「それから、午後の3時からの自由時間は、ナオとアスカで食事を作ってくれ」 「つくったことないよ」 アスカはナオの顔を見た。 「そうよねえ、ファストフーズが主流だから、でも教えてあげる何が食べたいの?」 「うーん、わからない」 「卵焼きかな、それともハンバーグ?」 微笑みながらナオが言う。 「ハンバーグがいい」 「ベン、倉庫の中に材料はあるわよね?」 <<ナオ、ハンバーグの意味がわかりません>> 「挽肉とたまねぎ、つなぎ用のパン粉と卵はあるの?」 <<挽肉の種類はなんですか>> 「牛だと思ったけど、何の肉でもいいわ。どうせわたしも作ったことないから」 <<ナオ、肉は駝鳥のような肉になります>> 「ナオ、料理はだめか?」 がっかりした顔でキャプテンは、ナオの顔を見た。 「わたしお嬢様だから、作ったことないわ。でも料理の本を読んだことあるからどうに かなるわ」 「ふーん、そうか。わたしは器用だから、わたしが作ろうか?」 自信ありげにキャプテンがニャーと、笑う。 「失礼ね!、じゃ、二人でハンバーグを作ってどっちが美味しいか、アスカに決めても らいましょう。いいわね?」 声を荒げてナオが言った。 「いいだろう。じゃ、今日の自由時間はみんなで倉庫に行こう。それじゃ、勉強をはじ める」
その時突然。 <<はーい、お元気ですか?>> ライブラリ室の隅にあった大きな白い箱から、死滅したはずの宇宙人が姿を現した。 「キャー」 一瞬遅れて、ナオが悲鳴を上げて小刻みに震えて身動きができなかった。子どものア スカは大きく目を見開いて肩で息をしている。 キャプテンは咄嗟に床にあった椅子を振り上げる。 <<キャプテン、待って下さい。これはホログラムが投影されているだけです>> 「なに!」 <<宇宙人の誰かが、時間起動させていたのでしょう。仮想で実体はありません>> 「そうか、殺されるかと思った」 振り上げた椅子を下ろし、ほっとした表情でキャプテンは言った。 <<みんな、変なかっこしてどうしたの?>> ホログラムは軽い口調で言う。よく見ると、そのホログラムの髪が長く、胸にふくら みがありウエストが括れていた。 「そういうことか。ベン、とりあえずホログラムを消してくれ」 <<キャプテン、了解しました>> 子どものアスカは分けがわからず、顔面蒼白でガタガタ震えていた。 「ベン、これ以外に予約起動されていたら、全てキャンセルしてくれ」 <<キャプテン、了解しました>> そして、キャプテンはアスカに理解できるようにホログラムのことを説明した。
暫く休憩して動揺が収まり勉強が再会する。 「じゃ、さんすうから始めるか。アスカ、掛け算、割り算は習っていたか?」 「うん、知っているよ」 アスカは得意顔で言う。 「そうか、二次元方程式はアスカより上のクラスだろう?」 「ううん、知っているよ」 「それじゃ、最後に習った算数は何だったんだ?」 キャプテンはアスカの顔を覗いた。 「四次元ベクトル空間だよ」 「集合のことか。うーんッ、四次元?」 キャプテンは首を傾げる。 「ベン、分かるか?」 訝りながらキャプテンはロボットのベンを見た。 <<キャプテン、言語変換が正しく変換できません。アスカ、四次元空間のことを言っ ているのですか、特殊相対性理論ですか?>> 「そうよ、ベンは分かるの?」 子どものアスカは驚いた顔でベンを見詰る。 <<アスカ、分かりますが言語変換が追いつきません。時間を頂ければアスカが分かる ように説明できます。わたしは文明人のロボットですから>> 「やだ、アスカ、何の話をしているの」 眉間に鶸を寄せナオが言った。 「そーか、算数の勉強はやめよう。午前中の勉強はベンの宇宙学だけにする。それでい いなアスカ?」 キャプテンは予想外な展開になり、肩から力が抜けた。 「うん、いいよ」
「ふーん。4,5年前、火星に天才児現れると騒がれたことがあったが、アスカのこと だったのか?」 「うん」 満面に笑みを湛えてアスカが頷いた。 「えッ、アスカ、天才なの?」 ナオがアスカの顔を見詰る。 「そうみたい」 ロボットのベンが首を動かしアスカを見る。 <<アスカ、アスカは地球人の天才ですか?>> 「うん、そうだよ。ベン」 微笑みながらアスカは言う。 <<フーッ、そうですか>> その時、キャプテンの顔に緊張が走った。キャプテンの視線の先にロボットのベンが いた。キャプテンには鋼鉄のベンの顔が微かに笑ったように感じられた。もしかしたら ベンにはプライドも嫉妬も持ち合わせているんじゃないかと疑った。 しかし、ベンを疑うと限がない。この宇宙船自体、ほんとうに地球へに向かっている のか、キャプテンには分からなかった。
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