「それで、新人の隊員の代わりに、アッキーに小型高速艇に乗ってもらいたいのです」 切羽詰まった表情で、ミラー統括官が言う。 「ええッ、小型高速艇なんか、乗れませんよ」 唐突な依頼で、アッキーは困惑した表情で断る。 「小型高速艇は、全自動だから問題ありません。あなたには宇宙海賊を手動で攻撃して もらいたい」 「うん! 全自動、手動、よく分かりませんが?」 「そう、わたしも学者なので、よく分かりません。防衛主任、説明を」 「はい」 「あッ、ゲーム・コーナーのおじさん?」 と、アッキーがすっとんきょうな声を上げた。 「うん、わたしのこと?」 防衛主任は、アッキーを見詰た。すると、アッキーが小さく頷く。
「うーん、そうか。ゲーム機だと思っていたのか。君が昨日やっていたのは、全自動小 型高速艇仮想シミュレーション・システムだ」 防衛主任が重々しく言う。 「そうだったのか」 アッキーはゲーム機ではないことを認識した。 「君は、あのシステムでは最高峰のレベル4、つまり1対4を攻略した。1隻で敵機の 4隻を撃ち落したことになる。もし海賊と戦っても4隻なら打ち落とせる。奇跡的な出 来事だ。わたしも過去に、この宇宙でレベル3の1対3を攻略した人間を2人、知って いるがレベル4を攻略した人間を始めてみた。あの後で、シミュレーション・システム をチェックしたが異常はなかった」
「すると、防衛主任、アッキーは宇宙で一番強いと言うことですか?」 「はい、その通りです。これが公になると、アッキーを小型高速艇のパイロットととし て、宇宙中で欲しがるでしょう。例えようのないほど戦力アップします」 「そうですか。それも問題ですね」 ミラー統括官が小さく頷く。 「海賊にとっては、悪魔をあいてにするようなもんだ。だが、シミュレーション・シス テムと実戦は違う。シミュレーションは椅子に座って戦うが、実戦は身体が横になった り、逆さになったり、急上昇すれば重力に押し潰されそうになる。平衡感覚が全然違う 、事前に訓練が出来ればな」 防衛主任は悔しそうに机を叩く。 「防衛主任、ここで愚痴っても仕方ないわ。アッキー、自爆で死ぬか、一戦交えるか決 めて下さい」 ミラー統括官の厳しい目がアッキーを見詰た。 「やりましょう。宇宙海賊を潰します」
「あの、アッキー、何か作戦はありますか?」 顔面蒼白で幼さが残る少女のような顔の隊長が言った。 「そうだな、隊長を先頭におれが続く、敵が現れたらおれが逃げる。敵の半分がおれを 追いかけてくるでしょう。そして、隊長も反対方向に全速力で逃げて下さい。おれは敵 を五分間で全滅させる。そして、もとの場所に戻りますから隊長も敵を引き連れて戻っ てきて下さい。そして、残りを撃墜させる」 アッキーが一気に喋る。 「アッキー、分断まではうまくいくでしょうが、その後の全滅が?」 隊長は首を傾げた。 「まあ、これだけ不利な条件では作戦の立てようもないわ。みなさん、それでやりまし ょう。データ管理主任、今までの調査データがバックアップ媒体に記憶されていますか ら、それを通信用ロケットに詰め込んで下さい。そして、自爆カウントダウンの始まり と同時に、宇宙に向かって飛ばして下さい」 「分かりました」 データ管理主任の声が震えている。 「そうね、ナインはアッキーのサポートに回って下さい、そして、一緒に小型高速艇に 乗って基本的なことは教えてね」 「分かりました、わたしも小型高速艇の講習会を受けていますので、お任せ下さい」 ナインはアッキーと、運命を共に出来るのが嬉しいのか微笑んだ。 「では、こちらから仕掛けよう、隊長、ナイン、いくぞ」 アッキーの力強い声が部屋中に響いた。
3人は宇宙船の中の巨大な格納庫にいた。そして、小型高速艇はその中の密封された 高速艇格納庫で出撃を待っていた。その姿は円盤ではなく、地球の戦闘機より丸みのあ る形をしていた。全長25メートルぐらいのシルバーの機体が神々しい。 「さあ、アッキー。乗るわよ」 機体の一部が扉になっていた。音も無く分厚い扉が上に開き、ナインが乗り込む。そ の後ろからキョロキョロしながら、アッキーが乗り込み、操縦席に坐った。 「うん、ナイン。どうやって操縦するんだ?」 「えーとッ、この小型高速艇の名前はブラックホールだわ、縁起が悪いからミルキーウ ェイに変えるわね。ちょっと待ってて」 ナインが操作卓のキーをカタカタと叩く。 その時、高速艇格納庫の扉が開き、アッキーの瞳に満天の星が映った。 「オー、これが宇宙か。なんて神秘的なんだ」 驚愕の表情でアッキーは、宇宙を見詰る。美しい星の輝きとはちがい、抜き身の刃に 光が反射してどぎつくぎらつく様な気持ち悪い輝きが、空一面を覆っている。 そして、横から青白い暗黒エネルギーを噴き、一本の糸のようにスーッと伸びたと思 ったら、あっという間に消えた。その時、アッキーの顔付きが変わった。
「おい、隊長機が飛んだぞ」 「大丈夫よ、ミルキーウェイ、ミルキーウェイ。これより全自動操作、前方の小型高速 艇の後ろに続きなさい」 <<了解しました>> 女性の優しい声で、小型高速艇のコンピュータが言う。その瞬間、機体が微かに揺れ て、アッキーとナインを乗せた小型高速艇が飛びだった。 「ミルキーウェイ、ミルキーウェイ。前方の小型高速艇は味方よ、認識しなさい」 <<前方の小型高速艇が、発信する船データを認識しました>> 「ミルキーウェイ、ミルキーウェイ。遙か前方の宇宙船は敵よ、認識しなさい」 <<敵と認識しました>> 「その宇宙船から九隻の小型高速艇が出てくるわ、それを撃墜します」 <<了解しました>>
「ねッ、アッキー、分かった。ミルキーウェイと二回連続で言えばコンピューターと連 動するの」 「うーん、さすがに宇宙人の高速艇だ。進んでいる」 「それとね、さっきの会議で防衛主任が言ってた、平衡感覚なんだけど」 「うん、おれも気になっていた」 「まあ、学者のわたしが言うのもおかしいけど、そんな負担にならないわ」 「防衛主任の口ぶりだと、そうとう操縦に影響を与えるように聞こえたけど、コンピュ ーターが、衝撃を和らげてくれるから、心配しなくてもいいわ」 「そうか、ところで、このスクリーンは赤外線レーダか、昼間のように明るく見えるけ ど?」 「いえ、全ての色波長を網羅していると、書いてあったわ」 「ふん、それではっきり見えるんだな」 「それより、緊張しないで、リラックスした方がいいわ。肩に力が入っているから」 「そうだな」 アッキーは前傾姿勢で、瞬きもしないでスクリーンを覗いていたが、ゆっくり身体か ら、力を抜いてシートに寄りかかった。 「うん、早く戦いを終わらせて、ナインとベットで」 アッキーはナインの横顔を見詰て呟いた。 「戦いの最中よ、ちゃんと前を見て....」 <<敵の宇宙船より、小型高速艇九隻がこちらに向かって発進しました>>
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