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作品名:銀河を渡る船 第一部・帰還せず 作者:佐藤 神

第11回   11

「ンーッ、宇宙にはこんな地球人に似た宇宙人もいるんだ」
<<キャプテン、確かに似ています。しかし、彼らは争いごとを好みません>>
「そうか、でも彼らは凶暴な宇宙人に襲われることはないのか?」
 一瞬、キャプテンの顔が曇った。
<<キャプテン、その通りです。2年、いや、3年おきに略奪されています>>
「略奪は食料か、金品か、女性か?」
<<キャプテン、その全てです。特にサザンクロスの人間は外見が美しいので綺麗な青
年も略奪されます>>
「何だと、反撃はしないのか?」
<<キャプテン、サザンクロス人は防衛するだけで反撃はしません。そのため、凶暴な
宇宙人になめられています。またサザンクロスの若者たちは、その政策に不満を抱いて
います>>
「ふーん、その略奪された人間はどうなるんだ?」
<<キャプテン、奴隷市場で競にかけられます。そして、玩具にされたり、無理やり子
どもを....>>
「なに、たとえ宇宙人でもゆるせんな」
 キャプテンは怒りを隠しきれず拳を握る。そして目つきが鋭くなる。まるで屈強な兵
士のようであった。ロボットのベンは無言でキャプテンを見詰る。

「ベン、サザンクロス人は、われわれを素直に受け入れてくれるかな?」
<<キャプテン、キャプテンはすでにお分かりだと思いますが?>>
「うん!」
<<キャプテン、無償でサザンクロス星の警護を申し出るのがいいでしょう>>
「でも、戦争に巻き込まれないか?」
<<キャプテン、この宇宙船に立ち向かう者はいません。この宇宙船には最終兵器が搭
載されています>>
「うん、気になっていたんだが、その最終兵器とは何なんだ?」
<<キャプテン、最終兵器のクェーサーをもし地球に撃ち込んでいたら、地球の重力は
収縮を無限に続けます。つまり、何て言うか、地球がブラックホールになります。分か
りますか?>>
「いや、分からん」
 キャプテンは眉を顰める。
<<キャプテン、具体的に言うと地球の重さを今の数億倍にして、光のスピードより速
い重力にします。地球は自分自身を支えきれず、際限なくつぶれます。そのつぶれた物
質は中心の特異点にあつまり時空を越えて、異次元のホワイトホールから塊になり忽然
と現れます>>

「よく分からん。しかし、地球が崩壊すれば月は地球からの引力が無くなり軌道を外れ
る。そして、太陽系の他の惑星も軌道が狂う」
<<キャプテン、その通りです。どこまで際限なく連鎖するかわかりませんが、宇宙に
はブラックホールが存在します>>
「ああ、恐ろしいことだ。それで最終兵器か」
<<キャプテン、わたしは最終兵器の番人といわれています。最終兵器がサザンクロス
星の用心棒になったと聞けば、略奪に来るものはいません>>

「そうだろうな。その凶暴な宇宙人とは、この宇宙船の持ち主のことか?」
<<キャプテン、違います。宇宙の南方空域にいる暴虐武人な野蛮人のことです。>>
「そいつらも高度の文明を持っているんだろう?」
<<キャプテン、百万年前、その野蛮人はこの宇宙の支配者でした。しかし、内紛が起
こり激しい戦いで自滅しました。その生残りがウランの放射能を浴び、DNAを変えて
野蛮人になりました>>
「そうか、その詳細はデータベースに記憶されているのか?」
<<キャプテン、この宇宙船の持ち主は、後世のまったく別な新人類です。データベー
スには子どもの昔話として記憶されています。まあ、宇宙の風説と思ってください。
 このような風説はいくらでもあります、例えば植物人間。宇宙を飛びまわりどんなも
のでも食べつくす宇宙害虫ゾラ。異次元の宇宙人。なんせ宇宙は無限ですから>>
「ふーんッ」

 そして沈黙が続いた。
「ベン、この宇宙船は高価な宇宙船なんだろう?」
<<キャプテン、この宇宙船は大きな国の年間国家予算に匹敵します。そのため宇宙に
20艘しか存在しません>>
「そうか、この宇宙船の持ち主は、宇宙船を取り返しに来るんじゃないのか?」
 心配そうにキャプテンは言う。
<<キャプテン、この宇宙船の持ち主はデスラカン帝国です。デスラカン帝国は宇宙最
強軍を擁しています>>
「あーッ、帝国とか軍隊とか、やな言葉だ」
 キャプテンは顔を顰める。

<<キャプテン、デスラカン帝国は同型の最終兵器を搭載した宇宙船を8艘保持してい
ます。その中の一艘がこの宇宙船です。奪われたことに気がつくのは2週間後です。
 でも、奪い返しに来たらロボット操縦同士の戦いになり、相打ちでデスラカン帝国軍
も一艘失うことになりなります。そうするとデスラカン帝国の同型の宇宙船が6艘にな
り、他国から攻め込まれるおそれがあります。デスラカン帝国はそんな危険は犯しませ
ん>>
「ほんとうにそうか?」
 キャプテンは視線を上げて、白い天井を見詰た。
<<キャプテン、間違いありません。デスカラン国王はわたしの上司でしたから、国王
の性格は分かります>>
「そうか、ベンを信用しよう」
<<キャプテン、仮にデスラカン帝国がこの宇宙船を責めて来たらどうしますか、迎撃
しますか?>>
「うーん、分からないな、戦う大義名分がない。この宇宙船を返せばいいんだろう?」
<<キャプテン、質問を変えます。デスラカン帝国がサザンクロス星を攻めたら?>>
「サザンクロス人を助けるために、デスラカン帝国と戦うだろう」
<<キャプテン、多勢に無勢、デスラカン帝国は300万の兵士と、戦闘用宇宙艇が2
万艘あります>>

「ベン、戦う大義名分があれば戦力は関係ない。デスラカン帝国と敵対している国々と
手を結び、反デスラカン連合を組織する。それからデスラカン国王に反目しているデス
ラカン帝国の戦士を調略する。そして補給路を断つ。それが戦いの鉄則だ」
 キャプテンは笑いながらロボットのベンを見た。

<<キャプテン、了解しました。それと、ドクターロボのことなんですが>>
「うん、明日にもドクターとして、われわれの健康状態を見てもらうつもりだ」
<<キャプテン、サザンクロス星でもドクターロボは非常に貴重なドクターです。キャ
プテンのお役に立つと思います>>
「うん、ドクターロボは一台で三人分ぐらいの働きをするそうだな。それに24時間フ
ル稼働しても絶対にミスを起こさない。おまけに全ての医療分野に精通している。この
ままここで眠らすのは勿体無い、この宇宙船で診療所でも開くか」

 その時、漸くナオがふらつきながら姿を現した。
「あーあッ、何だか頭が重いわ。あら、キャプテン、何してんの?」
 ナオはだるそうに髪の毛を掻き揚げる。
「うん、いろいろと。そうだ、われわれは太陽系の外に出たぞ」
「そうなの、でも地球防衛軍と戦わなくてよかった」
 ワープがきつかったのか、脂汗で光っているナオの顔から笑みがこぼれた。
「うん、そうだな。アスカが目を覚ましたらサロンで、これからのことを決めよう」

 暫くして、アスカが目を覚ましてサロンで話し合いが始まった。
「この宇宙船は、われわれを受け入れてくれる星を目指して飛んでいる。だがワープは
使わない」
 ゆっくりした口調でキャプテンが話す。
「キャプテン、どうでもいいんだけど、その何て言うか、ワープを使わない理由は何か
あるの?」
 ナオがキャプテンの顔を見て言った。
「うん、その星に辿り着いとしても、ほんとうにわれわれをむかい入れてくれるか分か
らない。それで悔いが残らないように楽しい記憶を残したい」
 と、言ってキャプテンは微笑みながらナオとアスカを見詰る。
「いつ死んでも悔いの無いように、と言う意味ね?」
 俯きながらナオはゆっくりと言う。
「まあ、そのようなものだ。宇宙では何が起こるかわからん」





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