20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:銀河を渡る船 第一部・帰還せず 作者:佐藤 神

第9回   9

「こちらパイロットのキャプテン・ロック。アメリカは不慣れなので東京の宇宙港にし
て下さい」
 キャプテンはゆっくりと大きな声で言う。

<<こちらダグラス、宇宙船についている宇宙ウイルスの検査をしたい。地球を汚染さ
せないためだ。その宇宙船は宇宙人のものだろう、隔離して安全を確認したい>>

「総司令官、宇宙船は宇宙港に着陸して、われわれを宇宙船から降ろした後、ロボット
が宇宙船を操縦して宇宙に還る。その条件で地球へ帰還することができた。どうか約束
を守ってもらいたい」

<<いいだろう、無事に宇宙に帰還できるように宇宙船を検査する、故障しているとこ
ろがあれば、われわれが修理する>>

「いや、メンテナンス用のロボットがいる、その心配はない」

<<だめだ、どんな条件でも飲む。宇宙船をアリゾナへ運べ>>

「だめだ、三人を降ろして、宇宙船は直ぐに飛び立つ」

<<言うことを聞け! 地球防衛軍総司令官の命令だ。逆らうと逆賊にするぞ>>

「待て相談する」

<<いいだろう、5分待つ>>

「うーん、思った通り老獪な司令官だ、わたしの考えを言う」
 キャプテンは、横で様子を見守っていたナオと、後ろでのんびりとジュースを飲んで
いたアスカの顔を見詰る。
「わたしはこの宇宙船を地球防衛軍に渡したくない。いや最終兵器を渡せば、残念だが
地球人は汚れた地球を捨て、宇宙に新天地を求める。そして最終的には宇宙侵略を目指
すことになる。
 そこでこの宇宙船は東京の宇宙港に着陸させる。そして、ナオとアスカを縄でぐるぐ
るに結わいて、宇宙港に置く。
その後、わたしは宇宙船で宇宙へ帰還する。ナオとアスカは無理やり宇宙船に掴まって
いたことにすればいい」
 キャプテンはナオとアスカの顔を覗いた。

「あの、わたしもこのまま宇宙船に残りたい。地球に行ったこともないし、ママとパパ
がいないから。おねがい、キャプテン?」
 アスカは子どもながら媚びるような目でキャプテンの顔を見る。
「うーん、賛成も、反対もしない。アスカの好きなようにすればいい」
 キャプテンはアスカの申し出を、察知していたかのように冷静に言う。
「でも、アスカ。年齢からしてキャプテンが先に死んだらどうするの? 一人ぼっちに
なるわよ」
 ナオは心配そうに言う。
「いいの、ベンがいるから」
 と、言ってアスカはロボットのベンを見上げた。
「そう、じゃ、わたしも残るわ」
 ナオは囁くように言う。

「何でだ、ナオ。わたしの家族は去年、交通事故で全員死んだ。アスカの家族は宇宙人
に....、でもナオの両親と姉妹は地球で健在だ。なぜ、宇宙へ?」
 キャプテンは、ハッと思い当たる節があり、ナオの目を見た。宇宙人から解放された
日、指令官室の大きなベットでアスカを真ん中に川の字で寝ていた。ナオはアスカの寝
たのを確認して、アスカをベットの隅に移し、微笑みながらキャプテンに寄り添った。
 それが毎晩続いている。そのためキャプテンは妊娠か、と言う目でナオを見た、ナオ
は苦笑いをして、微かに首を横に振る。

「えーッ、たぶん。地球にこのまま残ったら、キャプテンとアスカのことが心配でしょ
うがないわ、地球で心配しながら一生を暮らすならわたしも宇宙へ行く。それにわたし
も宇宙が決して嫌いじゃないの」
 ナオは何かをふっきたように明るく言う。

「そうか、わたしは賛成も、反対もしない。だが、二人が考えているほどわたしは立派
な男ではないぞ。ベン、どう思う?」
<<キャプテン、分かりません。でも、わたしはこの宇宙船から降りることはできませ
ん。飛び続けるのが番人の宿命、結果的にみなさんとご一緒できて嬉しいです>>
「そうかわたしも嬉しい。しかし、ナオが生きていることを地球に向かって言わなけれ
ばよかった。ご両親が二度悲しむ」
 キャプテンはナオを見た。
「ええ、そうねえ、わたしはなんて親不孝なのかしら」
 ナオは目を潤ませながら声を詰まらせる。
「じゃ、地球に今の気持ちを伝え、宇宙に帰還するか。ベン、地球を呼び出してくれ」
<<キャプテン、了解しました>>

 暫くして。
<<おー、ダグラスだ。決まったか、キャプテン・ロック>>
「はい、われわれは地球に帰還せず、宇宙を目指します。そして、これから全員のメッ
セージを送ります。さあ、ナオ」
「わたしは北条ナオです。親不孝な娘でごめんね。姉さん許して。わたしは宇宙で生き
るわ。アスカ、どうぞ」
「えー、加藤アスカです。ママもパパ死んじゃって、地球へ行ってもしかたがないんで
行きません」

「と言うことで、ダグラス総司令。われわれのことは忘れてください」
 キャプテンは聞き入れてはくれないだろうと、思いながら大きな声で言う。

<<ああッ、キャプテン・ロック、会話の通信を地球防衛軍の専用回線に切りかえたい
んだが、民間人に聞かれたくない話もある。いいかな?>>

「総司令、申し訳ないがそれは断る。われわれが宇宙に消えた後、何を言われるかわか
らない。全てオープンにして話したい」

<<とんでもない、三人は地球の英雄だ。姑息なことはしない、どんな無理でもきくつ
もりだ>>

 空々しいやつだ。とキャプテンは心の中で呟いた。

「わたしが心配するのは、われわれが宇宙に消えた後、忘恩の輩らとして訴追された場
合、われわれの家族、兄弟、親戚に迷惑がかかる。全ての憂いを残したくない。そのた
めに公開の場で話を進めたい」

<<ふん、狡賢いやつだ。無事に逃げ出せると思っているのか?>>

「総司令、戦うつもりはない。このまま行かせてくれ」

<<だまれ、この地球人に化けた宇宙人め、地球侵略に来たんだろう。地球防衛軍に告
ぐ、宇宙船を囲め>>

 地球防衛軍総司令官ダグラスは恫喝するように大声で叫んだ。
「陳腐な台詞だ。総司令、後悔するぞ」









← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 4664