3回目 「じゃ、聞くが、宇宙連合を象徴するような、ネオのネットカフェをなぜ利用する」 《ええッ、敵の情報や、ものの考え方を研究するためよ》 「ホテルのメイドが何故、敵の情報や思想を知りたがる?」 《えーと、言い間違いよ。手が滑ったの。興味本位に訂正するわ》 「ふーん、怪しいな?」 《宇宙連合の人間の悪いくせだわ、人の揚げ足を取る》 「すまない。ネットカフェのマスターは、どんな人物なんだ?」 《分からないわ。以前、メディアが調べたけど、分からなかったわ。不思議な人ね》
「このネオのネットカフェには殺人依頼もあると、マスターが言っていたが、君は許せ るのか?」 《ええッ、殺人依頼? 聞いたこと無いわ、ふーん、たぶんマスターに担がれたのじゃ ないの?》 「おれを担いでどうするんだ。じゃ、先月、ネオのネットカフェが移転したことは?」 《さあー、この10年間、移転なんか無かったけど。ネオのネットカフェは、闇サイトじゃないわ、まともなネットカフェよ》 「そうか」
《ところで、今日は何を注文したの?》 「えッ、注文? ああ、ゴールデンマウンテンを頼んだけど」 《まあ、珍しいわね。いつもゴールデンマウンテンは、品切れなんだけど》 「そうか、マスターに執拗に勧められて。だって、絵に描いたコーヒが2000コイン だぜ。高すぎると思わないか?」」 《フフフッ、あなたはマスターに気に入られたのよ。それだけの価値はあるはずよ》 「ああ、確かに2000コインは安い」 《マスターはねえ、気まぐれなの。一年間連続で開店していると思ったら、一ヶ月も店 を閉めたりするのよ》 「そうか、ネット上で、旅でも楽しんでいるんじゃないのか」 《どうだか》 「しかし、ほんとうに不思議なネットカフェだな」
《不思議といえば、朝食を食べ終わった時だったわ》 「うん、何かあったのか?」 《ええ、突然、ネオのネットカフェが立ち上がったの。そして、レナの呼び出しがあっ たもので、わたしが応答したの。今まで、こんなこと一度も無かったのに》 「誰かのいたずらか。確かに美女軍団のレナを呼び出したのはおれだが?」 《さっぱり、分からないわ》
「マスターのこと、もっと教えてくれ」 《残念だけど、わたしも分からないのよ。ただ、噂で聞いたんだけど。 マスターは人間ではなく、ウェーブ上の意志を持つ生き物だって》 「それは嘘っぽいな」 《これ以上、マスターを詮索するのはよしましょう。会員を抹消されるわ》 レナには、マスターの正体がおぼろげながら分かっていた。しかし、口にすると会員 を抹消されるので言えなかった。
「ところで、ホテルのメイドの仕事は、おもしろいか?」 《いいえ、脂ぎったおやじに、胸や、お尻を触られて頭にくるわ》 「そうか、おれの働く保育園の園児が、理屈っぽくて嫌になる。ちょっと叱ると、親に 言いつけやがって、親が怒鳴り込んでくる。そのたびに平謝りだ」 《そんなに嫌なら、帝国に亡命すれば。家族はいるの?》 「いや、天涯孤独というやつだ。親の顔も分からない」
《そう、可哀相なんだ。わたしが友達になってやるよ。ごめん。わたし仕事にいかない と、わたしのパスワードは41857326よ。 このパスワードを打ち込めば、他の会員に覗かれなくてすむわ。だけど、ネオには覗 かれるけど》 「そうか、おれのパスワードは56311232だ。帝国のことが少しは理解できた。 ありがとう」 《あのッ》 「何だ、言いたいことがあるのか?」 《信じていいのね》 「ああ、わたしは信ずる友を裏切ったことはない」 《よかった》
運命のいたずらか、これから死闘をくり返すほんものの相手とは、二人とも思ってい なかった。
*『宇宙の光彩』 より ネットカフェのマスターを抜粋。
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