<<キャプテン、約2千機の地球連合軍が攻めてきました。5分後に攻撃範囲に入りま す>> ロボットのベンが言う。 キャプテンは無数の宇宙船を映し出しているスクリーンを緊張した顔で見た。 「戦争になるのキャプテン?」 子どものアスカは不安そうに言う。 「いや、地球と余計な軋轢を生じさせたくない。何か良い方法はないかな?」
<<敵が近づいてきました、戦闘態勢に入ります>>
<<キュンー、キュンー、キュンー>> 宇宙船内に警告音が激しく鳴り木霊する。 「だめ、ベン。地球人を殺しちゃ」 泣きそうな声でアスカは言った。 <<その命令は否定します。三人の命を守るのが最優先命令です>> ロボットのベンの力強い声が宇宙船に響いた。そして、ベンは両腕を横に伸ばし交互 に腕を上下にバタバタと振る。同時にベンの頭のランプが点滅する。 「ベン、壊れちゃったの?」 <<アスカ、これは兵士の士気を高めるセレモニーです。子どもは危ないから離れて、 離れて>> ロボットのベンは得意顔で言う。
「キャプテン、どうなるの?」 ナオは美しい眉を寄せてキャプテンの顔を見た。 「うーんッ、困った、どうしたらいいんだ。ベン、何かいい回避策は無いか?」 思い詰めた顔でキャプテンは、騒いでいるロボットのベンを一瞥する。 <<キャプテン、逃げるのですか?>> その瞬間、ロボットのベンのセレモニーが止まった。予想外の質問に唖然たる面持ち で聞き返した。 「そうだ」 命令口調でキャプテンは言う、そしてベンを見詰る。
<<キャプテン、ワープ走行で逃げましょう>> 「ワープ? 聞いたことはあるけど問題ないのか?」 <<キャプテン、問題はありません。体感的に乗り物酔いぐらいの影響です>> 「そうか、いいだろう、とりあえずワープしてくれ」 <<キャプテン、了解しました。ワープ30秒前>> <<ワァンー、ワァンー、ワァンー>> 宇宙船内にワープ走行の警告音が鳴り響く。 「地球防衛軍の諸君、聞いての通りだ。われわれはこの場から消えて、宇宙を彷徨う民 となり、二度と地球には戻らぬ」 キャプテンの声が悲痛に聴こえる。 <<ワープ20秒前、みなさん、椅子に座って手すりを掴んでいてください>> ロボットのベンの声が宇宙船に響く。 「地球の、地球の永久の平和を祈る」 <<ワープ10秒前>> 宇宙船が微かに震えてきた。 <<ワープ5秒前、3、2、1。ワープ開始>> ロボットのベンの甲高い声が宇宙船に響いた。その瞬間、キャプテン、ナオ、アスカ の三人はワープの衝撃に耐えられずに気を失った。
暫くして。 「う、うーん....」 <<キャプテン、気がつきましたか?>> 「ああ、ここは?」 <<キャプテン、宇宙船は太陽系の外に出ました。只今銀河を横切っています>> 「そうか、未知の世界だ。ああーあ、ナオとアスカはまだ気を失ったままか」 首を少し回しながらキャプテンは言う。 <<キャプテン、起こしますか?>> 「いや、そのままでいい。それより、われわれを受け入れてくれる星はないかな?」 <<キャプテン、外見が地球人に似て友好的な星が在ります>> 「そうか、ここから遠いのか?」 <<キャプテン、このままノーマル走行で飛べば半年で着きます。しかし、この最新型 の大型戦闘艇のワープ走行なら数分で行けます>> 「うーんッ、とりあえずノーマル走行で行こう」 <<キャプテン、了解しました>>
「ベン、その星は、ライブラリー室のデータベースに登録されているのか?」 <<キャプテン、登録されています>> 「じゃ、その星の首都や街並みを画面に映して説明してくれ」 <<キャプテン、了解しました>>
ライブラリー室でキャプテンとロボットのベンは、端末からデータベースを覗いた。 <<キャプテン、この星がサザンクロスです。美しい青い海と白い雲、地球に似ていま すね>> 「ほんとうだ、こんな星が在るとは思わなかった。空気の成分は地球と同じか?」 <<キャプテン、少しお待ち下さい>> 「ああ、調べてくれ。この星に水が存在すると言うことは、地球と同じだと思う」 <<キャプテン、地球の空気とほぼ同じ成分でした。重力の数値も近いもので、一日の 時間の誤差も僅差です。温度、湿度も申し分ありません。きっと快適に暮らせると思い ます>> 「そうか、よかった」 安堵の胸をなでおろしキャプテンは嬉しそうに微笑んだ。
<<キャプテン、それではサザンクロスの宇宙港と街並みを表示します>> 「うん、楽しみだ」 画面いっぱいに、キャプテンの想像を超える超近代的な白い宇宙港が現れた。茫然と した表情でキャプテンは見詰る。青空に白い宇宙港がよく似合っていた。 「うーん、地球の宇宙港とはレベルが違う。おそれいった」 超高層ビルが立ち並ぶ街を動画で映しだしていた。そして、その映像は立体的に上空 から下降する。よく見ると、各ビルの低層階が筒状のドームで結ばれている。そのドー ムの中をエアーカーが飛んでいる。そして、ドームの下の層ではリニアカーみたいなも のが超高速で走っていた。
そして、映像は地上を映す。地上には車もなく、信号もない。人々はシルバーメタル の活動的なスーツで身をかためていた。顔付きは、この宇宙船の持ち主だった醜い宇宙 人とは異なり、地球人のコーカソイドを美しくした顔に似ている。そして、優雅な仕草 で歩いている。
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