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作品名:ネットカフェのマスター 作者:佐藤 神

第1回   1回目
1回目
 ロックにとって、まだ寝るには早すぎる時間だった。昨日、ナオミから紹介されたネ
オのネットカフェを覗いてみることにした。しかし、ロックは文字が読めないので音声
変換機を通す。そして準備が整い、端末の前に坐って問いかける。

「マスター、ご無沙汰。ロックです、覚えていますか?」
《アッ、いらしゃい。ロックさん。珍しいですね。と、言っても2回目ですね》
「ええッ、忙しかったもので」
《結構な話じゃないですか》

「マスター、何かおもしろい話はないですか?」
《はい、どういう話がいいんですかね。今日は他にお客さんがいないもので、お付き合
いしますよ》
「いや、ナオミからおもしろいので、と言われて、何がおもしろいのかよく分からない
のですよ」
《はい、そういう質問はよく聞きますよ。ナオミさんから、このネットカフェのこと、
どこまでお聞きになりました?》
「えーと、飲み物を注文すると、その飲み物の代金が、このネットカフェの料金として
銀行口座から引き落とされると」

《その通りですよ、お客さん。ご注文は何にしますか?》
「うん、何にしようかな?」
《じゃ、ゴールデンマウンテンは、どうですか?》
「うん、何だか高そうだな」
《フフフッ、お客さん、絶品ですよ》
 ロックは給料日が気になって、端末の右下のカレンダーを見た。
「じゃ、ゴールデンマウンテンを」
《はい、まいど。2000コインになりますけど、よろしいですか?》
「えッ、高いな。まあ、いいか。お願いします」
《いやー、お客さん。昨今の景気が悪いせいか、ブレンドコーヒで3時間も、4時間も
粘る人が多くなりましてね。ゴールデンマウンテンの注文は嬉しいな。はい、お待ち》

「うーん」
 ロックの端末の小窓に、コーヒカップが突然現れた。そして、小窓をクリックする。
すると、ガチャガチャとカップと金属が擦れる音がした。
 ゴトとカップを置く音が聞こえる。そして、画面上にコーヒカップが現れる。ゆっく
りと、やかんというか、水差しみたいなものが現れ、ジャーと、金色のコーヒを注ぐ、
コーヒカップの中もコーヒが増えていく。そして、美味しそうに湯気が立ち上がり、コ
ーヒの香りが漂ってくるようである。

 暫くその映像を楽しんでから、ロックはコーヒカップをクリックした。その途端、画
面上からコーヒカップが消えた。
「マスター、美味しかったよ」
《そうでしょう、自慢の逸品ですよ。高いだけはあるでしょう?》
「そうだね」
 ロックは文明が高度に発達すると、こんなままごとみたいなやり取りをするのかと、
唖然とした。

《お客さん、さっきの話に戻りますが、うちのおもしろいところは色々な情報交換なん
ですよ》
「えッ、情報交換?」
《そうですよ。ハングリーとドリームの試合はどっちが勝ったとか、アーミンの最新の
曲が聞きたいとか、今日の株価はどうだったのか。とかね》
「へえー、じゃ。今日の株価は?」
《はい、平均株価は16422コインの15コイン高です》
「じゃ、銀河系太陽系第三惑星地球のビートルズの曲が聞きたい」
 ロックは少しためらいながら言う。
《えッ、銀河系、地球?》
「うん、ビートルズの曲が聞きたい。頼む」
《いや、お客さんの言っていることがよく分からないな。レアものだから有料になりま
すけど?》
「有料、いくら?」
《まあ、そうですね。大まけで40万コインで、どうですか。お客さん?》
「冗談じゃない、ぼったくりだ。おれの給料は、20万コインだぞ」
 その時、端末の前に坐っていたロックの顔が歪んだ。
《お客さん、人聞きが悪い。そんなこと言っても、その曲を聞くのは、お客さんしかい
ませんからねえ》
「それもそうだな」

《それよりお客さん、お客さん同士の会話を楽しんでみたらどうですか?》
「うん、ブログみたいなもの?」
《いや、ブログはよく分からないけど、皆さん、ハンドルネームで楽しんでいますよ。
有名人になりきって。嘘をつこうが、騙そうがなんでもありですから。極端に言えば、
殺人依頼もたまにあるんですよ》
「殺人依頼だと?」
 ロックは訝った。
《ええッ、警察沙汰になって、このネットカフェに手入れが、入りそうになると閉店す
るんですよ》
「閉店?」
《はい、全てお客さんのデータ消去します。暫く様子を見て、別サイトで開店するんで
すよ。そのことをお店の移転と呼んでいます》
「なるほど、移転か」
《もちろん、そんなお客は二度と会員になれませんがね》
「何だかおもしろそうだな」
《はい、先月も移転したんですよ》
「マスター、その話、詳しく教えてもらえますか?」

《ええッ、お客さんが株で大儲けしたと言っていたんですがね。SECの手入れが入っ
たんですよ。そのお客さん、口が軽るそうだったので危ないと思い、この店を移転させ
たんですがね》
「ふん、インサイダー取引ですか?」
《そうです、そのお客さんは俗に言う遊び人なんですがね、他のお客さんと会話を楽し
んでいるのだと、思っていたんですが、そのお客さんの秘密情報をきいちっやたみたい
なんですよ》
「え、きいちっやた。じゃ、警察に?」
《ええッ、うちとしても、その人の紹介者を含め、会員を抹消しましたけど》
「マスターも大変だね」
《まあ、そういう商売ですから》

《お客さんもどうですか、心を開いて会話を楽しんでは。勿論、警察沙汰になれば紹介
者のナオミさんも会員抹消になりますけど。おっと、お客さんが入ってきた。今日はこ
のへんで》
「うん、ありがとう」

 ロックは時計を見た。寝ようか、このままネットカフェを続行しようか。そして、続
行した。
「おれの名はロック。宇宙連合のスノー事務総長と話がしたい」
 冗談半分で言ってみた。
《スノーだ。待っていたぞ、ロック。戦況はどうだ?》
「はい、事務総長。一進一退の膠着状態です」
《うーん、困ったもんだ。ロック、如何にかしろ》
「はい、これという名案が浮かばないもので」
《ばかもの! 少数精鋭だ》
「と、申しますと?」
《うん、大量の爆薬を積んで、傲慢な帝国星にワープして、そのまま突っこめ》
「そんな、滅茶苦茶な」
《宇宙の平和のためだ。宇宙を救えるのは、おまえしかいない》
「分かりました。明日、決行します」
《うん、死を賭して健闘せよ。武運を祈る。さらばじゃ》

「駄目だ。こんな会話、おもしろくない、不愉快だ」
 ロックは怒りを露にして、時計を見詰て暫く煩悶していた。そして、ロックは腕まく
りをして坐り直した。

「おれの名はロック。美女軍団のレナと話がしたい」
《はーい、レナよ。お元気?》
 ロックは驚愕の表情で画面を見詰る。いきなり返事が返ってくるとは予想外の出来事
だった。
「元気だよ。どこのレナですか?」
《何言ってるの、帝国の美女軍団のレナよ》
「そうか、じゃ、そちらは昼ですか、夜ですか?」
《朝食を食べ終わったところ。雲一つない快晴よ》






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