<<キャプテン、ご覧のようにこの部屋は操縦室です。キャプテンの指示通り地球に向 かっています。巨大スクリーンに宇宙を映しましょうか?>> 「そうだな見てみたい。ベン、お願いする」 三人は好奇心で、目の前の巨大スクリーンを見上げた。 「ああッ、すごい」 子どものアスカは驚きの声を漏らした。その巨大スクリーンには、無数の星が輝いて いた。アスカは息をするのも忘れて口を開けて満天の星を凝視する。 「わッ、凄いわ。青い星に赤っぽい星。あれはオーロラかしら、まるで宝石箱みたい」 ナオもアスカの肩に手を置いて、宇宙を仰いだ。 「なんだかこわい」 子どものアスカはナオの手を握り呟いた。
「うん、子どものアスカには刺激が強すぎたかな。ところで、ベン。ベンが宇宙船のコ ンピュターを操作しているんだな?」 <<キャプテン、その通りです>> 地球のパイロットのキャプテンは、はじめて見る宇宙人の操縦卓を食い入るように眺 めていた。 「うーん、光速以上のスピードだな。文明の違いでわたしには理解できない」 ロボットのベンは子どものアスカが、操縦卓を触るのじゃないかと用心している。 そして、キャプテンはこの宇宙船の推進原理を考えたが理解できなかった。 「うん、とりあえず次の部屋に行こう」 <<キャプテン、了解しました>>
ベンはサロンを経由して、医務室に入った。壁際に医療用のカプセルが並んでいる。 そして、その中に宇宙人が苦しそうに背を丸めて死んでいた。 <<キャプテン、ここは医務室です。外科のオペ、内科、眼科、歯科、婦人科、皮膚 科、なんでも対応できます。その治療は宇宙ドクターのドクターロボが担当します。必 要なら一分でドクターロボが起動します>> 「そうか、われわれも後で、健康診断してもらおう」 <<キャプテン、了解しました>> 「えーッ、めんどうくさいな」 子どものアスカが嫌がった。 「うーん、だがなあアスカ、511人の乗客中、助かったのはわれわれ3人だけだぞ。 亡くなった人のことを考えると、亡くなった人の分まで、生きないと申し訳ない。ベ ン、次の部屋へ」 <<キャプテン、了解しました>> 三人は宇宙人の死体を見ながら部屋を出た。
そしてベンは医務室の隣りの部屋に入っる。 <<キャプテン、ここはシャワー室です>> 部屋の中は間仕切りされている小さなシャワー室が10室並んでいた。よく見ると細 い管が付いたハンドシャワーが上の方にかけてあり、下に排水溝が見えた。 「これはいい、後で使わしてもらおう。おお、シャンプーもある」 「ええッ、早く浴びたいわ。汚くって恥ずかしい」 ナオは面映いのか頬を染める。 「ベン、宇宙船の水は足りてるのか?」 <<キャプテン、汚れた水はろ過されてリサイクルされます。生き物が吸収する以外、 水は減少しません。水量は搭乗員100人用にあわせていますから十分足りてます>> 「それはいい、贅沢にシャワーが浴びられる」 珍しそうに子どものアスカは、綺麗に並んでいるシャワーを見ている。 「よし、次の部屋へ」 <<キャプテン、了解しました>>
ベンはシャワー室の隣りの部屋に入る。そして、三人もぞろぞろ続いた。 <<キャプテン、ここはトイレと洗面所です>> 鏡のような反射金属がついた洗面ユニットが10台並んでいる。その反対側には同じ く10台のトイレが並んでいた。キャプテンはゆっくりと歩いて洗面ユニットの前に立 ち、その反射金属を覗いた。 「うッ、これがおれの顔か!」 その鏡の中の男の顔は目つきが険しく、不精髭が伸び放題。キャプテン自身驚いて鏡 の中の男を見詰る。キャプテンの後ろにいたナオも反射金属を覗いて、ぼさぼさの髪の 毛を慌てて手で撫で付けていた。そして、反射金属の自分の顔を見詰、小さく首を振っ た。 「やだッ、なんで?」 ナオの眼の下にはうっすらと隈ができ、涙の痕が白く顔全体が薄汚れていた。とても 若い女性の顔ではなかった。しかも顔だけではなく、体から悪臭を放っている。覚られ ないようにナオは、自分の体臭を嗅いだ。 「ナオ、気にするな。わたしたちは十日以上もシャワーを浴びてない。わたしも後で、 シャワーを浴びて髭を剃らないとな」 と言ってキャプテンは後ろを振り向くと、子どものアスカは虚ろな目で突っ立てい た。アスカは地球に帰ると、聞いてから急に心を閉ざしだした。 アスカは捕まっている時、子どもながらどうせ死ぬんだと思っていた。しかし、今、 地球へ帰ると言われても、既に両親が亡くなっていて、自分の居場所がないという不安 が心を閉ざすのであった。 キャプテンは子どものアスカの気持ちが痛いほど分かっていた、しかし安易な気休め は口にできなかった。今もキャプテンはロボットのベンを全面的に信じてはいなかっ た。 もしかしたら、この状況も事前に設定されていて、ベンはマニュアル通りに、行動し ている可能性もあると疑っていた。地球に向かっているはずの宇宙船が実は、宇宙人の 星へ....。
キャプテンは反射金属の下にあるいくつかの小さな棚を覗いた。電気バリカンや電気 ハブラシ、タオルのような布切れがきれいに整理されて並んでいた。 「ベン、これらの予備はあるのか?」 <<キャプテン、倉庫にいくらでもあります>> 「そうか、ベン。次の部屋に行こう」 <<キャプテン、了解しました>> ロボットのベンが歩きだした。
<<キャプテン、ここは寝室です>> 部屋の中は淡いグリーンで統一されている。そしてベット型の緑がかった青のカプセ ルが、数え切れないほど並んでいた。 「いやーッ、また宇宙人が死んでいる」 ナオの甲高い声が響いた。手前のカプセルの中には宇宙人が怨むように天井を睨み死 んでいる。薄気味悪くてまともに正視できなかった。 「ねえ、アスカ。ここで寝るんだて、気持ち悪いわね」 ナオは眉を顰めながら言う。 「うーん?」 子どものアスカは話を聞いていなかった。 「いや、大丈夫だ。死体はあとで片付けるから」 それでもナオは、不満そうにキャプテンの顔を睨む。 「うーん。ベン。いい方法はないか?」 困惑した表情でキャプテンはロボットのベンを見た。 <<キャプテン、司令官の個室にもベットがあります。それに司令官は医務室で亡くな っていました>> 「そうか、その個室がいいな。ナオ、アスカ、そこならいいだろう?」 「ええッ、死体が乗っていたベットじゃなければいいわ」 ナオは不満なのか声を荒げた。 「よし、次の部屋へ」 <<キャプテン、了解しました>>
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