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作品名:宇宙の光彩プロローグ 作者:佐藤 神

最終回   5

「うん、アッキー、聴いて驚くな。帝国の秘密警察100万人を率いる、女帝カイヤー
の親衛隊だ。その親衛隊長のレナが、レベル3の腕の持ち主だ。」
 防衛主任が得意顔で言う。
「美人なのか?」
「ああッ、地球の美人コンテストの優勝者なんか、足元に及ばない。本物の美人だ」
 そのやり取りを見ていたミラー統括官の眼差しは、アッキーに向けられていた。その
表情には、微笑めいた表情が浮かんでいた。

「防衛主任、そのへんにしたら」
 ミラー統括官が窘めるように言う。だが、パーティー会場の騒ぎは収まらなかった。
「いや、申し訳ない。自爆すると諦めていたのが助かったもので、つい嬉しくなって」
 防衛主任は頭を掻きながら、ふらつきながらステージを下りた。
「ところで、十日後にアッキーは地球に戻りますが、私たちの宇宙にくる気はないです
か?」
 と、ミラー統括官が少し震える声で言う。その瞬間、パーティー会場の騒ぎが静まり
返った。ミラー統括官は極度の緊張のため、今にも心臓が破裂しそうであった。

 それは、アッキーが宇宙海賊8隻を撃墜した時から、ミラー統括官はアッキーの扱い
を煩悶していた。
 ミラー統括官の考えでは、既に宇宙海賊が、”宇宙一強い戦闘機乗りが銀河に現れる
”と、いう情報を宇宙に向かって流したと考えていた。
 もし敵側の帝国が、この話を聞けば間違いなく、アッキーを戦闘機乗りとして是が非
でも欲しがるであろう。仮に、帝国がアッキーを手に入れることが、出来なかった場合
はどうなるか。
 アッキーが宇宙連合に加われば、帝国の最強の敵となる、当然、帝国はアッキーを殺
すであろう。しかし、簡単にアッキーを殺せなかった場合、帝国は地球ごと破壊する恐
れがあると、過去の例からもミラー統括官は分かっていた。
 ミラー統括官の最優先任務は、ある事情により地球を守ることであった。勿論、アッ
キーが帝国の戦闘機乗りになるようであれば、ミラー統括官は容赦なく撃ち殺すであろ
う。

 そのためアッキーの助かる道は、この宇宙船で宇宙連合へ行くしかなかった。それを
拒んだ場合を考え、ミラー統括官の服の中には超小型レーザ銃が隠されていた。

 だが帝国にアッキーを諦めさせるだけなら、アッキーをここで死んだことにして宇宙
に向かって、その情報を流せばすむことだが、長い戦争がそれを許さなかった。
 長い戦争が、互いにスパイを何千、何万人と敵側に送っていたのであった。当然、こ
の地球調査隊の中にも、そのスパイが紛れていると、ミラー統括官は考えている。
 そのため公然にアッキーを殺し、周知の事実とする必要があった。
 地球を守るため、宇宙を守るためにミラー統括官は、服の中の超小型レーザ銃を握り
しめる。
 役目とはいえ、ミラー統括官は命の恩人を殺すとなれば、ミラー統括官もこれ以上、
生きることを望まなかった。そして、その覚悟は既に出来ていた。

 アッキーはパーティー会場をゆっくり見回した。
「宇宙に行くのか、それもいいですね」
 アッキーは力強く言う。
「我々は一ヵ月後に地球から引き上げますけど、同行すると言うことですか?」
 ミラー統括官は緊張した表情で、口調が固かった。
「はい、希望を言わせてもらえるのなら、ナインと暮らしたい」
「そうですか、分かりました。ナインとアッキーが一緒に暮らしますが、誰か、異議は
ありますか?」
 ミラー統括官は安堵した表情で、パーティー会場を見回した。
「はい、わたしもアッキーと暮らしたい」
 その時、シルビア隊長が手を上げた。

「シルビア隊長、アッキーが好きなの?」
 ミラー統括官は、空気の読めない娘という表情で、シルビアを見詰て当惑した。
「はいッ、ナインに負けないぐらい。大好きです」
 シルビアは目を輝かして言う。
「アッキーはどうですか、シルビアが好きですか?」
「ええッ! 可愛くて好きです」
「そう、ナインはどうですか?」
 ナインは目を瞑り、無表情で話を聞いていた。
「はい、好きです。全てを受け入れます」
「うーん、分かりました。ナインとアッキーとシルビアが一緒に暮らしますが、異議は
ありますか?」
 パーティー会場は静まり返った。
「うん! どうなったんだ?」
 アッキーは狐につままれたような顔で辺りを見回した。
「では、科学アカデミー・地球調査隊の責任者として認めます。これよりファミリータ
イプ・509号室へ引越しなさい。そして、3人でその部屋で暮らしなさい」
 本来は祝福の歓声が上がるものだが、ザワメキだけが残った。
「じゃ、ナイン、アッキー。わたしも509号室へ引っ越します。お部屋で逢いましょ
う」
 シルビア隊長は嬉しそうに微笑んで、姿を消した。

「ナイン、理解できないんだが分かるように説明してくれ」
「そう、本当は分かっていたんじゃないの。宇宙じゃ、好きなもの同士が暮らす。一夫
多妻でも、男同士でも、女同士でも、なんでもありよ」
 ナインは不機嫌そうに言った。
「おれがそんなの知るわけないだろう。どうすればいいんだ」
「えー、ミラー統括官が言った通り、3人で暮らすのよ。今日から」
「おれはイスラム教じゃないのに。ふん、まいったな」
「ぐずぐず言ってないで、引っ越すのよ。509号部屋に」
「おい、ナイン、シルビア隊長のことを妬いているのか?」
 アッキーがナインの顔を覗いた。
「フン、地球人じゃあるまし。宇宙人はそんな感情を持っていないわ」
 ナインは引越しのため自分の部屋に向かう。アッキーも慌てて後に続いた。

 ミラー統括官は、背もたれに寄りかかり、緊張した顔を緩ました。そして、手に持っ
たグラスを一気に飲み干した。
「ミラー統括官、お強いですね」
 ミラー統括官には、周りの雑音が耳に入らなかった。
 そして、”命の恩人を殺したくなかった、ほんとうによかった”と、何度も心の中で
呟いた。

 一方、アッキーは部屋に戻って、ベットに坐った。
「ナイン、ここに坐ってくれ」
「どうしたのよ、引越しをしないと」
 仕方なくナインもアッキーの横に坐った。
「おれはこれからどうなるんだ?」
「宇宙で暮らすのよ」
 アッキーはナインの背中に手を回して、ナインを引き寄せた。
「教えてくれ、おれの運命は既に決まっているんじゃないか?」
 アッキーは鋭い視線でナインを見詰る。ナインの顔が曇った。
「ごめんなさい、言えないわ」
「じゃ、科学アカデミー・地球調査隊は何の調査をしている?」
「いずれ分かる時が来るわ」
「宇宙には何があるんだ、素直に教えろ」
 アッキーの手がナインの背中から、わき腹を擦った。
「アーン、ずるいわ」
 ナインの腰が浮いた。
「言います、言いますから許して」
 ナインは髪の毛を掻き揚げる。
「宇宙には、宇宙を支配する二大組織があるわ。その組織が何百年も戦争を続けている
わ。一つはわたし達が所属する宇宙連合。もう一つは敵対している帝国。そして、宇宙
海賊、宇宙マフィヤ、独立星、巨大企業体....それらが宇宙を支配しています」
「うん、その話は大体分かった」

「宇宙戦争の終焉が近づいているの、と言っても30年以上も先のことだけど、ある一
人の男がこの戦争を終焉に導くの、その男はこの地球から出て来るのよ」
「地球人か?」
「分からないわ。わたし達みたいな地球調査隊が分けあって、捨てていった赤ちゃんか
もしれない。宇宙人と地球人のハーフかも知れない。それともそれ以外の....」
「そうか。でも、その救世主は間違いなく地球から出現するんだな?」
 ナインが大きく頷く。
「わたし達は戦争が終わることを願っているけど、戦争によって莫大な利益を貪ってい
る連中は、その救世主が邪魔で抹殺しようとするわ。そのため、科学アカデミー・地球
調査隊が結成されたの」
 ついに、宇宙の扉が開いた。





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