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作品名:銀河を渡る船 第一部・帰還せず 作者:佐藤 神

第10回   10

<<キャプテン、約2千機の地球連合軍が攻めてきました。5分後に攻撃範囲に入りま
す>>
 ロボットのベンが言う。
 キャプテンは無数の宇宙船を映し出しているスクリーンを緊張した顔で見た。
「戦争になるのキャプテン?」
 子どものアスカは不安そうに言う。
「いや、地球と余計な軋轢を生じさせたくない。何か良い方法はないかな?」

<<敵が近づいてきました、戦闘態勢に入ります>>

<<キュンー、キュンー、キュンー>>
 宇宙船内に警告音が激しく鳴り木霊する。
「だめ、ベン。地球人を殺しちゃ」
 泣きそうな声でアスカは言った。
<<その命令は否定します。三人の命を守るのが最優先命令です>>
 ロボットのベンの力強い声が宇宙船に響いた。そして、ベンは両腕を横に伸ばし交互
に腕を上下にバタバタと振る。同時にベンの頭のランプが点滅する。
「ベン、壊れちゃったの?」
<<アスカ、これは兵士の士気を高めるセレモニーです。子どもは危ないから離れて、
離れて>>
 ロボットのベンは得意顔で言う。

「キャプテン、どうなるの?」
 ナオは美しい眉を寄せてキャプテンの顔を見た。
「うーんッ、困った、どうしたらいいんだ。ベン、何かいい回避策は無いか?」
 思い詰めた顔でキャプテンは、騒いでいるロボットのベンを一瞥する。
<<キャプテン、逃げるのですか?>>
 その瞬間、ロボットのベンのセレモニーが止まった。予想外の質問に唖然たる面持ち
で聞き返した。
「そうだ」
 命令口調でキャプテンは言う、そしてベンを見詰る。

<<キャプテン、ワープ走行で逃げましょう>>
「ワープ? 聞いたことはあるけど問題ないのか?」
<<キャプテン、問題はありません。体感的に乗り物酔いぐらいの影響です>>
「そうか、いいだろう、とりあえずワープしてくれ」
<<キャプテン、了解しました。ワープ30秒前>>
<<ワァンー、ワァンー、ワァンー>>
 宇宙船内にワープ走行の警告音が鳴り響く。
「地球防衛軍の諸君、聞いての通りだ。われわれはこの場から消えて、宇宙を彷徨う民
となり、二度と地球には戻らぬ」
 キャプテンの声が悲痛に聴こえる。
<<ワープ20秒前、みなさん、椅子に座って手すりを掴んでいてください>>
 ロボットのベンの声が宇宙船に響く。
「地球の、地球の永久の平和を祈る」
<<ワープ10秒前>>
 宇宙船が微かに震えてきた。
<<ワープ5秒前、3、2、1。ワープ開始>>
 ロボットのベンの甲高い声が宇宙船に響いた。その瞬間、キャプテン、ナオ、アスカ
の三人はワープの衝撃に耐えられずに気を失った。

 暫くして。
「う、うーん....」
<<キャプテン、気がつきましたか?>>
「ああ、ここは?」
<<キャプテン、宇宙船は太陽系の外に出ました。只今銀河を横切っています>>
「そうか、未知の世界だ。ああーあ、ナオとアスカはまだ気を失ったままか」
 首を少し回しながらキャプテンは言う。
<<キャプテン、起こしますか?>>
「いや、そのままでいい。それより、われわれを受け入れてくれる星はないかな?」 
<<キャプテン、外見が地球人に似て友好的な星が在ります>>
「そうか、ここから遠いのか?」
<<キャプテン、このままノーマル走行で飛べば半年で着きます。しかし、この最新型
の大型戦闘艇のワープ走行なら数分で行けます>>
「うーんッ、とりあえずノーマル走行で行こう」
<<キャプテン、了解しました>>

「ベン、その星は、ライブラリー室のデータベースに登録されているのか?」
<<キャプテン、登録されています>>
「じゃ、その星の首都や街並みを画面に映して説明してくれ」
<<キャプテン、了解しました>>

 ライブラリー室でキャプテンとロボットのベンは、端末からデータベースを覗いた。
<<キャプテン、この星がサザンクロスです。美しい青い海と白い雲、地球に似ていま
すね>>
「ほんとうだ、こんな星が在るとは思わなかった。空気の成分は地球と同じか?」
<<キャプテン、少しお待ち下さい>>
「ああ、調べてくれ。この星に水が存在すると言うことは、地球と同じだと思う」
<<キャプテン、地球の空気とほぼ同じ成分でした。重力の数値も近いもので、一日の
時間の誤差も僅差です。温度、湿度も申し分ありません。きっと快適に暮らせると思い
ます>>
「そうか、よかった」
 安堵の胸をなでおろしキャプテンは嬉しそうに微笑んだ。

<<キャプテン、それではサザンクロスの宇宙港と街並みを表示します>>
「うん、楽しみだ」
 画面いっぱいに、キャプテンの想像を超える超近代的な白い宇宙港が現れた。茫然と
した表情でキャプテンは見詰る。青空に白い宇宙港がよく似合っていた。
「うーん、地球の宇宙港とはレベルが違う。おそれいった」
 超高層ビルが立ち並ぶ街を動画で映しだしていた。そして、その映像は立体的に上空
から下降する。よく見ると、各ビルの低層階が筒状のドームで結ばれている。そのドー
ムの中をエアーカーが飛んでいる。そして、ドームの下の層ではリニアカーみたいなも
のが超高速で走っていた。

 そして、映像は地上を映す。地上には車もなく、信号もない。人々はシルバーメタル
の活動的なスーツで身をかためていた。顔付きは、この宇宙船の持ち主だった醜い宇宙
人とは異なり、地球人のコーカソイドを美しくした顔に似ている。そして、優雅な仕草
で歩いている。






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