「ンーッ、宇宙にはこんな地球人に似た宇宙人もいるんだ」 <<キャプテン、確かに似ています。しかし、彼らは争いごとを好みません>> 「そうか、でも彼らは凶暴な宇宙人に襲われることはないのか?」 一瞬、キャプテンの顔が曇った。 <<キャプテン、その通りです。2年、いや、3年おきに略奪されています>> 「略奪は食料か、金品か、女性か?」 <<キャプテン、その全てです。特にサザンクロスの人間は外見が美しいので綺麗な青 年も略奪されます>> 「何だと、反撃はしないのか?」 <<キャプテン、サザンクロス人は防衛するだけで反撃はしません。そのため、凶暴な 宇宙人になめられています。またサザンクロスの若者たちは、その政策に不満を抱いて います>> 「ふーん、その略奪された人間はどうなるんだ?」 <<キャプテン、奴隷市場で競にかけられます。そして、玩具にされたり、無理やり子 どもを....>> 「なに、たとえ宇宙人でもゆるせんな」 キャプテンは怒りを隠しきれず拳を握る。そして目つきが鋭くなる。まるで屈強な兵 士のようであった。ロボットのベンは無言でキャプテンを見詰る。
「ベン、サザンクロス人は、われわれを素直に受け入れてくれるかな?」 <<キャプテン、キャプテンはすでにお分かりだと思いますが?>> 「うん!」 <<キャプテン、無償でサザンクロス星の警護を申し出るのがいいでしょう>> 「でも、戦争に巻き込まれないか?」 <<キャプテン、この宇宙船に立ち向かう者はいません。この宇宙船には最終兵器が搭 載されています>> 「うん、気になっていたんだが、その最終兵器とは何なんだ?」 <<キャプテン、最終兵器のクェーサーをもし地球に撃ち込んでいたら、地球の重力は 収縮を無限に続けます。つまり、何て言うか、地球がブラックホールになります。分か りますか?>> 「いや、分からん」 キャプテンは眉を顰める。 <<キャプテン、具体的に言うと地球の重さを今の数億倍にして、光のスピードより速 い重力にします。地球は自分自身を支えきれず、際限なくつぶれます。そのつぶれた物 質は中心の特異点にあつまり時空を越えて、異次元のホワイトホールから塊になり忽然 と現れます>>
「よく分からん。しかし、地球が崩壊すれば月は地球からの引力が無くなり軌道を外れ る。そして、太陽系の他の惑星も軌道が狂う」 <<キャプテン、その通りです。どこまで際限なく連鎖するかわかりませんが、宇宙に はブラックホールが存在します>> 「ああ、恐ろしいことだ。それで最終兵器か」 <<キャプテン、わたしは最終兵器の番人といわれています。最終兵器がサザンクロス 星の用心棒になったと聞けば、略奪に来るものはいません>>
「そうだろうな。その凶暴な宇宙人とは、この宇宙船の持ち主のことか?」 <<キャプテン、違います。宇宙の南方空域にいる暴虐武人な野蛮人のことです。>> 「そいつらも高度の文明を持っているんだろう?」 <<キャプテン、百万年前、その野蛮人はこの宇宙の支配者でした。しかし、内紛が起 こり激しい戦いで自滅しました。その生残りがウランの放射能を浴び、DNAを変えて 野蛮人になりました>> 「そうか、その詳細はデータベースに記憶されているのか?」 <<キャプテン、この宇宙船の持ち主は、後世のまったく別な新人類です。データベー スには子どもの昔話として記憶されています。まあ、宇宙の風説と思ってください。 このような風説はいくらでもあります、例えば植物人間。宇宙を飛びまわりどんなも のでも食べつくす宇宙害虫ゾラ。異次元の宇宙人。なんせ宇宙は無限ですから>> 「ふーんッ」
そして沈黙が続いた。 「ベン、この宇宙船は高価な宇宙船なんだろう?」 <<キャプテン、この宇宙船は大きな国の年間国家予算に匹敵します。そのため宇宙に 20艘しか存在しません>> 「そうか、この宇宙船の持ち主は、宇宙船を取り返しに来るんじゃないのか?」 心配そうにキャプテンは言う。 <<キャプテン、この宇宙船の持ち主はデスラカン帝国です。デスラカン帝国は宇宙最 強軍を擁しています>> 「あーッ、帝国とか軍隊とか、やな言葉だ」 キャプテンは顔を顰める。
<<キャプテン、デスラカン帝国は同型の最終兵器を搭載した宇宙船を8艘保持してい ます。その中の一艘がこの宇宙船です。奪われたことに気がつくのは2週間後です。 でも、奪い返しに来たらロボット操縦同士の戦いになり、相打ちでデスラカン帝国軍 も一艘失うことになりなります。そうするとデスラカン帝国の同型の宇宙船が6艘にな り、他国から攻め込まれるおそれがあります。デスラカン帝国はそんな危険は犯しませ ん>> 「ほんとうにそうか?」 キャプテンは視線を上げて、白い天井を見詰た。 <<キャプテン、間違いありません。デスカラン国王はわたしの上司でしたから、国王 の性格は分かります>> 「そうか、ベンを信用しよう」 <<キャプテン、仮にデスラカン帝国がこの宇宙船を責めて来たらどうしますか、迎撃 しますか?>> 「うーん、分からないな、戦う大義名分がない。この宇宙船を返せばいいんだろう?」 <<キャプテン、質問を変えます。デスラカン帝国がサザンクロス星を攻めたら?>> 「サザンクロス人を助けるために、デスラカン帝国と戦うだろう」 <<キャプテン、多勢に無勢、デスラカン帝国は300万の兵士と、戦闘用宇宙艇が2 万艘あります>>
「ベン、戦う大義名分があれば戦力は関係ない。デスラカン帝国と敵対している国々と 手を結び、反デスラカン連合を組織する。それからデスラカン国王に反目しているデス ラカン帝国の戦士を調略する。そして補給路を断つ。それが戦いの鉄則だ」 キャプテンは笑いながらロボットのベンを見た。
<<キャプテン、了解しました。それと、ドクターロボのことなんですが>> 「うん、明日にもドクターとして、われわれの健康状態を見てもらうつもりだ」 <<キャプテン、サザンクロス星でもドクターロボは非常に貴重なドクターです。キャ プテンのお役に立つと思います>> 「うん、ドクターロボは一台で三人分ぐらいの働きをするそうだな。それに24時間フ ル稼働しても絶対にミスを起こさない。おまけに全ての医療分野に精通している。この ままここで眠らすのは勿体無い、この宇宙船で診療所でも開くか」
その時、漸くナオがふらつきながら姿を現した。 「あーあッ、何だか頭が重いわ。あら、キャプテン、何してんの?」 ナオはだるそうに髪の毛を掻き揚げる。 「うん、いろいろと。そうだ、われわれは太陽系の外に出たぞ」 「そうなの、でも地球防衛軍と戦わなくてよかった」 ワープがきつかったのか、脂汗で光っているナオの顔から笑みがこぼれた。 「うん、そうだな。アスカが目を覚ましたらサロンで、これからのことを決めよう」
暫くして、アスカが目を覚ましてサロンで話し合いが始まった。 「この宇宙船は、われわれを受け入れてくれる星を目指して飛んでいる。だがワープは 使わない」 ゆっくりした口調でキャプテンが話す。 「キャプテン、どうでもいいんだけど、その何て言うか、ワープを使わない理由は何か あるの?」 ナオがキャプテンの顔を見て言った。 「うん、その星に辿り着いとしても、ほんとうにわれわれをむかい入れてくれるか分か らない。それで悔いが残らないように楽しい記憶を残したい」 と、言ってキャプテンは微笑みながらナオとアスカを見詰る。 「いつ死んでも悔いの無いように、と言う意味ね?」 俯きながらナオはゆっくりと言う。 「まあ、そのようなものだ。宇宙では何が起こるかわからん」
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