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作品名:銀河を渡る船 第一部・帰還せず 作者:佐藤 神

第4回   4

<<キャプテン、ご覧のようにこの部屋は操縦室です。キャプテンの指示通り地球に向
かっています。巨大スクリーンに宇宙を映しましょうか?>>
「そうだな見てみたい。ベン、お願いする」
 三人は好奇心で、目の前の巨大スクリーンを見上げた。
「ああッ、すごい」
 子どものアスカは驚きの声を漏らした。その巨大スクリーンには、無数の星が輝いて
いた。アスカは息をするのも忘れて口を開けて満天の星を凝視する。
「わッ、凄いわ。青い星に赤っぽい星。あれはオーロラかしら、まるで宝石箱みたい」
 ナオもアスカの肩に手を置いて、宇宙を仰いだ。
「なんだかこわい」
 子どものアスカはナオの手を握り呟いた。

「うん、子どものアスカには刺激が強すぎたかな。ところで、ベン。ベンが宇宙船のコ
ンピュターを操作しているんだな?」
<<キャプテン、その通りです>>
 地球のパイロットのキャプテンは、はじめて見る宇宙人の操縦卓を食い入るように眺
めていた。
「うーん、光速以上のスピードだな。文明の違いでわたしには理解できない」
 ロボットのベンは子どものアスカが、操縦卓を触るのじゃないかと用心している。
そして、キャプテンはこの宇宙船の推進原理を考えたが理解できなかった。
「うん、とりあえず次の部屋に行こう」
<<キャプテン、了解しました>>

 ベンはサロンを経由して、医務室に入った。壁際に医療用のカプセルが並んでいる。
そして、その中に宇宙人が苦しそうに背を丸めて死んでいた。
<<キャプテン、ここは医務室です。外科のオペ、内科、眼科、歯科、婦人科、皮膚
科、なんでも対応できます。その治療は宇宙ドクターのドクターロボが担当します。必
要なら一分でドクターロボが起動します>>
「そうか、われわれも後で、健康診断してもらおう」
<<キャプテン、了解しました>>
「えーッ、めんどうくさいな」
 子どものアスカが嫌がった。
「うーん、だがなあアスカ、511人の乗客中、助かったのはわれわれ3人だけだぞ。
亡くなった人のことを考えると、亡くなった人の分まで、生きないと申し訳ない。ベ
ン、次の部屋へ」
<<キャプテン、了解しました>>
 三人は宇宙人の死体を見ながら部屋を出た。

 そしてベンは医務室の隣りの部屋に入っる。
<<キャプテン、ここはシャワー室です>>
 部屋の中は間仕切りされている小さなシャワー室が10室並んでいた。よく見ると細
い管が付いたハンドシャワーが上の方にかけてあり、下に排水溝が見えた。
「これはいい、後で使わしてもらおう。おお、シャンプーもある」
「ええッ、早く浴びたいわ。汚くって恥ずかしい」
 ナオは面映いのか頬を染める。
「ベン、宇宙船の水は足りてるのか?」
<<キャプテン、汚れた水はろ過されてリサイクルされます。生き物が吸収する以外、
水は減少しません。水量は搭乗員100人用にあわせていますから十分足りてます>>
「それはいい、贅沢にシャワーが浴びられる」
 珍しそうに子どものアスカは、綺麗に並んでいるシャワーを見ている。
「よし、次の部屋へ」
<<キャプテン、了解しました>>

 ベンはシャワー室の隣りの部屋に入る。そして、三人もぞろぞろ続いた。
<<キャプテン、ここはトイレと洗面所です>>
 鏡のような反射金属がついた洗面ユニットが10台並んでいる。その反対側には同じ
く10台のトイレが並んでいた。キャプテンはゆっくりと歩いて洗面ユニットの前に立
ち、その反射金属を覗いた。
「うッ、これがおれの顔か!」
 その鏡の中の男の顔は目つきが険しく、不精髭が伸び放題。キャプテン自身驚いて鏡
の中の男を見詰る。キャプテンの後ろにいたナオも反射金属を覗いて、ぼさぼさの髪の
毛を慌てて手で撫で付けていた。そして、反射金属の自分の顔を見詰、小さく首を振っ
た。
「やだッ、なんで?」
 ナオの眼の下にはうっすらと隈ができ、涙の痕が白く顔全体が薄汚れていた。とても
若い女性の顔ではなかった。しかも顔だけではなく、体から悪臭を放っている。覚られ
ないようにナオは、自分の体臭を嗅いだ。
「ナオ、気にするな。わたしたちは十日以上もシャワーを浴びてない。わたしも後で、
シャワーを浴びて髭を剃らないとな」
 と言ってキャプテンは後ろを振り向くと、子どものアスカは虚ろな目で突っ立てい
た。アスカは地球に帰ると、聞いてから急に心を閉ざしだした。
 アスカは捕まっている時、子どもながらどうせ死ぬんだと思っていた。しかし、今、
地球へ帰ると言われても、既に両親が亡くなっていて、自分の居場所がないという不安
が心を閉ざすのであった。
 キャプテンは子どものアスカの気持ちが痛いほど分かっていた、しかし安易な気休め
は口にできなかった。今もキャプテンはロボットのベンを全面的に信じてはいなかっ
た。
 もしかしたら、この状況も事前に設定されていて、ベンはマニュアル通りに、行動し
ている可能性もあると疑っていた。地球に向かっているはずの宇宙船が実は、宇宙人の
星へ....。

 キャプテンは反射金属の下にあるいくつかの小さな棚を覗いた。電気バリカンや電気
ハブラシ、タオルのような布切れがきれいに整理されて並んでいた。
「ベン、これらの予備はあるのか?」
<<キャプテン、倉庫にいくらでもあります>>
「そうか、ベン。次の部屋に行こう」
<<キャプテン、了解しました>>
 ロボットのベンが歩きだした。

<<キャプテン、ここは寝室です>>
 部屋の中は淡いグリーンで統一されている。そしてベット型の緑がかった青のカプセ
ルが、数え切れないほど並んでいた。
「いやーッ、また宇宙人が死んでいる」
 ナオの甲高い声が響いた。手前のカプセルの中には宇宙人が怨むように天井を睨み死
んでいる。薄気味悪くてまともに正視できなかった。
「ねえ、アスカ。ここで寝るんだて、気持ち悪いわね」
 ナオは眉を顰めながら言う。
「うーん?」
 子どものアスカは話を聞いていなかった。
「いや、大丈夫だ。死体はあとで片付けるから」
 それでもナオは、不満そうにキャプテンの顔を睨む。
「うーん。ベン。いい方法はないか?」
 困惑した表情でキャプテンはロボットのベンを見た。
<<キャプテン、司令官の個室にもベットがあります。それに司令官は医務室で亡くな
っていました>>
「そうか、その個室がいいな。ナオ、アスカ、そこならいいだろう?」
「ええッ、死体が乗っていたベットじゃなければいいわ」
 ナオは不満なのか声を荒げた。
「よし、次の部屋へ」
<<キャプテン、了解しました>>








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