターロボにここまでの現状説明を
しています>>
「うん、分かった」
 暫くすると、ベンの後ろから白衣を着た麗しい女性が現れた。
「あッ、これがドクターロボか?」
 ドクターロボの顔を、昔見た木彫りの菩薩の顔にキャプテンはだぶらせていた。何で
宇宙人がこの顔を知っているんだ、それとも偶然か。頭の中が錯乱した。
<<みなさん、どうしました。あまり美人なので驚きましたか?>>
 ロボットのベンが言う。
 ナオも驚愕の表情でドクターロボを見詰る。子どものアスカは口を開け息をするのを
忘れているようであった。

 そのドクターロボが二歩、三歩と前に歩み寄った。
<<みなさん、命令とは言えお仲間の人たちを切り刻んで、申しわけありません。心よ
りお詫び申しあげます>>
 ドクターロボは潤ませたような目で、三人を見詰る。上品で気品のに満ちた顔が既に
三人の心を魅了していた。
「うん、そのことは不幸な出来事として忘れよう。われわれ三人もベンとドクターロボ
の助けがないと、この宇宙では生きられない。ドクターロボもわれわれの仲間として喜
んで受け入れる」

<<みなさん、ありがとう。わたしのことはマザーと呼んでください>>
 マザーの髪はブロンドのセミロングで、髪の毛を後ろでまとめていた。黒目で堀が深
く、透き通るような肌をしている。身長はナオより少し高かった。40歳の設定のわり
には胸が豊かで、ウエストが括れていた。

「うん、いい名前だ。わたしはキャプテンと呼ばれている」
 嬉しそうにキャプテンが言った。
「わたしはナオです。よろしく」
 ナオは微笑みながら小さく手を上げた。
「あの、アスカです」
 と、言うとアスカは小走りにマザーに近づき、マザーの指に小さな手が絡めた。
「あッ、温かい。人間の手だ」
 アスカは大きな目をクリクリさせて、マザーの目を見詰た。
<<アスカ、残念でした。わたしは人間型アンドロイドです>>
「そうなの」
 しかし、アスカはその指を離さなかった。

「マザー、われわれの健康診断をお願いする。いいかな?」
<<キャプテン、直ぐにやりますか?>>
「うん」
「あーッ、アスカからやる」
 アスカが嬉しそうにマザーの腕に縋りついた。
「アスカはマザーが気に入ったみたいね?」
 ナオがアスカの頭を撫でる。
「じゃ、マザー。アスカ、ナオ、このわたしの順番で健康診断をお願いする」
<<キャプテン、分かりました。アスカ、覚悟しなさい>>
「はーい」
「じゃ、われわれはサロンで待つか」
「そうね、ここで見てるのもなんだし。マザーにお願いして行きましょう」
<<はい、今日は1人1時間ぐらいで終わります。それから、今日の夕食から食事を抜
いてください、水以外は駄目です。明日は内臓を検査します>>
 マザーは優しく言って微笑んだ。
「分かりました。アスカ、おとなしくマザーの言うことを聞くんだぞ」
「大丈夫だよ」
 と、言うとアスカは、小走りにマザーの白衣の後ろに隠れた。

 キャプテンとナオは、サロンのソファーに坐った。
「ねえ、キャプテン。アスカだけど健康に問題があっても困るわね。無事に済めばいい
んだけど。とにかく両親が亡くなって精神的に参っているから」
「うん、一度に両親をなくした経験はわたしにはないが、アスカの気持ちは痛いほど分
かる」
 サロンの桜の花を愛でながら、キャプテンが呟いた。
「まあ、アスカを孤独にしないことだな」
「そうね、気をつけるわ、キャプテン。わたしは今日から空き部屋で、アスカと野菜を
栽培するけど。お風呂はできそう?」
「ああ、検討しているよ。いろいろ条件があってね」
 小さく首を振りながらキャプテンが言う。

「えッ、なに。条件って?」
 ナオが口調を荒げる。
「うん、外から浴槽の代わりになるものをシャワー室に入れようと考えていたんだが、
ベンに話したらシャワー室の扉を外したら駄目だと言うんだ」
 キャプテンは困惑した表情を見せる。
「何で、入れた後、元通りにすればいいんじゃないの?」
「どうしても専門家がやらないと、宇宙船内の気密が保てないと言っていた。まあ、シ
ャワーを使うため、ぴったりと扉をもとに戻らないと湿気が宇宙船に漂うからな」
「だって扉の幅は1メートルぐらいよ。浴槽は3人で入るからもっと大きくないと」
 怒った顔でナオが言う。
「どうだろう、個別の浴槽というのは?」
「はあー、どう言うこと?」
「いや、ベット用のカプセルじゃ駄目かな。あれなら扉から入るし丁度いい?」
「絶対駄目よ。ちゃんと考えてよ、頼りにならないわね」
「分かったよ、ナオとアスカが満足するような浴槽を作るよ」
 キャプテンは立ち上がり逃げるようにサロンを出た。






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